42.西方執政の任にある騎士の息子と宰相の話-2
この国の財務卿の任にある騎士は、宮殿の廊下を急いでいた。
悠然とした物腰で歩く彼の姿を見慣れている者達は、早足で横を通り過ぎる彼の形相を見て、思わず振り返る。
中には、何事か、と訝しげな視線を向ける者もいる。
彼の執務室から国の宰相である魔術師の執務室までは、さほど遠い距離ではない。
しかし、今は時間が惜しい。
彼が廊下を歩くスピードはさらに早くなる。
先ほど彼が執務室にて受け取ったニュースは、ある重大な事件の知らせだった。
南方諸国の政情不安定な地域にある国での内乱。
その地域では以前からそのような事件が度々起こっていたが、しばらく落ちついていた。
しかし…世界中にあの病が蔓延した時期以降、治安が悪化していた。
先日ある港街で、紛争かもしくは侵略行為かは不明である…国籍不明の船団が港に侵入し、砲撃が始まった。
港街では市街地付近でも、火の手が上がっているようだとのことだった。
しかも最悪なことに、現地に滞在中のこの国の円卓の騎士のひとりが、この事件に巻き込まれたらしい。
彼には一報が伝えられたのみで、詳細な情報は届かず、事件に巻き込まれた騎士の消息も不明だ。
この国の宰相である彼女の元になら、彼の持つ情報提供者とは別の者から、何か他の情報が入ってきているかもしれない。
「まだこのようなことが起こるのか。
どれだけ祈っても、止むことがない。
どれだけ手を尽くしても、終わることがない。
誰もが静止の言葉には耳を傾けず、別の何かを代償に求めようとする。
一体何度このようなことが起これば、誰もがその愚かさに気づき、争うことを止めるのか。
それはさておき。
…今は何より、南方探索の任務に向かった彼女の無事を確認せねば」
先日の出国の前には、ある契約の書類の認可を求めて彼の執務室にも顔を出しており、行って参ります、と元気に挨拶をして立ち去ったばかりであった。
彼女の行き先もその時に確認していたが、彼女はその国には辿り着いておらず、道中にある国に渡航用の私物が残されているとのことであった。
内乱が起こった国付近の地域は、どこの国とも情報が上手くやり取りできない状況になっているとの情報が、彼の部下達からも彼の元に届けられている。
一国の内乱でなく、政情不安定な地域一帯を巻き込んだ大規模な他国間戦争の可能性も考えられるな、と彼はいくつかの報告書を睨む。
とにかく情報が欲しい、と彼は席を立ち、いくつかの書類を携え、財務卿の執務室へと向かっていた。




