58.王の子どもの話-1
これはある国の王の、2人の子どもの話である。
子どもは男の子と女の子で、同じ年の同じ月、同じ日に生まれた。
彼には彼の、彼女には彼女の物語があったが、その始まりの話である。
まだ肌寒い春の朝、古い教会の前に2人の子どもが置き去りにされていた。
子どもたちは暖かい毛布に包まれた籠の中で、すやすやと眠っていた。
教会の者が抱き上げても、全く起きる気配もなかった。
籠の中には、母親であろう人の手紙が添えられていた。
2人の名前。
2人が同じ日に生まれた兄妹であること。
ある事情により、養育が難しいこと。
身寄りのない2人を離さず、一緒に育ててほしいこと。
もし実親と名乗る人物が現れたら、それは母親の私ではないため、渡すことを拒否してほしいこと。
2人を無事元気に育ててほしいこと。
手紙には母親が誰であるのか、書き添えられてあった。
教会の者は手紙の内容から、彼女に訪れた不幸を察した。
教会の人間は善良な者であったため、手紙の内容通りに子ども達を育てた。
2人の子どもは、教会の者から養い親に預けられ地方へ引っ越したが、親の仕事の都合でたまに生まれ育ったこの教会まで、2人一緒にやってくる。
ある国の首都を彷徨う少年がひとり。
その子どもは地方から両親に連れられやってきて街を移動していたが、うっかり迷子になってしまった。
滞在先は迷子になった場所からは離れている。
携帯電話も持っていないため、両親と連絡を取ることもできない。
それでも彼は冷静だった。
彼は両親とここへ来た時に、黄色のICカードを渡されていた。
もしものために自分で持っておくといいと、養父から渡されたものだ。
彼は迷いなく街を疾走する。
街は観光客で溢れかえっており、彼を気に留める者はほとんどいない。
赤から青く「歩け」と信号が変わると、彼は交差点を一気に駆け抜ける。
近道の公園は開園していたので、リスがうろつく栗の木の前や、アヒルに餌をあげる老人の横を通り過ぎ、表通りまで辿り着いた。
目の前には、赤い二階建てバスがちょうど停車したので、番号と行き先を確認した彼は、それに飛び乗った。
バスは彼を乗せて市街地から郊外へ向かう。
バス停毎に異国語混じりの言葉で到着地を告げるアナウンスが流れる。
英雄の像が立つ一方通行の交差点と、古きと新しきが立ち並ぶビル街を抜けてしばらくすると、バスは最終目的地に辿り着いた。
終点の合図と言わんばかりに、階下から二階の床が激しく叩かれる音が聞こえた。
彼はバスの出口でカードをかざし、飛び降りた。
しばらく通りに沿って歩いていくと、小さな教会があった。




