53.騎士および諸侯による円卓会議の始まり-3
円卓会議は騎士の館の地下にある会議専用の大会議室で行われる。
これは遥か昔にこの国が起こった時からの決まりごとであり、他の場所で開催されることはない。
円卓会議は王、騎士、諸侯にしか参加を許されておらず、他の者は部屋に入ることすらできず、これはこの国の宰相や他の魔術師も例外ではない。
ただし会議は毎年参加自由であるため、国を揺るがす大きな事件や、騎士や主だった諸侯の異動がない年は参加者も少ない。
今年は近年稀にみる数の騎士の異動があるとのことで、朝早くから諸侯が騎士の館のエントランスホールにつめかけて騒がしくしている。
間もなく会議は開催される。
高位の騎士である彼の、建物の最上階にある執務室までは、諸侯達のざわめきは届かない。
最近では宮殿の執務室で仕事が多いため物置状態と化しており、先日会議のため久しぶりに執務室の扉を開けた。
騎士の在任期間が長いため、彼の部屋には報告書や任務記録、任務の過程で得たものが所狭しと詰め込まれており、中には埃を被っているものすらある。
騎士の席から離れる時に片付ければよいか、と彼は思っているため、普段は開かずの部屋として全て放置されたままであった。
彼は部屋の隅まで歩き、書棚を開けた。
長らく開けられていない開き戸を開けると、上段の片隅にクリスタルガラスの杯が鎮座している。
彼はそれを取り出すと上に持ち上げた。
窓ガラスからわずかに差し入る、冬の太陽の光を反射して虹色に輝いている。
最初にそれを発見した時と変わらぬものであることを、彼は確かめる。
「まさかこれを使う日が来るとは思っていなかった」
彼はクリスタルガラスの杯を執務机の上に置くと、机の引き出しの中から紙とペンを取り出し、何かを書き始めた。
彼は書きながら、クリスタルガラスの杯を見つけた当時の出来事を思い出していた。
もう何十年も昔のことであるが記憶は薄れていない。
彼は書き終えると、紙を2つ折りにして、クリスタルガラスの杯の中に入れた。
クリスタルガラスの杯を目線の位置まで持ち上げ、ふっと手を離す。
クリスタルガラスの杯は床に落下し…儚い音を立てて砕け散った。
先日彼はある諸侯からこのようなことを尋ねられた。
『貴方の孫娘だ。彼女の失踪は貴方の失態ではないのか?』
彼はかつて彼と彼の孫娘に起こった悲しい出来事を思い出した。
あの時は救えなかった。
それは彼にとって、あまりにも苦い経験だった。
「急がなくては。
まもなく今年の円卓会議が始まる。
皆が待っている」
これでこの部屋での用事は全て済んだな、と彼はとても満足そうに呟いた。




