74.突然の来訪者
円卓会議後の数日間は園遊会があり、探索の任についていた騎士達は任務のため忙しく動き回っていた。
その期間中にはクリスマスの祝いもあり、集まった人々は趣向を凝らした催しに大変満足したようだ。
園遊会が終わると、新年を自宅で迎える者も多く、多くの騎士や諸侯が帰途についた。
人が去り喧騒のおさまった宮廷内は静かで、騎士の館では新任騎士の部屋変えも行われていた。
探索の騎士達は執政の任に変わるにあたり、上階の騎士の部屋に移動になったため、今度はその手配で忙しくしていた。
そんなある日の夕方。
北方執政の任についたばかりの彼が、移動後の執務室の片付けをひと段落させ、東の果ての国から時折届くようになった手紙を読んでいると来客があった。
思いがけない突然の来訪者に、彼は驚いた。
こんにちは、と中央探索の任についたばかりの女性騎士は笑顔で言った。
彼女は以前、新しく東方執政の任についた騎士の使者として、北方探索の騎士であった彼の元を訪れた女性であった。
これは円卓会議が始まる前の彼女の話である。
北方探索の騎士の執務室を辞した後、彼女は彼女の兄の元に戻った。
北方探索の騎士の伝言と共に彼から貰った靴下を彼女の兄に渡そうとしたら、いらない、といって断られた。
困った様子の彼女に、彼女の兄はこう言った。
「君が受け取ればいい」
それは素敵な靴下だった。
彼女はこのクリスマスプレゼントのお返しを、彼に靴下を贈ることにした。
「編み物はバザーでの必需品だから、昔からよく作っているわ!
あら、この靴下、踵がないわ。
こういった編み方は帽子によく見られる…
編む方はきっと急いでいたのね!
せっかくだから…私は別の方法で靴下を編んで、騎士様に贈りましょう」
彼女はそれから暇を見つけては、贈り物の靴下を編んだ。
それがようやく完成したため、彼女は彼の執務室を訪れたのであった。
新たに中央探索の任の騎士に着任した、王の娘である彼女は、北方執政の騎士である彼に、お返しのプレゼントを渡しながらこのように述べた。
「はじめて貴方とお会いした時に頂いた靴下は、兄でなく私が受け取ることになったの。
貴方の言葉で、私は私自身の地位を手に入れるきっかけができた。
私に何ができるか分からないけど、私には私の想いがある。
貴方にお礼を。
ありがとう」
彼は伝えた。
「全く、貴女の行動力には驚かせられる。
中央探索の前任の騎士より、かの任地は最近は危険が少ないという話を聞いている。
しかし南方探索の任にある騎士の失踪のように、災いは突然降りかかるもの。
探索の任において、身にかかる災いは結局のところ自身で振り払うしかない。
また…これは私の推測に過ぎないが。
貴女が探索にかけられる時間は、貴女の兄の立場を考えると、短く思える。
貴女の兄は王から騎士の席への異動を反対されていた故、来年の会議までに王が調停より戻られれば、現在の地位を失う恐れもある」
彼女は笑った。
「私もそのように思う。
私達は王の子どもであっても、騎士の地位には不足ある者とされ、有力な諸侯の後ろ盾もない。
今年の会議の様子を兄や知り合いの諸侯から聞いて、貴方達が探索にて何を得たのかを私も知った。
探索の騎士の席についた私には、できることがある。
またお会いしましょう。
厳しくも優しい騎士様」