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羊毛を巡る一連の事件について〜ある国の騎士達の物語〜  作者: さばとらのはは
1-1. ある東の国での毛糸にまつわる事件
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3.ひとりの騎士の任務の旅-1

彼は海を越え、赴く先々でたくさんの人達と出会い、いろんな話をすることになった。

これから語られるのは、羊毛に関わる話である。


彼は隣合う二つの国で、ある毛糸が違う値段で売られているのを目にした。

よくある話である。

片方の国でそれを売る者に、彼はいくつか質問をした。

すると…

「この二つの毛糸は同じものです」

「この二つは違うものだと、ここに説明文が書いてある。

それはあなた方が書いたものだ。

なのに何故、同じものとして売るのだ?」

「名前を省略すれば…この二つの毛糸は同じものです」

彼は続けた。

「隣の国では同じあなた方の店にも関わらず、ずいぶん高い値で同じ毛糸が売られていた。

どうしてこのようなことが起こるのだろうか」

彼がそのように尋ねると、おかしなことをおっしゃるものだ、と店の店員は笑った。

「この毛糸はこの国で生産していますから。

違う名前でも同じ材料で作られていれば値段が同じであるし、違う国で販売されれば値は変わります」

これはこの国で作ったのではないのか?と素材表示を見た彼が尋ねると、

「…私達の国とはそのようなものですよ」

あまり深く追及しないで下さい、と店の者は苦笑した。



ある国ではこのようなことがあった。

彼に示された情報には、重大な誤りがあった。

生産国が異なっているのだ。

彼はそれを指摘した。

「なぜこのような偽りを?」

「私達のものは素晴らしい。それはあなたが持たないものだ」

彼は首を傾げた。

「素晴らしいものであれば、偽る必要がないのではないか?」

店の者は、がっくりと項垂れた。

「偽らなければ…売れないのだ」

私達の国とはそのようなものですよ、と店の者は大声で笑った。


またある国では。

なぜか間違ったものを何度も渡してくるのだ。

その度に彼はその事実を指摘し、相手は別の新しいものを手渡す。

彼の手元には間違ったものも、新しいものもそのまま残っている。

彼は不思議に思い、尋ねた。

「なぜこのようなことを?」

「貧しい人達を助けるためだ」

彼は貧しいから指摘して新しいものを貰っている訳ではない、と思ったが、間違えのあるものはそれを必要とする誰か別の者に渡せばいいかと思い、そのまま大事に受け取っておいた。

真実は、他の者と擦り合わせを行えば正されるか、とも彼は考えた。

「だったら、別の方法で助ければよい」

彼は彼らにため息をつきながら、最後に伝えた。

そんな彼に店の者はこのように言った。

「私達の店とはそのようなものですよ」

隣の店と比較しないで下さいね、と彼らは念を押した。


ちょうど二年ほど前から、彼の国では揉め事が多くなった。

病と調停中の戦の余波で、国中が貧しくなったためである。


国中の人々の中には、自分の権利だけを主張する者も増えた。

「それは私のものだ!」

彼らは誰に対してもその言葉を使い、中には無理やり相手のものを奪いとり、人を傷つける者もいる。

それを表立って行う者もいれば、人が見ていない場所で隠れて行うものもいた。

全て同じ結末が待っている、と彼は考えた。

このようなことが続けば国は荒れ、崩壊を招き入れることになる。


「なぜこのようなことが起こるのだ?」


彼は円卓の騎士。

国を揺るがす不安の芽は、事前に確認し摘み取らなければならない。

数々の揉め事に疑問を抱いた彼は、その原因を探ることにした。

もちろん、任務である聖杯の探索も忘れてはいない。


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