6.ひとりの騎士の任務の旅-4
これは探索の騎士である彼が、羊毛を巡る一連の事件に関わるきっかけになった出来事である。
彼は旅先で偶然ある東の国の女性と知り合い、彼女の身に起こった出来事を知ることになった。
彼女は彼にこのような話をした。
「私はある国の商人から、珍しい毛糸を購入した。
届けられた荷物を見て、私はとても驚いた。
そこには送り主によって、少し糸が切られた、ひとつの毛糸があった。
そしてさらに…もうひとつ、荷物の破損により傷つけられた毛糸があった。
それを行ったのは間違いなく送り主である商人で、私はそれについてこれ以上言及するつもりはない。
彼らは荷物を傷つけて送る。
そんな彼らは必ず誰かを傷つける。
私以外にも傷つけられる人がいるかもしれない。
彼らは何故、毛糸を購入した相手を不快にさせるような、このような事件を繰り返すの?
私には彼らの言動が理解できない。
どうしたらこの悲しい事件を二度と起こらないよう、この事件を最後に終わらせることができるでしょうか?」
彼はまず、彼女に他の人にこの話をしないように念を押した。
「あまりこの話を大声でいろんな人に話さないほうがいい」
「なぜですか?」
「君がこの話を誰かにしたとしても、それが君にとって利益になるとは限らないからだ。
君の話の内容からすると、さらなる悪意が君を襲う可能性だってある。
悪意を受けた人間は、悪意を受けやすくなる。
悪意ある人間の中には、他人の言動を真似て、横から利益を奪おうとする人間も多い。
特に君の国にはその傾向があるようだ。
君は話をする相手を、慎重に選ぶ必要がある。
…君にこの私の国の話をしよう。
この話は君にとって有効な話であるように思う。
悲しい不幸が訪れた君に、喜びをもたらす新たな幸運が訪れるように」
彼はそう彼女に話すと、羊毛の事件とは別の話を始めた。
それは彼自身が世界中を探索した時に体験した話で、とても長い話だった。
彼女は彼の話を黙って真剣に聞いていたが、彼の話を聞いているうちに次第に笑いが込み上げてきたようで、最後にはそれは作り話よね、と彼女は大笑いしながら彼に言った。
彼は彼女に、本当の話が9割で1割が私の推測の話さ、と真面目な顔をして言った。
笑う彼女を見て、彼はほっとしたようだ。
『君に訪れた悲しい不幸など忘れ、喜びをもたらす新たな幸運にこれから臨めばいい。
いつか君が悲しい過去を忘れ、喜びをもたらす未来を手に入れられるように。
君にこの世界に満ちる驚きを、この世界からの解放を、この世界の美しさを、この世界のもたらす素晴らしさを、全て受け入れられるように』
彼は昔、彼に伝えられたある人の言葉をなぞって、彼女に彼の話を手渡した。