70.探索の任にある騎士とは-2
円卓会議三日目の朝。
北部総督の任にある騎士は、面会時間少し前に財務卿の執務室を訪れた。
財務卿は早朝から会議の準備をしていたようで、彼を迎え入れると、手元の書面から目を上げ、朝の挨拶をした。
中央探索の騎士は執務室の机の上に、持参したクリスタルガラスの杯を置くと、財務卿に問いかけた。
「昨晩、北方執政の騎士から北方辺境伯夫妻との話し合いの内容を伺いました。
…やはり、これは必要だと思い、ここに持ってきましたが」
財務卿が軽く頷くと、使い方を教えて頂けますか?と、彼はさらに問いかけた。
財務卿はしばし黙考し、ゆっくりと口を開いた。
「では聖杯の使い方を説明するとしよう。
聖杯とは、騎士の席にある者だけが行使できる権力の象徴である。
それと同時に、その権力を顕現できる装置としての役割も備えている。
聖杯を使用できる者は騎士の席にある者のみで、その対象も騎士の席にある者に限定される。
聖杯を自分自身のために使用するのであれば、自分の部屋で全ての作業を行なうことができるが、他の騎士のために使用するのであれば、前もって準備しなければならないものがある」
北部総督の任にある騎士が不思議そうな顔をする。
財務卿は話を続けた。
「聖杯の被使用者の直筆の、騎士への想いを綴った文書と、古い文献には記載があった。
使用者の部屋でその文書を焼き、燃やした灰を聖杯の中に入れる。
灰は聖杯の中で赤い液体に変わるので、聖杯ごと全て床に溢す。
赤い液体と聖杯は床の上で割れると、部屋に吸い込まれるように消えてなくなる。
…これで古の約定が成立する」
中央探索の任にある騎士が尋ねる。
「騎士への想いを綴った文書…
財務卿は何かお持ちでしょうか?」
財務卿は首を振る。
「メールで何通かは該当する文書があるが、これは直筆でなければならない。
これも古の決まりによるものである」
「僕も彼女とのやり取りは、全てネットワーク経由のものだし。
いや…ひとつだけ、
最近目にしたものがある」
「それは誠か!」
「宮殿の、宰相殿の執務室へ行きましょう。
彼女が持っているはず」
財務卿と中央探索の騎士は宰相の執務室へ向かった。
国一番の魔術師であり宰相である彼女は、円卓の会議には参加しない。
執務室内で通常の仕事をこなしていると、財務卿と中央探索の任にある騎士が、彼女の元を訪れた。
礼儀もそこそこに、中央探索の任にある騎士が彼女に尋ねる。
「先日の…貴女へのプレゼントであるクッションの中に入っていた、南方探索の騎士からの手紙はまだお持ちでしょうか?」
宰相である彼女は答えた。
「もちろん、大事に取ってあるわ。
それがどうかしたのかしら?」
「その手紙を僕達に譲って貰えないでしょうか?」
北部総督の騎士は宰相である彼女に、事情を全て説明した。
宰相である彼女は頷いた。
「貴方のお話は理解しました。
彼女を救うために必要なのね。
私にとってとても大切なものだけれど、貴方に渡しましょう。
彼女が無事、早く私達の元へ戻ってきますように」




