30.北方辺境伯とその妻である王の姉の話-2
緑の帯を身に纏った彼女は笑った。
「あら貴女。
私と緑のドレスで張り合うおつもりなのかしら。
緑色はあの街出身の魔術師である私に一番似合う色。
私も今年の年末の催しには参加するつもりなの。
催しで纏うドレスを仕立てるために、深緑の生地を世界で一番の絹の国から取り寄せたの。
とても美しい生地よ。
先ほど我が国一番の仕立て屋で縫製をお願いしてきた所なの」
「ずいぶん気合いが入っているのね」
「今回の帰省は本当に久しぶりだし、年末の催しにも出席することになったから…いろいろ準備したのよ。
あの病が広まって以降、北方辺境伯領内では活気が消えてしまった。
けれど、今年はそれが取り戻せたみたい。
領民の間に笑顔が戻ってきたわ。
とはいえ…まだ以前とは比べ物にならない。
私も自分の役割を果たさなければ。
私も自分のやるべきことを果たすために、夫にお願いして一緒に連れてきてもらったの」
北方辺境伯である彼の騎士は言った。
「心優しく責任感の強い私の妖精の君の、お願い事は理にかなっているからね。
一緒に連れてくることにしたんだ。
ここ数年の憂い顔が嘘のように、最近の彼女は明るくなった。
しかも宰相である貴女が緑の絹のドレスを年末の催しで纏うと聞いた時の彼女の驚きとはしゃぎようときたら…
いや、すまない。
私は妻の頼み事にはとても弱いんだ。
今回の私達の訪問が、忙しい貴女の気分を害さないものであるといいが。
あまり気を悪くしないでほしい」
北方辺境伯である彼はさらに話を続けた。
「先ほど、宮殿内である噂を耳にした。
貴女へのクリスマスの贈り物合戦が始まっていると。
それは探索の任にある3人の騎士がはじめたことだという。
この部屋には既に3人からの贈り物が置いてあると、先ほど財務卿から聞いたのだが」
国一番の魔術師であり宰相である彼女は頷いた。
「ええ。
3人からの贈り物はこの部屋の中に既に置かれているし、あなた方が見える場所にある。
それが何か、あなた達には分かるかしら?」
北方辺境伯夫妻は宰相の執務室を一周し、調度や備品を眺めた。
北方辺境伯の騎士は分からないと首を横に振った。
彼の妻であり緑の帯を持つ魔術師である彼女は答えた。
「私が分かるのは、ただひとつだけ。
貴女が今まで持たなかったもの。
貴女が気にもとめたことのないもの。
貴女が持っていても何の不思議もないもの。
そして我が国でもそれと同じようなものが作られている。
そう…私達の領地でね。
貴女が持つそれを、私に見せて頂いてもよいかしら。
せっかくの機会なので、手に取ってじっくりと見てみたいわ」




