32.北方辺境伯とその妻である王の姉の話-4
北方辺境伯夫妻が退出した後、宰相である彼女は執務室の扉を閉めた。
これで本日の来客はおしまいである。
自ら紅茶を入れほっとひと息つきながら、窓の外に視線を向けた。
もうすっかり日が暮れ、暗闇が訪れていた。
まもなく一年で最も昼が短い日を迎える。
先日宮殿の中庭にある大きなもみの木には、色とりどりの飾りと数百にも及ぶ電球が取り付けられ、華やかにライトアップされた。
その周囲では宮殿を訪れた人々が記念の写真撮影を行なっているようで、フラッシュが中庭の各所でたびたび光っている。
先ほどまで彼女と話をしていた北方辺境伯夫妻も、その集団に混ざって撮影会を始めたようだ。
宰相である彼女の執務室の窓からは、クリスマスのライトアップを楽しむ人々の様子がよく見えた。
「本当に月日が過ぎるのは早いこと。
皆が楽しそうで、本当に良かった。
あの病が広まって、しばらくはこのように人々が集う光景も見られなかった。
そうね…彼女の言うとおり、この国にもようやく活気が戻ってきた。
王と彼の騎士による調停が終われば、もう少し世の中も落ち着きを取り戻すでしょう。
時の魔術師でありこの国の宰相である私のやるべきことは、後は何が残っているかしら?
小さなものを数えれば…キリがないのはいつものことだけれど。
今年のように国内の諸侯が大勢集まる円卓会議も久しぶりね。
そうだわ。
彼らが自分の任地を不在の間、この国の各地で何ひとつ大きな問題が起こらないよう、いくつか私の方でも手配をしなければ。
このような時のために、私の魔法はある。
でもその前に」
この国の宰相であり魔術師でもある彼女は、自室の隅にある大きな姿見の前に立つと、緑色のドレスに一瞬のうちに着替えた。
「私はこのドレス、とてもよく似合っていると思うのだけれど…
どうして彼女はあまり似合わないなんて言ったのかしら。
彼女は我が国に伝わる、あの古の物語に出てくる緑の帯をした女性と私の人間性に大きな違いがあると言っていた。
物語の女性は、とても異性との駆け引きが大好きな女性だわ。
確かに私はあまり得意ではないかもしれないけれど…
それは私が女性であっても、この国では特別な役割を担っているからにすぎない。
でもドレスが似合うかどうかは別の問題よね」
そのような独り言を宰相である彼女は呟きながら、しばらくの間、姿見の前でくるくる回って自分の姿を眺めていた。
東の果てにある国からの贈り物は、どうやら彼女のお目にかなったようである。




