15.中央探索の任にある騎士の話-3
彼の騎士の役割は、世界の中央を探索すること。
砂と埃が混じる空気。
広大な大地と緩やかに蛇行する大河に、雲まで届く高き山脈。
貧しさも豊かさも享受する、さまざまな価値感の人々が集まる場所を彼は旅する。
「このような場所に、聖杯はあるのか?」
彼は自問自答する。現地の人に訊ねることもある。
現地の人は決まって、このように答える。
「あなたの探し求める、それはどのようなものだろうか?」
彼はその問いに、上手く答えることができない。
彼自身が聖杯がどういう物か分からないから、皆に尋ね回っているのである。
彼が困り顔のまま黙っていると、現地の人はさらに言葉をつなげる。
「あなたが探し求めるものが、どのようなものであるか私には分からない。
またそれが私にとってあなたと同じ価値であるかも分からない。
私達の持つものは、かかさぬ祈りと身にまとうものだけ。
私は私自身しか持たない。
もしあなたが欲するものを私が持つのであれば、相応の対価と交換することもできるが、いかがする?」
「それが何か、私にも分からないんだ。
…まだそれを私は見出せていない」
「それは残念だ」
「私もそう思う。もし私がそれを知っていたのなら、それを持つ貴方から譲り受けられたかもしれないのに」
彼はいくつもの国を超え、大海に面するある国にたどり着いた。
この地域の海沿いに暮らす人々は豊かだ。
深いジャングルに青い海、特徴ある建物の数々。
たまに全てを押し流す嵐に見舞われることもあるが、その時には陸地深くの高台に逃げ込む。
そのような日々が繰り返し行われている。
港ではひっきりなしに、国内外の輸送船が行き交う。
外国との交易を営む者も多いため、港には各地の珍しいものがたくさん運ばれてくる。
中には彼らが全く興味のないものも。
それは彼らが必要とする、別のものに変えるために運ばれてくるのだ。
海の上で、彼らは空を見上げる。
空に輝くのは、位置の変わらぬ白き星。
他の星は時節により位置を変えるが、その星だけは変わらない。
彼らは何よりも変わらぬものを尊ぶ。
彼らの旅路を導く気高きものを。
それは彼らにとって祈りの一部であることを、彼らは知っている。
「あなたは何処から来たのかね?この土地の者ではないようだが」
「西の果てにある国からやって来たんだ。ここの星空は祖国のものと違うようだ」
「星々は季節や一日の時の移ろいで居場所を変えるものだし、世界の北側と南側では夜空に浮かぶ星も違うものだ。よくある話だ」