39.北方探索の任にある騎士とある夫婦の話-3
先日任地より帰国したばかりの北方探索の騎士は、騎士の館にある彼の執務室で雑用に追われていた。
部屋は全く使われていないにも関わらず、手入れが行き届いている。
旅先で済ませることができず手付かずであった案件を、いくつかの連絡とともに片付けていく。
東の果ての国で起こった羊毛の事件の主にも返信を送る。
日が陰りはじめる頃、彼の知己である北方辺境伯夫妻が執務室を訪れた。
彼らの来訪に北方探索の騎士はああ、と喚声をあげる。
北方探索の騎士と北方辺境伯の騎士は、硬く握手を交わした。
「君と会うのは一体何年ぶりだろうね…古き友よ」
北方探索の騎士は驚き喜び、彼らを執務室奥へ迎え入れた。
「友よ。そしてその奥方よ。
久しく会うことがなかったが、何の変わりもないようだ。
私達の故郷である北方辺境伯領はここからはるか国の北の果ての地であり、帰省することもままならない。
彼の地はあの病による被害も大きくならず、平穏な日々が続いていると聞く」
北方辺境伯は笑顔で答えた。
「君の言う通り、あちらは相変わらず穏やかな日々が続いているよ。
最近は風光明媚な場所柄か、国内や海外からの観光客が増えたようだ。
みな忙しく、活気が戻りつつあるよ。
北方諸国の様子はどうだい?」
近況報告は続いた。
彼ら二人の横では、北方辺境伯の妻がほほ笑みながら相槌を打っている。
話の間に、日はすっかり暮れ窓の外には暗闇が広がっていた。
遅くなってしまったね、と北方辺境伯は隣で微笑む妻に声をかけた。
「それではお暇しようか…
そうだ。
この後、予定が空いていれば、夕食を一緒にいかがかな?」
北方辺境伯からの提案を、北方探索の騎士は受け入れた。
「ぜひ。
まだまだ話したいことは山ほどある」
それまで何も言わなかった北方辺境伯の妻が口を開いた。
「私も貴方とお話ししたいことがあるの。
でもその前に…これを」
彼女から渡されたのは、白い包装紙と金色のリボンでラッピングされた、小さなプレゼントだった。
「これを私に?」
「ええ。
この季節、宮廷内ではクリスマスの贈り物合戦が行われていると聞いているわ。
私達はこの季節滅多にこちらへは来ないし、お土産よ。
今日も宮殿の皆に渡してきたわ」
プレゼントを受け取った北方探索の騎士は、彼女の顔をじっと覗き込んだ。
彼女のほほ笑みは変わらない。
「クリスマスまで待たずに、今すぐにこれを開封してもよいだろうか?
友人が大切にしている、妖精の君よ」
彼女は大きく笑った。
「そんなに警戒するようなものではなくてよ。
ええ、どうぞ。
プレゼントが既に手元にあるにも関わらず、クリスマスまで待つのはとても辛いことだわ」




