59.王の子どもの話-2
彼女は朝から忙しくしていた。
その教会はクリスマスバザーの準備で賑わっていた。
子どもの彼女は大人に混じって手伝いをしている。
バザーでは、クッキーやケーキ、手編みの手袋や帽子、靴下などたくさんのものが販売されるため、ラッピングや陳列など、子どもであっても手伝いすることはたくさんあった。
「猫の手よりも優しい子どもの手が欲しかったの。
貴女のお手伝いは大歓迎よ」
教会の皆がそのように彼女を受け入れてくれる。
彼女はこの場所が昔から大好きだった。
彼女の双子の兄がやがて帰ってきた。
両親と出かけたはずだか、何故かひとりで戻ってきたようだ。
理由を尋ねると、人混みの中で両親とはぐれ連絡を取る手段がないから、急いでここまで戻ってきたという。
まあ大変、と教会の人間が慌てて彼らの両親に連絡を取る。
両親も彼を探していたらしい。
電話先でやり取りしていた教会の人間が、貴方に代わってほしいとのことだからと、彼に受話器を渡す。
彼は無表情のまま、それを受け取った。
彼がもしもし、と話すと、電話の向こうの相手は両親…養父であったようで、彼がよく知る声が聞こえた。
『その教会までよく戻れたな。
しかし私と妻を心配させたのは、迷子になった君の失態だ。
今年はそこから一歩も動かず、街には出かけるな』
彼は養父に、貴方達がショーウインドウのドレスに見惚れて目を離したのが悪いんじゃないか、と言うと、養父は興奮気味に、これは大切なことだったんだ、とまくし立てた。
取りあえずそこで待っているように告げると、電話を切った。
その話を聞いた彼は黙ったまま、しばらくクッキーやパンを捏ねる作業を手伝っていた。
何事か考えていたらしく、少年の思惑は彼女には分からなかった。
いつものことよね、と彼女はそのままクリスマスバザーの手伝いを続ける。
やがて教会に養い親が彼らを迎えにやってきた。
彼らはひとりで戻った少年に、はぐれて迷子にならないように、と大人らしく彼に注意した。
彼は黙ったまま頷いたが、どこか上の空であった。
彼の両親は顔を見合わせ、なんてことだ、と囁き合う。
養父は彼に切り出した。
「お説教はここまでにして、と。
君の冒険譚の詳しい話を聞かせてくれないか?」
と少年の小さなひとり旅の話を聞き出そうとした。
彼は我に返り、小さく頷いた。
彼女は横で黙ったまま、どこか面白げな顔の養い親と平静を取り戻した少年の話に耳を傾けた。
私はこの場所が好きだわ、といつものように、彼女はほほ笑むのだった。




