記録:ある夏コールセンターにて
(呼び出し音)
ガチャ
『はい、こちら○○○○コールセンターです』
「あの……こちらの製品で少し気になる事があったんですけど……」
コールセンターに電話をかける。それはつまりその製品に何か不満があったという事。テレビやネットではこれにより発覚した異物混入や健康被害の報道が度々なされている。
だがその実、この制度を利用したクレーマーも後を絶たない。
『はい、どうなされましたか?』
「……」
二人の間に電話越しで静寂が流れる。
『……あの、お客様?』
「あ、はい」
『大丈夫ですか?』
「あ、大丈夫です。すみません」
しかしその後も会話は続かない。
電話越しに流れ続ける沈黙に、コールセンターで働くA子はまたいつもの迷惑客かと溜め息をつく。
『お客様、我が社の製品について何かおっしゃりたい事がありましたら私にお教えしてはくれませんか?申し訳ありませんがちゃんと言ってくださらねば私達には分かりませんので』
少ししておもむろにB子は話し始める。
「……はい。あの、実は先日貴社のエアコンを×××電気と言うお店で購入したんですけど……」
『はい』
「それで、設置してもらった後、試しにそれをつけてみたんです。そしたら何か……、中から異音がして……」
『異音、ですか?』
「はい。それで取り扱い説明書を見たんですけど、水音などについての記載はあったのに、うちのエアコンからする音については何も書かれて無かったんです。それでまずは機械に詳しい友人を招いてエアコンを見てもらいました。でも友人は異音などしないと言っていて……それで、異音が続くようならコールセンターで聞いてみたら?とアドバイスされたんです」
『なるほど、経緯は理解しました。それで、異音とはどう言ったものでしょうか?』
ひとまずクレーマーではなかったようだ。ほっと胸を撫で下ろしその異音について問う。
「そうですね……それが何と表現するか難しいんですけど……その、何と言うか、ラジオの砂嵐の後ろから声がするみたいな……少年、いや青年の声が噂話をしている様なものなんです」
『青年の噂話、ですか?』
正直言って意味が分からない。隙間風を聞き間違えたようなものじゃないだろうか?
『失礼ですが聞き間違いでは?』
「いや、そんな事無いです!あれは絶対に声なんです。それで聞こえる限り内容を聞いてみたんですけど、いつも『……が……らしい』ってところだけははっきり聞こえるんです。怖いなとは思っていたんですが、本当に恐ろしいのはここからでした。ある日『(ある有名な政治家)がひかれたらしい』と聞こえたんです。その時は何の事だろうといつも通り聞き逃しました。でも、翌日のニュースでその人電車に轢かれて亡くなったと……それからもまた何度か似たような事が……それで私、この声は何かを予言しているのではと思うようになったんです。本当です!信じてください!」
なんだ、またただの変な人だったのか。聞いて損した、とA子は失望した。だがこう言う客は機嫌を損ねると面倒だ。
『分かりました。すぐに係の者へ問い合わせます』
「っ、信じてくださるのですか?ありがとうございます。本当にありがとうございます」
電話越しでも頭を下げているのが分かるくらいの感謝を彼女は言う。だがここで一つ気に掛かる事があった。こんなに人にこの話を聞いて欲しいと思っていたならばなぜすぐに話し出そうとしなかったのか。
『あの、ところでなぜあなたはこんな大切な話をすぐにしようとしなかったのですか?』
そう聞くと彼女はこう答えた。
「ああ、それはその時また例の異音がしていたからです。何かいつもに増してずっと同じ事を繰り返していて……それでずっと聞いていて分かったのが『A子はかごめさまのお嫁に行くらしい』って」
『え?』
振り向くと一緒に仕事をしていたはずの同僚は一人もいなかった。その代わりに……
うしろの しょうめん だ あ れ?
……さて、これから当然の如くA子さんは姿を消した訳で、その行方を知る者は誰一人として有りませんでした。
何ならB子さんはこの出来事すら忘れていたらしいですよ。
ところでかごめさまは元々神隠しを起こす禍神だったとか。全く恐ろしいものです。
……え?私ですか?それはちょっと、秘密です。
でも、私はいつもあなたのそばに。
今もほら、
ね?