12.国一番の魔術師である宰相の話-4
国一番の魔術師であり宰相である彼女は、受け取った手紙をそのまま彼の騎士に返した。
「私のお話はこれで終わり。
この件はあなたの調停なのよね。
私には私の役割があるし、時を操る私にしかできないことがある。
もう旅立つのでしょう?」
探索の騎士は再び手紙をしまいこんだ。
「ああ。
探索の任はまだ終わっていない。
ところで…王と彼の騎士は何故、調停の場で争うことになったのだ?」
「美しい王妃様を巡る争いが原因らしいわ。
王妃様がある理由から、彼の騎士に連れ去られてしまったの。
詳しいことは私も知らないけれど」
「君は王の元にいたのではないのか?」
「王は朝儀の場に出てこない。
黙したまま、彼の騎士と調停を行おうとするだけなのよ。
私は各地から調停の原因となった戦に関する情報を集めていたのだけれど…ようやく戦に終わりの目処がついたみたい。
これから忙しくなるわ」
「今回の調停の裏側に、美しき王妃様を巡る争いがあったとは…いやはや恐ろしいものだ。
美しい女性は世の中にたくさんいるというのに、なぜ、ひとりを巡り争うのか。
国が滅ぶではないか」
「そうね。あまりに美しくて、王も彼の騎士も理性を失ってしまったのでしょう。
大昔の物語に、このような出来事が書かれたものがあるわ。
かつてある国にランスロット卿という騎士がいた。
ランスロット卿は王妃グウィネヴィアとただならぬ仲になり、他の騎士の反感をかってしまった。
そして彼らの仲を王に告発しようと、騎士達はある策を仕掛けた。
ランスロット卿の武勇により策は破れ、騎士のうちアグラウェインは死に、他の騎士もランスロット卿が王妃を救い出す渦中に命を落とすことになった。
そして王とランスロット卿は争うことになった。
その戦はある国が滅ぶきっかけになってしまった。
この国はこの物語の難を逃れていることを、私は確認している。
幸いにして、彼の騎士以外の騎士は巻き込まれなかったみたいだけど…争いを扇動している者もいるようだから、こちらも調査が必要ね」
「我が国の子供でも知っている物語ではないか。
同じ轍は踏まぬというなら、私は自分の任務を全うすることに専念するとしよう。
では宰相殿、またの機会に」
探索の騎士は、己の役目を果たすために再び動き出した。
国一番の魔術師であり宰相でもある彼女は、それを見送った。
「探索の旅もなかなか前途多難のようね。
もう少し、時を動かさなければ。
長き時を生きる私には私の使命がある。
それは私以外の…誰にも分からぬこと。
世の理から外れ、誰よりも時による定めから自由である私にしか分からぬこと。
さて、私が今なすべきことは何かしら?」