31.北方辺境伯とその妻である王の姉の話-3
宰相である彼女は正解よ、と微笑んだ。
肩に掛けてあったショールを外すと、それを緑の帯を纏う彼女に手渡した。
「どうぞ。ゆっくりご覧になって」
「これは…とても貴重な物ね。
これは北方諸国のある国でしか手に入らない羊毛の細い毛糸を、編んで作られたショール。
この国でお目にかかることは滅多にない。
本当に美しい糸と造りだこと。
とてもしなやかで柔らかい肌触りね。
…見せて頂いてありがとう。
お返しするわ」
緑の帯を纏う彼女はそのショールをひとしきり堪能した後、宰相に手渡した。
その様子を見ていた北方辺境伯である彼は、彼の妻にささやいた。
「君のそのように驚いた顔…
君の話から察するに、これは北方探索の騎士が持ち帰ったものだろう。
一体彼はどこからそのようなものを持ってきたのか。
詳しく知りたいかい?」
北方辺境伯である夫の言葉に、妻である彼女は少し考えた後、そうね、と呟いた。
「本当に素敵なショールだけれど…このショールは私には必要のないものだわ。
同じような羊毛の毛糸が作られている北方辺境伯領でもこのようなものを作りたい、と思っただけ。
そのための材料も人手も、北方辺境伯領内には揃っている」
緑の帯を纏う彼女は、俯きながらそのように答えた。
北方辺境伯である彼女の夫は、俯く彼女にさらにささやいた。
「とても悔しそうな表情をしているね。
君の気持ちは、私にもよく分かる。
せっかくの機会なので、もう少しこのショールの事情を追求してみないか?
宰相殿にこの贈り物をした主は、幸いにして私の知己で同じ北方辺境領の出身だ。
北方探索の任から帰国し騎士の館に滞在しているとのことだし、これから彼に詳しく話を聞いてみないか」
夫である彼の言葉に、緑の帯を纏う彼女は強く両手を握りしめ、大きく息を吐いた。
「そうね。貴方の言う通りだわ。
このようなものをどこの誰から入手したのか、それだけでも突き止めなければ。
それも私の役割のひとつ。
ありがとう、宰相殿。
このような機会を私に与えて下さって。
年末の催しで会えるのを楽しみにしてるわ」
国一番の魔術師であり宰相である彼女は困ったような顔をして答えた。
「あなた方と彼の騎士の間柄は、私もよく知っている。
…この件は、彼にとって予想外の出来事でしょうね。
私への贈り物が、彼とあなた方との争いの元になるかもしれないなんて。
二人ともお手柔らかに、ね」
緑の帯を持つ彼女はにっこりとほほ笑んだ。
「この件に関しては、貴女より私の方が適任よ。
そうだわ、忘れるところだった。
貴女へ私から贈り物を。
こちらに来る際に、北方辺境伯領の編み物の得意な人々に作ってもらったの。
彼らはとても親切だから、急ぎであったにも関わらず、快く私のお願いを聞いてくれたわ。
どうぞ、これを貴女に」
北方辺境伯の妻から宰相へ手渡されたのは、白い包装紙に金色のリボンがかかったプレゼントだった。
宰相である彼女は受け取ると、お礼を言った。
「…ありがとう。
これから彼の騎士との争いに向かう貴女に、時の祝福がありますように。
では年末の催しで、またお会いしましょう」




