火◾️子供
【火焔】
「・・・はぁ・・・はぁ」
数十分はかかる階段を上り終わる頃には横腹が痛くなる程に息が上がっていた
・・・自分では結構鍛えているはずの僕だけど
・・・この階段は本当にキツかった
・・・いったい何段あったのか
・・・考えたくもなかった
【火焔】
「・・・・ふぅ」
少し息を整え、真っ暗な廊下をリビングに向かって進んで行く
【火焔】
「・・・・・あ」
そう言えば、僕は晩ご飯を運ぶと言う仕事があった
・・・ついでだから、キッチンに取りに行こう
そう思い、キッチンへと足を進めた
【火焔】
「・・・・・?」
キッチンに近づくと小さな物音が聞こえた
・・・誰かいるみたいだ
・・・もし、天地さんだったら
『俺に準備させてんじゃねーよ!』
・・・とか言って、頭を叩かれるだろうなぁ
【火焔】
「・・・・はぁ」
少し気が重くなりながらも、盗み見るようにキッチンを覗いた
【火焔】
「・・・・・・・」
でも、予想に反し、そこには誰の姿も無かった
・・・変だな
・・・確かに物音が聞こえたはずなのに
【火焔】
「・・・・・っ」
背後に視線を感じて真っ暗な廊下を見回してみた
・・・でも、誰の姿も見えない
・・・おかしいなぁ
・・・絶対、誰がいる気がするんだけどなぁ
そう思いながら再びキッチンへ目を向けた
【火焔】
「っ!?」
その瞬間、目に飛び込んできた光景に思わず驚いた
・・・さっきは誰もいなかったはずなのに
・・・今、僕の目には赤黒い長い髪の子供の姿が見える
【火焔】
「・・・・・・・」
どうしてさっきは気がつかなかったんだろう?
何処かに隠れていたのだろうか?
【長い髪の子供】
「・・・・・・・・」
その子は食い入るように冷蔵庫の中を覗いていた
【火焔】
「・・・・・・・・」
・・・きっと、お腹が空いているのだろう
その子の姿を見ていると、そう思う他無かった
・・・一瞬、どうしようかと悩んだ
【火焔】
「・・・何してるの?」
僕は小さく声をかけた
そんな僕の声に反応して
その子は僕に視線を向けた
その目は少し怯えているように見えた
【火焔】
「・・・どうしたの?」
できるだけ怖がらせないように笑顔で更に声をかけた
【火焔】
「・・・・・・・・・」
でも、その子は何も答えない
【火焔】
「・・・何か探してるの?」
そう訪ねながら、ゆっくりとその子に近づいた
【火焔】
「・・・もしかして、お腹空いてるの?」
少し背の低いその子に合わせるように腰を落とした
【火焔】
「僕も今からご飯なんだ、一緒に行こうよ」
少しでも安心してもらえるようにニコッと笑い
その子の手をとって引っ張るように歩き始めた
【髪の長い子供】
「・・・・・・・・」
その子は少し怯えているように見えるけど
素直に僕についてきてくれている
【火焔】
「・・・・・・・・」
・・・やっぱり、この子はお化けなんかじゃない
・・・だって、この子の手は
・・・・とても暖かいから
リビングに入ると
そこでは天地さんと魔境さんが食事をしていた
【火焔】
「おせ~ぞ?なにやってんだ~?」
僕の姿を見つけて天地さんが声をかけてきた
【火焔】
「・・・天地さんが僕に用事を頼んだんじゃないですか」
そんな天地さんに少し不満を感じ小さく返した
【天地】
「こんな時間かける事じゃねぇだろうが、早く食わないとお前の分食っちまうぞ~?」
呆れたように言葉を返し天地さんはからかうように笑った
【火焔】
「・・・あの」
繋いだ手を引っ張りながら、その子と共に天地さんに近づき改めて声をかけた
【火焔】
「・・・この子も一緒に良いですか?お腹空いてるみたいなんです」
【天地】
「・・・・・・・・・」
でも天地さんは僕の言葉が聞こえてないかの様に言葉を返してくれない
【火焔】
「・・・天地さん?」
そんな天地さんに少し不審さを感じながら更に声をかけた
【天地】
「あ~?なんだよ?」
僕の呼びかけに天地さんは面倒そうに答える
【火焔】
「・・・この子も一緒に食べても良いですか?」
再び同じ言葉を天地さんに訪ねた
【天地】
「・・・・・・・・」
でも天地さんは何も答えてくれない
【火焔】
「・・・あのっ」
【天地】
「いつまで突っ立ってんだよ?ほんとにお前の分食っちまうぞ?」
僕の言葉をふさぐように天地さんが言葉を発した
【火焔】
「・・・・・・・・」
そんな天地さんに恐怖を感じずにはいられなかった
・・・どうして
・・・どうして天地さんは僕の問いに答えてくれないのだろうか?
・・・どうして天地さんはこの子について何も聞いて来ないのだろうか?
【火焔】
「・・・・・・・・」
・・・それは、まるで
・・・僕の言葉が聞こえてなくて
・・・この子の存在も見えていない
・・・そう思う他ない状況だった
【髪の長い子供】
「・・・・・・・・」
そんな中、突然その子は僕の手を振り払った
【火焔】
「・・・・あ」
そんなその子に何か言わなくちゃと思ったけど
・・・何を言えば良いのか分からない
【髪の長い子供】
「・・・・・・・・」
その子は震えているように見える手でテーブルの上のパンを一つとり
抱き抱えるようにして一人真っ暗な廊下に戻って行った
でも、天地さんと魔境さんは何も起きていないかのように食事を続けている
【火焔】
「・・・・・・・・・」
・・・全然、意味が分からない
・・・どうして、こんな状況なのか分からない
・・・気味が悪いほどに訳が分からない
【火焔】
「・・・・・・・・・」
・・・でも、一つだけ確かな事がある
・・・きっと、僕は
・・・あの子にとても酷い事をした
【火焔】
「・・・・・・・・・」
息苦しくなる程に痛む僕の胸がそれを教えてくれた
【天地】
「・・・お前、もしかして買い食いでもしたんじゃないだろうな?」
何事も無いように天地さんは言葉を向けてくる
【火焔】
「・・・・・・そんな事してないです」
少し恐怖を感じながらも天地さんに言葉を返した
【火焔】
「・・・これ買ってきた物と財布です」
そう言いながら天地さんに渡した
【天地】
「・・・・・・はぁ」
何故か天地さんは大げさなくらい大きなため息をついた
【魔境】
「・・・お前が選んだ事だろ」
そんな天地さんに魔境さんが静かに言葉を向けた
【天地】
「だから~、俺なんでこいつをここに入れたのかさっぱり分かんねーんだよ」
【魔境】
「・・・償い」
【天地】
「だから!ちがうっつーの!」
魔境さんの言葉を塞ぐように天地さんは声をあげた
【魔境】
「・・・何にしろ、ここに招いたお前には責任をとる義務がある」
そう言い残し、食事を終えた魔境さんはリビングを出て行った
【天地】
「・・・責任をとる・・・俺が世界で一番嫌いな言葉だ」
辛うじて聞き取れる声で怯えたように天地さんはつぶやいた
【天地】
「・・・早く食え、ちょっと聞きたい事がある」
そして面倒そうに言葉を向けられた
【火焔】
「・・・・・はい」
正直、食欲が全く無かったけど
仕方なく席に座り食事を始めた
【天地】
「・・・お前は純血の火の技能者だよな?」
僕が食べ始めたのを確認して天地さんは話を始めた
【火焔】
「・・・はい」
天地さんと目を合わせず余計な事は考えず返事をした
【天地】
「・・・両親は死んだって言ってたけど、それは間違いないか?」
【火焔】
「・・・はい」
【天地】
「自分の目で確認したのか?」
【火焔】
「・・・いえ」
【天地】
「なら、絶対死んでるとは言い切れないだろ?」
・・・そうかもしれない
・・・人から聞いただけでは絶対なんて言えないのかもしれない
・・・自分でも間違いであってほしいと思う
・・・でも
【火焔】
「・・・絶対・・・間違いないと思います」
・・・それだけは子供の僕でもはっきりと言える
・・・間違えのない現実なんだ
【天地】
「・・・前にも言ったけど、俺はそーゆーのに同情しないから、そんな泣きそうな顔しても意味ねーぞ~?」
そう言って天地さんは愉快そうに笑った
・・・別に同情してほしいなんて思ってないけど
・・・こんなに楽しそうに笑われると
・・・ちょっと複雑だ
【天地】
「お前は片付けしてから風呂に入れ」
そう言いながら天地さんは立ち上がった
【天地】
「風呂でお化けに襲われないように気をつけろよ~?」
そして、からかうように笑いながらリビングから出て行った
【火焔】
「・・・・・・・」
やっぱり僕は食欲を感じる事ができず
お風呂に入る気もおきず
早々に片付けをして自分の部屋に戻る事にした




