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羊毛を巡る一連の事件について〜ある国の騎士達の物語〜  作者: さばとらのはは
1-1. ある東の国での毛糸にまつわる事件
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16.中央探索の任にある騎士の話-4

これは二人の探索の騎士のやり取りである。

北方探索の任にある騎士は、中央探索の任にある騎士に、手紙の内容と事件にまつわる全てを打ち明けた。


中央探索を任された騎士はしばらく考えた後、彼の騎士にこのように告げた。


「今まで一度も破られたことのないルールを破った事故。

それは人の手によらずして起こることはない。

その荷物を最後に手渡した配送業者は、笑いながら彼女の元を去ったという。


そこにあるのは傲慢なる者が起こした事故。

全てを彼女に押しつけ貶めようとする人々が、本来己が守り背負わなければならないもの。

そうでなかったために、平和であった長き年月は破られた。


彼の者達が何かを語る資格はない。

罪は贖われず、まだそこにある。


しかも罪ある者達が、彼女に同じ問いを何度も繰り返し問う。

つまり彼らは何度も傲慢による罪を重ねている。

彼女に罪を着せ続ける彼らを正したいと、貴方は思っているかな?」


北方探索を任された彼の騎士は苦笑を浮かべた。

「そこまで厳しいものだと君は言うのか。

…よろしい、君の話を続けて聞こうではないか」


中央探索の騎士はさらに続けた。


「古のある国に、傲慢なる民がいた。

彼らは恐れを知らなかったため、何も考えず、高き白の巨塔を築いた。

高き塔は神の怒りをかってしまったのか、それは天の災いにより黒き残骸と成り果てた。


笑いながら去る配送業者も、彼女のメッセージに何度も意味のない返信を送る販売者も、彼の民と同じく傲慢なる者達。

破られぬ盟約がどのような意味を持つのか、彼らは知らない。


傲慢であり続ける、彼らは恩寵を無くした。

彼らはその事実を知らないかも知れないが、彼女を彼ら自身が傷つけている事実は知っている。

なのに彼らはそれに気づかない。

高く白き巨塔が時により失われたことと同じく、恩寵を無くした彼らもまた、いずれ何かを失うことになるだろう。


…でも、なぜ彼らは突然そのような事故を起こしたのだろう。

よく分からないな。


とはいえ、彼らの言動はあまりに無責任で愚かだ」


北方探索の騎士はやれやれと首を横に振った。


「君の話はずいぶん過激だな」


中央探索の騎士は大きな笑い声を上げた。

「僕が旅した場所にはそういう価値感を持つ国があり、敬虔で信仰が深い人々が多い。

その一方で、己が持つものの価値と意味のどちらについてもよく理解している人達も多い。


彼らはそれらを天秤の片側にかけ、相手の価値をはかるのさ。


さて…これを理解できる者はこの世にどれだけいるだろうか?


我らは円卓の騎士。

調停のための、多くの権力を持つ者。


その毛糸を巡る事故に遭った彼女は、既に申し立てを行っているのだろう。

彼女が奪われた権利を取り戻すために。

彼らの支配から逃れるために。

だったら僕が彼女に伝えることはひとつだけ。


傲慢なる者達の持つ、虚飾の信仰など何の価値もない。全て踏み潰せばよい。

何故なら、彼らは彼ら自身を既に裏切っているから、君がそれを後ろめたく思う理由もない。


進め。ただ...君が望む場所へ。


これで僕の話は終わりだ」


北方探索の騎士は、元の場所に手紙を戻した。


「探索の任にて、君は何か思うことがあったようだ。

…そういえば、君は南方探索の騎士に会ったことはあるか?」


「いや、まだ」


「私は先日偶然ある国で出会った。

彼女は君よりも若く、なんというか…可憐な騎士だったよ」


「…女性か。

まだ、異性の騎士には出会ったことがない。

僕が騎士の座に就く前からしばらく不在であったとも聞いている。

しかし…ずいぶんと出立が遅いようだ」


「宰相殿の計らいによるようだ。

聖杯について、いろいろ調べていたらしい。

…彼女との話を君にも伝えよう」


北方探索の騎士は再び笑った。

「面白い。

長い船旅だ。

せっかくなので、我らの新しい仲間の話を聞こう。

いい暇つぶしだ」

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