13.中央探索の任にある騎士の話-1
彼は探索の騎士のひとりで、任務は北方探索である。
北方探索の任務とは世界の北方諸国を巡ることで、彼がこの任務に就いてから既に十年以上の月日が経過していた。
その間他の地域の探索の任務にあたる騎士はなかなか現れなかったが、王と彼の騎士による調停に前後して、他の地域の探索の任務にあたる者も就任した。
北方探索の騎士である彼は、ある海辺の街で、数年前に円卓の騎士に就任した中央探索の騎士と合流することになった。
2人の騎士はこれから帰国の途につくところで、偶然にも最終寄港地が一緒になったのだった。
中央探索の騎士はまだ二十代後半の若者である。
にも関わらずどこか老成した雰囲気を備えており、所作に全く隙がない。
北方探索の騎士が中央探索の騎士との待ち合わせ場所で彼を見つけて話しかけると、彼は少し疲れた様子で挨拶を返した。
帰国間際まで任地でトラブルに巻き込まれていたらしい。
そういったことはよくある話だが、任期の浅い中央探索の騎士にとってはまだまだ慣れないことなのだろう。
北方探索の騎士は彼の疲れの原因には触れずに、帰国後の年末の話題を持ち出した。
「間もなく円卓の会議が開かれるというが…一体何年ぶりであろうか」
中央探索の騎士はああ、と頷いた。
「王と彼の騎士の争いが間もなく終わるとのことだ。
ずいぶんとあの戦争の調停は大掛かりなことになった」
「王妃様が調停が始まった原因だと、先日宰相殿から伝えられたが」
「あの方もずいぶん苦慮されたらしい。
今回の件はあの方の手の及ばないことだから」
「宰相殿が口を出せば、状況はもっと深刻なものになったであろう。
彼女は国一番の魔術師で、王妃様に劣らず美しい方。
別の争いが生まれるであろう」
そうだね、と中央探索の騎士は肩をすくめた。
「ところで…その手紙は何だい?」
「これはある街の女性から私宛てに届けられたものだ」
「わざわざ…僕に見えるように手に持つ理由は何だい?」
「聡明なる君にも、意見を伺えればと思って。
これはある国で起こった事件について書かれた手紙だ」
「難題なのか」
「少しばかり私の手に余る事件だ。
これからその事情を話そう。
…よいか?」
北方探索の騎士が同意を求めると、いいよと、中央探索の騎士が答えた。
「構わないよ。
これから長い船旅だからね。
退屈しのぎに丁度いい」