14.中央探索の任にある騎士の話-2
これは国一番の魔術師である宰相と、中央の探索を任された騎士のやり取りである。
彼は中央探索の騎士に就任後、任地に向かう前に、国の宰相である彼女と初めて顔を合わせることになった。
国一番の魔術師である宰相である彼女は、彼に任務に必要な情報を手渡した後、世界で起こった古の歴史についての話をした。
彼女はこの国の騎士達にそのような謎かけをして、彼女なりの試しを行なうのだった。
「かつて偉大なる二つの国があった。
彼らは粘土を焼き、煉瓦を造った。
また何処からか巨大な石を切り出した。
彼らはそれらを使って、自分たちの国を整えることにした。
西側の偉大な国は、街道を整え水路を国の全てに行き渡らせた。
それは古今東西比類なき規模で行われ、その国は交易と新たな文化の発明により、大いなる繁栄を得た。
東側の偉大な国は、国境に異民族の侵入を防ぐための城壁を巡らせた。
それは古今東西比類なき規模で行われ、その国は他国の侵入を許さず、大いなる繁栄を得た。
あなたはこれから、どちらの国も旅することになるだろう。
古にどちらの国も起こり栄えたが、今は滅んだ大国である。
しかしその後も新たな国が起こり続け、人々が日々の生活を営んでいる。
あなたがこれから探す聖杯とは何か。
その詳細については、既に王よりお話があったでしょう。
あなたがそれを、探索の任の旅路のどこで見つけることができるのか。
それはあなたの行い次第」
中央探索の騎士は黙って宰相の話を聞いていたが、ふと疑問を漏らした。
「この国で一番の魔術師である美しき宰相殿よ。
貴女は聖杯がどのようなものであるかご存じでしょうか?」
宰相である彼女は、彼の言葉に眉を顰めた。
「愚問ね。
...話はここまで。
さあ、出立なさい」
「…失礼しました」
彼はそれ以上は何も言わずに、彼女の執務室を後にした。
彼女はその後ろ姿を見送り、ため息を漏らした。
「間もなく王と彼の騎士による調停が始まる。
あの国の人々は不安と不満を抑えられず、それは隣国との戦に至ったという。
戦が長引かなければよいのだけれど。
戦とは人の命も財産も何もかもを、世界から奪いとること。
それは私の考えとは相反することだけれど…私にはそれを止める術を持たない。
私はこの国でしか、時の権力を発現できない。
彼の騎士の血縁であるあの探索の騎士は、国内で不要な争いの火種になる恐れがあるため、この国を離れるよう王が取り計らった。
彼はまだ若く、世の事をあまりにも知らない。
…少し心配だわ」