64.円卓会議における騎士および諸侯の調整-3
財務卿は顔を上げて、続きを、と中央探索の騎士の発言を促した。
中央探索の騎士は、彼が抱える疑問を口にした。
「聖杯を手に入れたものの、僕にはまだ使い方がよく分からなくて。
手に入れて日も浅く、まだ調べられていない。
今日会議室で起こった出来事は、財務卿、貴方の起こした奇跡ですよね」
財務卿は頷いた。
続きを、と彼は中央探索の騎士に話を続けるように言った。
貴方がかつて、南方探索と南部総督の任にあったことは、この国の騎士なら誰もが知っていますから、推測をお話ししただけです、と中央探索の騎士は肩をすくめた。
「なるほど。そういうことか。
貴公の話は分かった。
…ひとつ忠告をしておく。
聖杯はまだ使うな。
それを使うのは最後の手段だ。
今日の会議室での出来事でおおよそのことは分かったと思うが…
聖杯を使えば、聖杯の対象となった騎士は誰かの作為により騎士の席を追われることもない代わりに、自分が望んでも騎士の席から離れることもできなくなる。
今回は私自身の選択の結果であったが、次は君ではない者にその不幸が訪れることになる。
また聖杯が割られた後に朱く染まった部屋を元に戻すには、2名の騎士の席の異動が必要である。
これは我が国の始まりに存在したとされる創造の魔術師による、国難を会議室に集合した騎士や諸侯が知るための警報システムのようなものであると、私は考えている。
以前、東方領の諸侯に調査したいと詰め掛けられたこともあるくらい物珍しいものらしいが、魔術師の使う業には制約もあり、私はそれに干渉できない。
騎士の席の異動は頻繁に起こるものでもなく、起こしてよいものではない。
軽はずみに行うことは国の安定を揺るがす行為であり、国の崩壊へ繋がる行為でもある。
騎士の席とはそれだけの権力と責務を必要とするものだ。
君もくれぐれも早まった行動に出るでない」
つまり騎士の席に座るには相応の覚悟が必要だということだね、と財務卿が言うと、彼はそうなのですね、と笑った。
「貴公のおかげで、北部総督の席が埋まり、南方探索の席の留任がなされそうだ」
君に礼を述べねばな、と財務卿が言うと、中央探索の騎士は首を振った。
「今回の件で僕がこれから何をやるべきか、気づきました。
北部総督という執政への推挙の件、ありがとうございます」
中央探索の騎士はさらに一礼すると、財務卿の部屋を後にした。
財務卿は彼の後ろ姿を見送ると、王と彼の騎士が行なっている調停がこれでおさまると良いが、と呟き、来客案内の者に、次の客人を迎え入れるよう、声をかけた。




