花壇の花が咲いた
その学校の名前は、『人妖会合高校』
その名の通り、人だけではなく妖や霊、獣…所謂『人外』達が居る学校。
今から話すのは、この高校に通う霊と転入生の龍が咲かせた花についてのことである。
とあるクラスにて、その霊は居た。彼女の名前は幻と言った。はっきり言えばあまり真面目な者ではない。授業中は寝てるか本を読んでいるかの2択。休み時間には特に理由もなく様々な場所を放浪しているし、これといった部活にも所属していない。
……それなのに、学力面において彼女は優秀だった。いつもテストは満点だった。それは彼女が隠れて努力しているのか、それとも元から天才肌なのか。それは誰も知らないし、幻自身も語ろうとはしない。彼女は他人に興味が湧かないのだ。他人に干渉する気がないのだ。
理由は明確―――
「……面倒だなぁ」
そうして、彼女は登校するのだった。
…彼女は自分の机に座って本を読み始める。朝の自由時間はあまりにも短すぎた。ただぼーっとしているだけでHRの時間がやってくる、彼女にとってそれはあまりにも億劫なことだった。
「えー、HRを始めるぞー。お前達『アレ』をやるぞー」
アレ…というのは俗に言う『係決め』のことである。誰が何の係をやるのか、そういうのである。みんな我先にと自分がやりたい係を決めていく一方で、幻はただ黙って本を読んでいた。当たり前だった、興味が無かったから。
「……い、おい幻」
「…………何?」
自分だけの空間から無理やり引っ張り出された幻は少々不機嫌そうな声色を出す。
「あとはお前だけだぞ、決めてないの」
「残ってるやつでいいよ」
「残ってるのって………『美化係』しかないぞ」
「言いづらそうだね、それでいいよ」
「そうか、……ああ、あとみんなにお知らせだ。今日は『転入生』がくるぞ」
先生のその言葉の直後、ざわつく教室内。相変わらず幻だけは塩だったが。
「入りなさい」
先生が廊下に向かってそう言うと、ガラリとそのドアは開かれた。
その向こう側に居たのは、龍だった。かなりの高身長である。
教室内に居るほぼ全ての生徒はその転入生を注視していた。嫌になるほどの好奇な目を向けていた。
「それじゃあ、自己紹介を」
「…………エルドラド」
その者は低い声でぶすっとした顔つきでそう答えた。その者はあまりにも口数が少なすぎた。
「んじゃ、幻の隣に座ってくれ」
エルドラドは言われた通りに幻の隣の空いていた席に座った。
「…………………」
相変わらず、幻の視線は本に向けられたまま。
だが、思えばこの瞬間からだったのかもしれない。彼女が初めて他人に興味を持ち始めたのは。
『えぇ、美化係は学校の雰囲気作りのための花壇作りをしてもらいます。中庭にある花は自由にしてもらって構いません』
(……自由っていうのが一番困るんだよなぁ)
幻は一人で黙々と花壇を弄っていた。
「土は……こんくらいでいいか。肥料……倉庫か」
怠そうに立ち上がると、幻は学校の倉庫へと向かった。
倉庫の中は薄暗かった。外からの光を頼りに肥料を探す。
「あぁ………あったあった。………たっか」
肥料の位置は彼女の身長に対して高い場所に置かれていた。手を伸ばして届くか届かないか程度。
「普通こういう重いものは下の方に置くでしょ……案外先生達ってバカ?」
ぶつぶつ文句を言いながら幻は肥料に手を伸ばす。
「もうちょい……もうちょい………届いた」
指で肥料の袋の端をつまむ、そのまま引きずり下そうとする……が
「……………ぇ」
その勢い故か、残りの袋もそれに便乗するかのように落ちる。まるで土砂崩れのように。
(あぁ……これはやばいかもな)
そう思った時だった。彼女の体がぐいっと後ろに引っ張られたのだ。
「……危ないぞ、チビが高いところに手が届くわけねぇだろ。素直に背ぇ高い奴に頼め」
エルドラドだった。
「………どうしてここに居るのさ」
「俺もお前と同じ係になったからだ」
「へぇ……」
「んで、これが欲しかったのか」
「うん」
「そうか、ういっと」
彼は軽々しくその袋を担いで花壇へと向かった。
「…………………」
「…………………」
互いに何も言わず、花壇をただ弄っていた。数分経ってエルドラドが言った。
「どうして俺に好奇の視線を向けなかった」
「興味がなかったから」
「へぇ」
「どうしてそんなこと聞くのさ」
「気になったから」
「へぇ」
淡々とした会話、それはあまりにも味気ない。
「……………水もやったし今日はこれで終わりだね」
「…………そうだな」
「…………………部活とか決めたの?」
「帰宅部」
「へぇ」
「お前は何か入ってんのか?」
「帰宅部」
「へぇ」
「………それじゃ」
「また明日」
軽い会釈をして荷物を背負い、それぞれの帰路へと向かう。
某日の昼、幻は変わらず本を読んでいた。
「…………本、好きなのか」
視線を上げればエルドラド。
「ただの暇つぶし」
「そうか」
「…………貴方、どうして私を話し相手に選んだの?」
「…………どうしてそんなことを聞くんだ」
「私よりも他の子の方がよっぽど楽しいと思うよ、色んな意味で。私、他人に興味ないからさ」
「俺も興味ないよ」
「じゃあどうして?」
「どうしてなんだろうな」
フン、と鼻息をすると彼は
「みんな転入初日、俺に興味津々だった。でもそれは最初だけだった。みんな俺の悍ましい顔つきに畏怖し、気づけばその視線は好奇心から恐怖心に変わっていた」
「そうなの、別に貴方のこと怖いだなんて思ったことなかったけど」
「………へぇ」
「そういうもんだよ、生き物っていうのは。未知なるものにロマンを感じて、全てを知ってしまったら飽きて捨ててまた新しいものにがっつく。そういうもんだよ、特に人間は」
「なるほど」
「………………お昼ご飯、食べないの?」
「持ってない」
「…は?」
思わず幻はそう返してしまった。
「……そういえば、貴方がお昼ご飯食べてるところ見たことないな」
「持ってないからな」
「……………あ、私も忘れた。仕方ない、買ってくるか」
「コンビニか?」
「うん。………ついでだから貴方の分も買ってくるよ。食べたいものは?」
「さぁ」
「………実物見た方が早いか。ほら、行くよ」
そうして幻はエルドラドを引っ張ってコンビニへ。
「たくさんあるよ、好きなの選んで」
「……………ん」
「ツナマヨおにぎりか、じゃあ私は昆布にしようかな。レジ通してくるから外で待ってて」
「うん」
そう、確かに距離は縮み始めていた。
「…………なぁ」
「…………どうしたの」
「花壇弄り終わったらゲーセン寄らね」
「………別に良いけど」
珍しい彼からのお誘いであった。
「…んじゃ、じょうろに水汲んでくるわ」
「うん」
エルドラドは乱雑にじょうろを拾って水道へ。
「………姉さんに電話しとくか」
そうして幻はスマホをとりだし………
『………何だ、そっちから電話してくるなんて珍しいな?』
「別に。今日は帰りいつもより遅くなる」
『ほぅ、それはまたどうして?』
「ゲーセン寄る」
『ゲーセン?どうして?急に興味湧いた?』
「違う、ただクラスメートに誘われた」
次の瞬間、電話越しに何かを噴き出す音がした。
「…大丈夫?」
『ゴホッ!!ガハッ!! 今なんて言った!?』
「いやだから誘われたって……」
『友達からかッ!?』
「ああー………まぁそうなるかな」
『フォォォォォォォォッ!!!』
「うるさいんだけど」
『ついに……ついに我が妹に友達ができたぞォォォォッ、お姉ちゃんまじ嬉しい』
「はいはい、んじゃそういうことだから」
『家に帰ったらほうれん草を忘れずn』
プチッ
「……うるさい姉さんだなほんと、大袈裟なんだよ」
「戻ったぞ。………何かあったか?」
「別に何も。ほら、さっさと終わらせようよ、ゲーセン行くんでしょ?」
「うぃ」
―――――――――――――――――――
「………っと、ついたついた。ここだぞ」
「へぇ、それなりに大きいんだね。色んなのがありそう」
エルドラドはズボンのポケットの中に手を突っ込む、くしゃりという音と共に取り出したのはしわっしわの五千円札だった。
「………やけにしわしわだね、財布くらい使いなよ」
「持ってない」
「そのお金で買えばいいじゃん」
「面倒。んじゃ、換金してくっから待ってろ」
「………………」
幻は辺りを見回した。見慣れないものばかりだった、ゲーセンなんてもの来たことなかったから当たり前だが。
「………あ」
数多あるうちの一つに目をつける、俗に言う『音ゲー』であった。
「何だ、それが気になるのか?」
「わっ、びっくりした」
「音ゲーやりたいのか?」
「……そうなるのかな」
エルドラドは100円玉を彼女に向かって軽く投げて
「一回やってみろよ、そのほっそい穴に入れるんだ」
「わかった。じゃあまずはチュートリアルからやろうかな」
そうしてゲーム画面を弄る彼女。
「ふーん……なるほどね。タップとホールドとフリックっていうんだね。シンプルでわかりやすい」
「じゃ、やりたい曲を選べ。やっぱり人気の曲にするのか?」
「んー……この数字何?」
「それは難しさだ。デカければデカいほどむずい…………っておい待て」
「何」
「お前…………それ本気でやるのか?」
「うん」
「いやそれ……リズム難すぎるし発狂するし何より……『30』だぞ?いっちばん難しいやつだぞ?」
「そうなの(ポチ)」
「おい何でやるんだ…………おぉぉぉぉ」
鬼畜なるトリル、階段。狂気の乱打。視覚難。微ズレ。それらを冷ました顔で難なくこなしていく。
「…………なんだ、大したことなかったね」
「お………オールパーフェクト……だと? お前本当にやったことないよな?」
「そうだよ」
「初見だよな?」
「そうだよ」
「この曲聴いたことないよな?」
「そうだよ」
「ファー……」
エルドラドは唖然としていた。
「お前………色んな方面で天才かよ」
「そうかな。普通に過ごしてるだけなんだけど」
エルドラドはしばらく考える素振り、そしてニッ、と笑い。
「それじゃ、それで勝負しようぜ」
「勝負?」
「まず俺が曲を選ぶ。そんでどっちが得点高いか勝負だ」
「へぇ、別にいいけど」
「でもそこでハンデだ。お前は尚且つミス5未満じゃないといけない。さっきのプレイっぷりにそれが妥当だろ?」
「構わないよ」
「それじゃ、いくぜ?」
「かかってきなよ」
「……っはー! お前凄すぎだろ。ずっとオールパーフェクト出しやがって」
「そう?」
「もしかして動体視力だけでやってんのか?」
「そうかもしれないね?」
「くそ、これが強者の胆力ってやつか」
「…………あ、空が橙色になってる。流石に帰らなきゃ」
「おう。悪いな、付き合ってもらって」
「うん、今日は…………楽しかったよ」
「……ただいま」
「フゥゥゥッ!!!我が妹よおかえりィィィィッ!!!」
幻が帰宅したや否や、彼女の姉である叡智が迎えにきた。
「どうしてそんなにテンション高いのさ」
「だ っ て さ ! 今まで他のことに興味を持たなかった妹がッ、友達に誘われてゲーセン行くだなんてどういう風の吹き回しッ!!?」
「さぁ」
「ところでその友達は男?女?」
「男、転入生」
「わぁお! もう初日から仲良くなったのかい?」
「いや、たまたま同じ係になったから。気づいたらこうなってた」
姉として妹の発展がたまらなく嬉しいのか、叡智はニヤリ顔を止めない。
「……なんだよ」
「さてはその男子のこと好きなんだろ?好きなんだろ?」
「…………………」
「………あ、あれ?」
からかいのつもりで言ったのだが、幻は途端に真剣な顔つきになって
「……………………好き、なのかなぁ」
どうして、彼だけは他の人のように塩対応が出来ないのだろう。一緒に居る時間が長いから?転入生という特別な輩だから?
幻はその日、ずっと唸りながら考えていた。しかし、どんなに考えても自分が納得できる答えが出ず面倒なだけなので、やがて幻は考えるのをやめた。
―――――――――――――――――――――
「おーい!幻ー!!」
学校についてしばらく、彼女の名前を呼ぶ声がした。
「ファントムちゃんに……音廻ちゃんか。どうかした?」
「いや、ただ幻を見かけたから呼んだだけだ!」
「暇人だねぇ…」
「まぁまぁ、話す話題はこれから考えようよ。教室ついてからでも遅くない」
そうして二人はやや強引に幻を引っ張り校舎へと向かうのだった。
「…………あっ、そういえばさぁ」
ファントムが言う。
「最近幻、あの転入生と仲良いね?」
「あ、確かに一緒に居るとこよく見るね。そこんとこどうなの?」
「いや……ただ係が一緒になったからだよ。別にそこに何の理由もないよ」
「ほぉ?」
「本当でござるかぁ?」
「うるさいな………」
ざわ……ざわ……
「……ん? 何だか騒がしいね」
三人の背後にちょっとした人だかりが出来ていた。
「………!」
みんな揃って一つのものに視線を向けていた。それは同情のように見せた哀れな好奇心の眼差しだということが少なくとも幻には理解できた。
「エルドラド……?」
「おや、何があったんだろうな?」
幻は気づけば彼の傍に近寄っていた。
「エルドラド…」
「……どうした」
「それ………どうしたの、大丈夫?」
エルドラドの顔は打撲痕で溢れていた。口からは流れた血の痕がついており、制服もボロボロである。
「……いや、ちょっと転んだだけさ。さっさと教室に行こうぜ」
そう言ってエルドラドは自分の教室に行ってしまう。
「……………」
「ふーむ、あれは誰かと派手な喧嘩をしたと見た!」
「そうなの?」
「そうでもなきゃあんな傷はつかないよ。それより……」
「な、何」
「にししっ、幻が他人を心配する様子をこの眼で見れる日が来るだなんてなぁ。友達として嬉しいね!」
「まるで姉さんみたいなこと言うね」
「……あっ、そろそろHR始まるね。それじゃまたねー」
二人はそれぞれ自分のクラスへと向かった。
「…………」
どことなく残るわだかまりをなんとか振り払い、幻も教室へ向かうのだった。
彼女は授業を常に真面目に聞いていなかった。今日は特にそうだった。先生の言葉が煩わしいと感じるほどに。
まぁいい、係の仕事さっさと終わらせて帰るか。どうせ彼が来るから暇も潰せるだろう。そう考えていた。
「あぁ……悪い。今日はどうしても外せない用事があってさ。ごめんな」
「あぁ……うん、わかった」
エルドラドはそうして早めに帰っていった。
「……………」
彼女はどうしても違和感が拭えなかった。いや、違和感というよりかは何かしらの嫌な予感というのが正しいか。それは彼女にとって感じたことのない負の感情であり、ちょっとした恐怖であった。
「……ッ!」
幻は即座に荷物を抱え、エルドラドを捜し始めた。
灰色の空の下、静かな住宅街を右往左往。まだ遠くには行っていないはずだ、頼れるのは己の五感だけ。見逃すな、聞き逃すな、神経をフルに活かせ。
ドカッ
ボカッ
グシャッ
そこで幻は足を止める。確かに聞こえた、聞き逃しはしなかった。その音を彼女は確かに聞き取った。
何かを殴る音だ、重々しく淡々と誰かが何かを殴っている。
幻は右へと視界を移した、その先は路地裏であった。その音はそこから聞こえていた。
「…………」
幻はそこへ向かうことにした、ゆっくりと、足音を立てずに……………覗けばそこは薄暗い、悪事を働くにはぴったりな場所だろう。
ペタリと壁に手をつける、ひんやりとしたコンクリートの冷たさがかえって不気味さを掻き立てる。
「…………っ」
進むにつれて、地面や壁がところどころ紅色に染まっていく、進めば進むほど紅色の面積が広くなる。
ガタン、と物音が聞こえた。ダレカがそこに居るようだ。
「…………………ぇ」
大きくしなやなかなソレが見えた瞬間、そこに居るのが誰なのかが彼女にはわかった。
まず彼女は驚いた、そしてすぐに状況を整理する。冷静に、沈着に。
「……誰か、居るのか」
ダレカがその場から動かず聞いてくる。別に威圧感を放っているわけではないのに、幻の身体が金縛りにあったかのように動かなくなる。
「……………………!」
ダレカは彼女に気づいた瞬間、とても驚いた顔をする。
「…どうして、お前が…」
「あぁ〜……いや、なんていうかその……」
「係はどうした?」
「すっぽかしてきた」
「どうして?」
「どうしてだろう……体が勝手に動いてた。自分でもよくわからない」
身体の震えを抑えながら、幻は来た道を振り返って。
「そ、それじゃあ………別に今見たことは誰にも言わないよ……面倒だし……またね、エルドラド……」
「………………」
そのまま行ってしまった。エルドラドは何も言わずに、血痕が付着した札を握りしめる。彼の背後には陽の光が灯されていた。その中心に位置するのは、身体中に打撲痕が刻まれていた、なんとも痛ましい見た目をした骸のような学生であった。
―――――――――――――――――――――
「……どうしたのさ幻、最近エルドラドと一緒に遊ばないじゃん?」
「え?」
「だって、いつも一緒に居るじゃん? まぁ係のよしみだからかもしれないけど」
「それは……」
正直、彼女の身体は彼に会うことを拒絶していた。知らぬ間に物怖じしていたのだ。
「あっ、そうだ。ジュース奢るから自販機まで付き合ってよ」
「良いよ〜、私ココア〜」
「幻は?」
「あ……いちごミルク…」
「りょーかいっ、んじゃいこいこ〜」
「……えーと、ココアといちごミルクと……げぇっ、ぷるぷるするやつ切れてらぁ!」
「あー、あのぷるぷる美味しいよね」
「ていうかなんで振るとぷるぷるするんだ? 何か魔法がかかっているに違いない!」
「そだねー」
「……こればっかりは仕方なし、炭酸にしよう」
「……………………」
「…どうしたの、そんな真剣な顔しちゃって」
「あー……そんな顔してた?」
「うん」
「ごめんごめん、最近自分でも変だと思ってて―――」
そこで他の生徒の声が聞こえた。
「……えっ、アンタあの転入生に告白するの?マジ?」
「当たり前じゃん、そのために今日までスタンバってたんだからさ。準備も大丈夫」
「そっかぁ、まぁ頑張れ〜」
ズキッ
「………転入生って、エルドラドのことだよね?」
「逆にそれ以外誰が思い浮かぶのさ」
「……聞いて思い出したけどあの子、移動教室とかでよくエルドラドと一緒に動いてるよね」
「そうなのか、幻はそのこと知ってた? それとも移動教室は別々だったり?」
「………………ぁ」
「?」
「な………あ………あ゛……あ゛あ゛ぁ゛ッ!!!???」
幻は突然頭を抱え、生き物が出すとは言えぬ金切り声をあげる。
「おっと………だ、大丈夫か?」
「えっと、一回保健室行こうか。そこならゆっくり落ち着けるから………」
「…………てなわけでベッド使わせてくだぴぃ」
「ええ、いいわよ」
「こっちだよー」
幻は音廻に身体を借りながらゆっくりとベッドに座る。
「………」
「大丈夫だって、今日は幸運にも午前授業でもう授業ないからさ! ゆっくりできるよ!」
「にしても、幻いきなりどうしたのさ?あんな声あげながら頭抱えてさ。どこか具合悪かったりする?」
「ぐっ………ふぅ………」
幻はその身体をガタガタと震わせていた。動悸も激しい。
「さっきの生徒の話?」
「あぁ、エルドラドに告白するとか言ってたやつ?」
「もしかして、嫉妬湧いちゃった?」
「さっきの声はジェラシーだけで出るもんなのかな…」
「………大丈夫………大丈夫………しばらくしたら元に戻る………大丈夫……」
「あぁ……そう?」
「無理はしなくていいからね?」
「幻ぉ………本当に大丈夫なんだね?」
「うん、わりと落ち着いた」
「そう、それなら良いんだけど」
幻が落ち着いた、と言うので三人は揃って下校することにした。
「……あ、ちょっと花の様子見てきて良い?」
「あぁ、りょーかい」
そうして三人は例の花壇の場所まで。
「にしても、幻本当に変わったんじゃない?」
「何が?」
「最近授業で寝てないみたいじゃん?他人にも興味持つようになってるし、私達が知らない間にどうしたのさ?」
「さぁ、どうしたんだろうね」
「なんだよ〜、おしえろ〜うりうり」
音廻からのほっぺつんつん攻撃をものともせず、幻は花壇へと向かおうとした。
「………………ぁ」
「ん、どうしたんだ幻………」
「ぇ……あ、あれって……」
三人の目の前には花壇があった、数歩進めばそこだった。ただ彼女達と花壇の間に誰かが挟まるようにそこに佇んでいたのだ。
「……それで、私と付き合ってくれる?」
「…………………」
「か、隠れるよ。こっち!」
ファントムが二人を引っ張って死角へ。
「あ、あの生徒ってあの時のだよね!?」
「あぁ……まさか本気でエルドラドに告白するなんざな。しかも、よくよく見たらあいつ学年のマドンナ的存在だ。いろんな男があいつに惚れてるって噂があるくらいに……」
「そ、そんな子がどうしてエルドラドを的に?」
「さぁ、ただドヤ顔をしたいだけなのか………私あんまりあいつ好きじゃないんだ。どこでも高飛車っていうか………プライドが高いっていうか………どう表現するのかわかんないんだけど」
「………! ま、幻さん落ち着いて。エルドラドがあの子の質問にYESだなんて言うはずがないよ!」
三人は死角から審判が下されるのを待っていた。
「……………言いたいことは、それだけか?」
「へ?」
「ふぁ?」
「えっ?」
エルドラドはその生徒に向かって
「悪いが、俺はお前に興味ない。お前とこうして無駄な時間を過ごしているくらいなら、今気に入っている知り合いとゲーセン行ってるわ。今日も誘うつもりだったんだがわざわざお前の頼みを聞いてやった、それがこれか。時間の無駄だったぜ、じゃあな」
そう吐き捨ててどこかへ行ってしまった。
「………ほーっ……なんというか、こっちまで安心したよ。な、幻。エルドラドは君が好きなんだって」
「そうそう、この際貴方が告白しちゃいなよ〜」
「……………」
「え゛ッ!?な、泣いてるのか!?」
「よしよーし、良かったね〜エルドラドが盗られなくて」
「な、なんだよ。そんなんじゃないし」
「うりうり〜、素直じゃないな〜」
「やめろ!ちょ、あはは!」
「………………………」
―――――――――――――――――――――
「幻ー」
「へ?」
その日からあのマドンナ的存在の生徒を中心に、三人の生徒が幻に絡み始めた。
「な、何?」
「いや、退屈してたから来ただけよ。いつものことじゃない」
「そ、そう…?」
「………ちょっと、どこ行くのよ」
「いやまだHRまで時間あるからファントム達のとこに……」
「いいじゃんいいじゃん、今日は私達と遊ぼうよ」
(うっざ………お前達に興味ないからどっかいけよ……私はあの二人と一緒の方がマシなのに……)
「…………あ、そうだ幻」
「……………何?」
「今日放課後時間ある?」
「え…………」
嫌な予感がした、体というより本能が奴の言葉に従ってはいけないと言っている気がした。しかし、何をしでかすかわかったものじゃないので
「……あぁ……わかった……」
「ぐぇっ!!?」
例の生徒があの花壇の場所で集合、と言っていた。言われた通りにやってきた瞬間彼女は首を掴まれ壁に押し付けられた。
「……ぐっ………うぅっ………」
「アンタさぁ………最近調子乗ってるんじゃないの?」
「は……?」
「私があの転入生に振られたからって安堵してさ、舐めてるの?」
首に込められる力が強くなる、窒息しそうだ。
「し……ら……ない……しらないよ……」
「コッチは知ってんのよ」
「…?」
「アンタ、いつも連んでる友達とやらと一緒にコソコソ隠れて現場見てたでしょ。バレバレなのよ」
「ホント、隠れて振られた現場を見て笑うだなんて趣味悪ー」
「ねー」
「わらっ………てない………べ……つに……わらって……」
「口答えするな陰キャ」
「ぐぅぅっ!!」
「あーあ、あのドラゴンと付き合うことになってたら私の株がもっと上がってたのに。そうよ、アンタが居なければ今頃とっくに付き合ってたのよ。どう責任取るつもり?」
呼吸が出来ない、酸素が頭に回らない、だからなのか? 幻は生徒の言っている意味が理解できなかった。
いや、違う。
「…………は」
「…?」
「あは………あはは………あははははは!!」
幻は突然笑い出した、その不気味さのあまり生徒はその手を退け数歩後ろに下がる。
「………何が面白いのよ」
「いや………たった今わかったんだよ。どうしてエルドラドがお前を振ったのかってさ。こんなんじゃ、振るわずにはいられない。むしろ、それが常識だった。私が居なくてもエルドラドはお前みたいな醜い女と付き合うなんざしないだろうさ。逆に、こんな性格しておいてよく誰もお前から離れなかったね!」
ドカッ
幻の左頬に衝撃が走る。
「この………クソガキ!!」
生徒は幻に馬乗りの状態になる。
「お?やんの?殴るの?いいよ、やりたきゃやれよ発情猿女。人を殴ることでしか自分の地位を理解できない可哀想なメス豚さんが。まぁ……元からひっくいけどねぇぇぇぇ!!!!」
幻が生徒を挑発する、生徒がさらにその拳を振るう瞬間だった。
「…………?」
生徒の肩に圧力がかかる。そして―――
ドゴォォッッッッッ!!!
生徒が、吹き飛んでいった。幻は上体をあげて前方を確認する。そこに居たのは
「……エルドラド」
そう、エルドラドであった。エルドラドは幻を流し目で見てすぐに殴り飛ばした生徒の胸ぐらを掴み
「おい、貴様」
「…ッ」
「幻に何してた、答えろ」
「いやぁ、ただ仲良k」
「嘘を吐くな、メスライオン」
「め、メスライオン?」
「これだから女は嫌いなんだ、男よりもタチが悪い。陰湿すぎて気持ち悪い、虐める時はやってたかって一人を虐める。メスライオンかよ、こんなとこにいないでサバンナに帰れよ」
そうしてエルドラドは再び拳をあげる
「ちょっと!! 女の子に対してやりすぎじゃないの!?」
その言葉に対して、エルドラドはただ口角をあげて答える。
「女ってだけで免罪符になると思うなよ」
「ッッ!!」
「お前は自分が一番すげぇって思ってるんだろうが…………安心しろ、オスライオンも近づかないようなクソビッチみたいな顔にしてやるから」
「や、やめ………」
「黙れ、ビッチ」
幻と生徒二人はエルドラドが主犯を殴る様をただ眺めているだけだった。二人はとても怯えていたが、幻に関してはただ乾いた表情で可哀想なものを見ているような感じであった。
ぐはっ、だとかグフッ、だとか苦しそうな声が聞こえていたが、幻は怯えも恐怖もしなかった。
「…………はぁ」
エルドラドが立ち上がる。殴られていた生徒はあまりの苦痛に悶絶してしまったようだ。
「確かに可愛い女は好きだよ、でも貴様はパス。心がブスだし…………」
エルドラドは生徒二人を見て
「じゃあ、次はお前らブス二人だ。俺、女だからって容赦しないから」
ゴキッ、ゴキッと手の甲を鳴らす。二人は恐怖に慄きすぎたのか、悶絶した生徒を取り残して慌て慌てに逃げていった。
「………チッ」
エルドラドは生徒をゴミ袋を扱うかのように掴むと、校舎の中へ乱雑に放り投げた。
「ゴミが、俺らの花壇の前に薄汚えもん晒すな」
「……………」
「幻、立てるか」
「うん、大丈夫」
幻はぱっぱと服を払いながら立ち上がる。
「………あー、あの豚に殴られたか?痕ができてやがる」
「これくらいならすぐ治るよ」
「痕残らないといいな」
「うん」
「……………なぁ、幻」
「なに?」
「今日、俺の家に来れるか。少し話したいことがあってさ」
「ん? 別に構わないけどどうして?」
「いや……ただ他人に知られたくないだけ」
「そっか、わかった」
エルドラドの家、いたって平凡な家であった。
「あがれ、荷物はそこらへんに置いておけ」
「わかった」
二人はリビングへと向かう。
「好きなテレビ見てて良いからな。麦茶飲むか?」
「あ、じゃあ貰う」
幻はポチポチとリモコンを弄り、エルドラドはトクトクと麦茶を二つのコップに注ぎ、彼女のもとへ。
「ほい」
「ありがと。………それで、話って?」
リモコンを触りながら彼女は彼からの言葉を待った。
「…………あの日の………路地裏で会った日から話すか」
彼がそう言った瞬間、彼女はぴたりとその手を止めた。
「……え……い、いつの話かなー?」
「お願いだから、聞いてくれ。別に拷問するわけじゃない、ただ聞いて欲しいだけなんだ」
エルドラドの尻尾が幻の身体に纏わり、退路を無くす。
「う…うん」
「………お前の見た通りだよ。あの日俺は路地裏でカツアゲしてたんだ、他校の奴らをな。いや、カツアゲというよりかは正当防衛?喧嘩に勝った戦利品?」
「どういうこと?」
「あー…他校の不良が俺と喧嘩して俺が勝ったから戦利品として金をとったってことになるか」
「そう…………ってちょっとまってまさか貴方」
「そうだな。その金でゲーセン行ってる、この前のもそうだよ。だいぶ前のやつだけど」
「それじゃあ貴方どうやって暮らしてるの?ご飯とか大丈夫なの?」
「あぁ……それは弟がなんとかしてくれてるんだ」
「弟さん居たんだ」
「あぁ、ここにはたまにしか来ないけどな。冷蔵庫に飯とか飲み物置いてくんだ。弟は凄くてさ、飛び級何回かしてるんだぜ。それに俺と違って道を外さず歪めずに生きてこれたからなぁ……」
「…………貴方に何があったの?」
「その………馬鹿らしいんだけど………俺小学生の時クラスの女子に恋しちゃってさ」
「うんうん」
「でも、振られた。『別に好きじゃない』って」
「うん」
「まぁ、子供の恋なんてそういうもんだよな。ショックはあったけど中学生になってまた切り替えて、また新しい恋見つけたんだよ」
「うん」
「それで、告白のOK貰えて、嬉しかった。嬉しかったんだ。一緒にいろんなことしたのはまだ覚えてる」
「………うん」
「………………だのに、だのに………卒業した途端別れ話になったんだ。もちろん俺は混乱状態、相手に理由を問いた。そしたらなんて言ったと思う?」
「……………なんて、言ったの?」
「『貴方のこと最初から好きじゃなかった、ただの遊びだった』」
「…………………」
「こっちは真剣だったのに!!本気で好きだったのに!!遊びだとその想いをあしらわれて!!!三年間をぞんざいに扱われて………ッ!!!」
「うん………」
「それで………それで………思わず………殺した……人目につかない場所で………」
「うん………」
「胸を抉って、生暖かい心臓を剥ぎ取って、耳を千切って、脳髄に触った。その途端、俺はこの女のどこが好きだったんだって思っちゃって、笑ってた。肘を伝った穢れた命が地面に落ちて花になったその光景は忘れられないな」
「……………大丈夫だった?」
「あぁ、弟がなんとかしてくれたよ。それから……まぁ単純に他人が……とくに女が信じられなくなってさ。だというのに………お前の学校に転入してから………何故かお前に興味湧いちゃってさ………お前だけは俺のことを好奇心に溢れた視線で見てこなかったからか?」
「へぇ、だから近づきたくてわざわざ一緒の係になったりゲーセン誘ったりしてたわけだ?」
「まぁ、そういうことだ」
「………うん、普通に嬉しいな。なんていうか、私も同じだよ。今まで他人に興味なかったのに、貴方にだけは興味があるみたい」
「俺?」
「いや、興味がないというか……身体が嫌がってるんだ。他人と関わることに」
幻はぐいっと麦茶を飲み干して続ける。
「私さ、見えるんだ。『他人の感情』が。ええと、どう言えばいいかな。良い気分になっている人を見れば良い感情の波が見えるし、嫌な気分になっている人を見れば悪い感情の波が見える。そんな感じかな、本当はもっと複雑だけど」
「うん」
「まぁその、生きてる途端で他人を見下したっていうか、みんな上辺だけで相手を本当に心の底から想ってない、簡単に相手を陥れて見放す。そんな人達ばっかでさ。きっとそこに種族なんて関係ないんだろうね。ほら、この間の子居たじゃない、貴方がフルボッコにした子。あの子なんて特にそう、自分だけの子だった。上辺だけの子だった、まぁ私には筒抜けだったし、そんな子と関わりたくなかったから興味ない素振りしてたんだけど………」
「……けど?」
「なんでだろうね、貴方からはそんな感情が感じられないの。どっちかと言えば、良い方なのかな?悪いもの見てきたこっちの心が楽になるくらい」
「んじゃ…………」
エルドラドは小指を出して
「これからも良い関係をキープしようぜ」
「うん、そうだね。またゲーセンに誘ってよ」
「了解」
「ゆびきりげんまん」
「………ああ、そうだ。テレビゲームでもやるか?」
「おっ、やるやる〜」
「ゲーセンの時とは違うからな、こっちもマイコントローラーで本気出すぜ」
「かかってこーい!」
そうして二人は夕方まで遊び尽くしたのであった。
―――――――――――――――――――――
某日、放課後。ファントムと音廻はエルドラドと幻が一緒に花壇弄りをしているところを見かける。
「ふへぇ、あの二人また一緒に居るになったね。なんというか、前よりも楽しそう」
「……………」
「どうしたの? ファントムさん」
「……………………だ」
「え?」
「いつになったら付き合うんだ!!!あの二人はァーーーーーーーーー!!!!!」
「うわぁっ!?」
「ぐぅぅッ!!もどかしい!!このやり場のないナニカをどうすればいいッ!!!あああああイライラするッ!!!」
「お、落ち着いて。気持ちはわかるけど」
「あんなの誰がどう見たって恋人を超えて夫婦だろとっとと結婚しやがれください」
「私達まだ高校生だよ」
「高校生でも結婚できる!」
「そうなの?」
「確か!」
「へぇ〜」
「……………と、いうわけでちょっと付き合って音廻」
「え、何何…うわー連行されていくぅー」
「…………トランプをやりたい?」
「そう、久しぶりにさ。幻いつもトランプ持ってるじゃん」
「まぁ、別に構わないけど」
「やったー、それじゃあババ抜きにする?」
「そうだね、それがシンプルで良い」
「三人だけのババ抜きとか面白い?」
「「私達は面白い」」
「はぁ」
廊下に一人、女子生徒が居た。顔には誰かに殴られたような痕が残っている。
「………かなりマシになってきたけど………これ残るかしら………」
「うぇーい!」
「あら………まだ誰か居るのかしら」
生徒は教室を覗く。
「………まさか、得意のトランプで負けるなんて思いもしなかったな」
「幻の一人負けー!罰ゲーム執行ー!」
「しっこー!しっこー!」
「それじゃあ罰ゲームは………エルドラドに告白ー!」
「…………………。 はぁッッッッ!!?」
「罰ゲームは絶対だからなっ、この前私が負けた時はちゃんとお昼奢ったしー」
「そうそう」
「……………へぇ……良いこと聞かせてもらったわ………」
後日。放課後の屋上で
「……何だ、珍しいなお前から俺を呼ぶなんて。こんな場所で何するんだ?」
「………………」
「…どうした、黙っちまって。話なら聞くぜ?」
「…………その」
「うん…?」
「……私の………好きな人になってほしい……」
「うん」
「要するに………付き合って、ほしい」
「うんうん…………うん?…………うんッ!!?」
エルドラドの尻尾がぶおんと唸る。
「あ……あ??……俺で……良いなら……?」
そう彼は答えた。
そう、これで終わるはずだった。
「てってれー!」
「!?」
「お前は……あの時のビッチか」
「ビッチっていうのやめてくれない?まだアンタがつけた傷治ってないし。それよりも………」
「何だ」
「そいつは罰ゲームで仕方なく告白したのよ。ちゃんとこの耳で聞いたし、なんなら録音もしてましたー!」
「……は?」
「あら、なんなら聞くー?」
生徒はポケットから小さな録音機を取り出すと、再生ボタンを押した。
『罰ゲームは………エルドラドに告白ー!』
「な…………ぁ………」
「トランプで負けて仕方なく告白したのよねー?罰ゲームで告白だなんて案外酷なことするのねー」
「違う……違うんだよエルドラド………」
「……ふざ……けるな……何で……何でお前……お前も……だったのか………くそ、お前も俺を弄んだ……のか?」
エルドラドは頭を抑えて歯軋りを立てている。重度の混乱に陥っているようだ。
その時
人人人人人人人人人人人人人人人人人
〈 ちょっと待ったーーー!!! 〉
YYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY
ファントムと音廻がスライディング土下座をキメながら現場に凸する。
「ちがうんだよエルドラド幻は悪くないんだよ!!ていうかほぼほぼ私が原因っていうか……」
「その、幻さんが貴方のことが好きなの前々から知ってたんだ。あまりにも足踏みすぎてもどかしいっていうかかえってイライラしたっていうか……だから罰ゲーム形式でもいいからそういう機会作ってあげようかなって………」
『幻、君エルドラドのことが好きでしょ』
『ブッ、何がどうしてそうなるのさ』
『いやどう考えてもそうでしょ』
『それにエルドラドも君のこと好きだと思うよ? だから告白したらどうなんだって話』
『そうだよ脈ありだって絶対。ほら背中押すからさぁ!!』
『わ、わかった……』
「二人は悪くない……自分からやってればこうはならなかったのに……」
「……………」
「何よ罰ゲームは罰ゲームでしょ!!」
「どうしようファントムさん私達が変なことしたせいで……」
「音廻…………腹を括ろう……」
「かくなる上は……」
「責任をとるーッ!!」
「ちょ、馬鹿かお前ら!!?」
「待って待って待って!!!」
ファントムと音廻がフェンスを乗り越えようとしたので慌てて止めた。
その後、エルドラドは半信半疑のような顔つきで
「……わかった……信じて…良いんだな?」
「うん…」
「……本当、だよな? 信じて良いんだな?」
出会った時から、わかっていた
私は彼のことが気になっていると
でも、勇気がなかった
だから、いつも曖昧に答えてた
『そうなるのかな』
じゃない
『そうするんだ』
『そうなんじゃない』
じゃない
『そうなるんだ』
曖昧に答えるな
自分の感情を告げろ
「…………ぇ」
「……?」
「ゴタゴタうるせー!!私が好きなのは貴方なの!!それに上も下も裏も表も無いんだよ!!!」
幻の豹変ぶりにエルドラドは思わず困惑。頬を膨らませながら彼女は彼に近づいて………
「むっ…!」
「むぐっ……」
キスをした。
「…わかった、俺も……めっちゃ…お前が……好きだ…」
「うおおああああああ一時はどうなるかと思ったよォォォォォォォッ!!」
「神父は!?神父はどこに居るんですか!!?教会を呼べェェェェェェェェッ!!!」
―――――――――――――――――――――
「ねぇ姉さん」
「どうした?」
「最近さ、新聞で暴行された高校生の話聞かなくなったね」
「ああ………そういえばそうだね。どうしてだろうね」
「まぁこういうのは無い方が良いもんねー。…あ、幻。いってらっしゃーい」
「いってきまーす」
「…………幻、最近楽しそうに学校行ってるな、何かあったのか?」
「ああ、彼氏くん出来たんだって」
「ファーーーーーーーッ!!!?」
「はファイトのファ〜」
「いやおままて、お?それってマ?」
「マ」
「ファーーーーーーーーーー!!!!」
「ファ〜」
「エルドラドー」
「……あ? ……どうしたんだソレ」
「エルドラドの分のお弁当作ってきた(えっへん)」
「おっ、ありがとなー。……あっ、そうだ幻。前教えたゲームはやってくれてるか?」
「あ、あのスマホゲームでしょ。わりと楽しい♪」
「だろだろ? まぁ色々と惜しい部分が目立ってちと残念だけどな!」
「(エルドラドの膝上で)しょうがないよ、ゲームは楽しくてもクソシステムがあるだけで一気にクソゲー化する。私達と同じだよ、アンチが全くのゼロってわけじゃない」
「んだな、ところで結局あの生徒どうなったんだろうな」
「興味ないね」
二人で手がけた花壇の中で、小さく芽生える恋の花。
「あぁッ、ファントムさんがあまりのオーラに耐えきれず尊死したー!」