◾️2人の男
【ルナ】
「・・・暗くなってきたね」
少し落ち込んだ様子でルナは日が暮れ出した空を見上げた
【鷹】
「そろそろ、帰らなくちゃ・・・怒られちゃう」
【ルナ】
「・・・でも、まだ遊びたいね」
そう言う2人は寂しそうだった
【りゅき】
「・・・また、明日遊べばいいよ!
明日も明後日も!時間は沢山あるんだから!」
そんな2人を励ますように笑顔で声を張り上げた
【ルナ】
「・・・うん、そうだね!」
僕の言葉に賛同するように2人は笑ってうなづいてくれた
【鷹】
「じゃあ、りゅうちゃんまた明日ね!」
【ルナ】
「りゅき、ばいばーい!」
同じ方向に帰る鷹とルナは暗くなり始めた森へと2人でかけて行った
【りゅき】
「・・・・・・」
みんながいると楽しい場所なのに
一人になると
どんな場所でも
【りゅき】
「・・・・・・」
時間が止まったように感じた
【りゅき】
「・・・僕も・・・帰らなくちゃ」
時間を動かすように僕は森へと歩き始めた
【りゅき】
「・・・・・・・・」
森を抜けると大きな城壁に囲まれた巨大な都市が見えた
城壁を抜け守られた街の中を家に向かって歩く
【りゅき】
「・・・・・・・・」
でも、街の人たちは僕に目を向けない
・・・そんなのは当たり前だ
知らない人なんだから
知らない人を見たり、話しかけたりなんてしない
【りゅき】
「・・・・・・・・」
一気に街を駆け抜け
僕は家に帰った
【りゅき】
「・・・・・・・・」
大きく広く真っ暗な少し寒く感じる廊下を進み
美味しい匂いが漂うリビングに入った
そこでは白い服を着た薄い茶色髪の男の人が美味しそうに調理された料理を並べていた
【りゅき】
「・・・・・・」
とても美味しそうな匂い
【りゅき】
「・・・・・・」
口の中に唾液が溢れるのを感じた
【りゅき】
「・・・・・・」
突然、響くように岩が擦れる音が聞こえた
目を向けると開かれた大きな扉の中から黒髪の男の人がリビングへと姿を見せた
【茶色髪の男】
「おかえり~今日は早いんだな~?」
【黒髪の男】
「・・・お前もな」
にこやかに言葉をかける男の人と表情の変わらない男の人
【りゅき】
「・・・・・・・」
黒髪の男の人に近づき
【りゅき】
「・・・お父さん・・・おかえり」
一生懸命笑顔を作り、声をかけた
【黒髪の男】
「・・・・・・・・・・」
そんな僕に目を向けず、お父さんは料理が並べられたテーブルに向かって行った
【りゅき】
「・・・・・・・・」
・・・気にしない
・・・大丈夫
・・・だって
・・・僕はちゃんと生きてるんだから
・・・鷹とルナがそれを証明してくれてるから
【茶色髪の男】
「なぁ~そろそろマジで使用人つけようぜ~めんどくない?」
言葉通りめんどくさそうに食事の準備をしている
【黒髪の男】
「・・・必要ない、煩わしいだけだ」
【茶色髪の男】
「そーか?綺麗なメイドさんとかだったら、癒しになると思うんだけどな~」
【黒髪の男】
「・・・・・・・・・・」
【茶色髪の男】
「何人か雇ってさ、ついでに夜のご奉仕も!」
【黒髪の男】
「・・・・・・・・・・」
【茶色髪の男】
「いや~!サイコーだな!マジで雇おうぜ~!」
【黒髪の男】
「・・・・・・・・・・」
はしゃいだように声を上げる男の人とは対照的にお父さんは不愉快そうに黙っていた
【りゅき】
「・・・天地」
笑顔で声を上げる男の人に向かって声をかけた
【りゅき】
「・・・僕がしようか?・・・僕、お手伝いするよ」
必死に笑顔を作り声をかけた
【天地】
「あ~、酒持って来るの忘れた、マジで面倒だ」
【りゅき】
「っ!」
急に動き出した天地とぶつかった
【天地】
「・・・・・・」
でも、天地は何も無かったように暗く広い廊下をキッチンへと向かって行った
【りゅき】
「・・・あのね、お父さん」
再び、お父さんに言葉を向けた
【りゅき】
「・・・今日も、鷹とルナと遊んだんだよ」
【黒髪の男】
「・・・・・・・・」
【りゅき】
「・・・あのね・・・えっと・・・」
【黒髪の男】
「・・・・・・・・」
【りゅき】
「・・・そうだ!この前鷹と二人でルナにプレゼントしたって言ったでしょ?
それをね、ルナはちゃんとつけててくれたんだ!」
【黒髪の男】
「・・・・・・・・」
【りゅき】
「・・・だから・・・凄く・・・嬉しかったんだ」
【黒髪の男】
「・・・・・・・・」
【りゅき】
「・・・また・・・明日ねって・・・」
自分の頬に涙が流れるのを感じた
【りゅき】
「・・・だから・・・明日も遊びに」
どうして泣いてるのかは分からない
【りゅき】
「・・・ずっと・・・毎日」
でも、涙はどんどん溢れた
【天地】
「あ~!腹減った」
お酒をカートに乗せて天地がリビングに戻ってきた
【天地】
「早く食おうぜ~」
そう言って天地は席についた
【黒髪の男】
「・・・・・・・・・」
お父さんは天地と向かい合う席に座った
【天地】
「そういや、セルシウスが黒火を追放したらしぜ」
【黒髪の男】
「・・・野放しにする、と言う事か」
席についた二人は食事をしながら話を始めた
【天地】
「・・・だろうね、さすがにこっちには来ないだろうけど・・・ケルビンからしたら、穏やかじゃないな」
【黒髪の男】
「・・・今、以上に対立が激しくなるか」
二人は僕に目を向ける事なく食事をしている
【りゅき】
「・・・・・・・・」
その美味しそうな匂いに僕は口を閉じる事も出来なかった
・・・でも
【りゅき】
「・・・・・・・・」
テーブルに乗せられた食事は二人分
それは、天地とお父さんの分
・・・僕の分なんて、どこにも無かった
【りゅき】
「・・・・・・」
僕はリビングを出てキッチンへと向かい
キッチンに置かれた食パンを持って再びリビングに戻って来た
【りゅき】
「・・・お父さん・・・ここに座ってもいい」
小さく声をかけ、お父さんの隣に座った
【りゅき】
「・・・いただきます」
小さく手を合わせ、食パンに食いついた
【りゅき】
「・・・・・・・」
どうして泣いているのかは分からない
でも、涙が流れた
お父さんと天地は僕に目を向けることもなく食事をしている
僕の居場所なんてここには無いのかもしれない
でも、僕はここに居たかった
少しでもお父さんと同じ時間を過ごして居たかった
僕の声に気づいてくれなくても
僕に目を向けてくれなくても
少しでもお父さんの側に居たかったんだ