お願い
……あれは……なんだ……?
俺は目が合ってしまったまま、口を開けて放心状態に陥っていた。
「こんなところでどうかしましたか?」
半透明の少女は優しい笑顔で語りかけてきた。
しかし、俺はそんなところではなかった。
え……今、喋った……?
あの少女はこの世の者ではないという結論までたどり着いた俺には、そう思うことしか出来なかった。
「あなたに聞いてるんですよ?」
その声はさっき聞いた声よりもすごく近くに聞こえた。
それもそのはずだ。今、あの少女は俺の目の前にまで迫ってきていたのだから。
その少女は俺が抱っこをしなければありえないような体勢で俺の目をじーっと見ていた。
「?!」
やっと我に返った俺は、あの少女が今目の前にいるということに気付き、誰かに押されたように今まで座っていたベンチに座った。
いや、ここは座らざるを得なかったと言うべきだろう。得体の知れない少女から少しでも距離を取るために。
「ねぇ!私の事見えてるし、声も聞こえてるんでしょ?!」
その声は今までの優しい声ではなく、なかなか気付いてくれなくて少し苛立っているような声だった。
「あっうん。そうだよ?」
やっとまともな思考を出来るようになった俺は、少し震えた声で返した。
「この辺りでは見ないような顔だけど、名前は?」
こんなやつに俺の名前を教えても大丈夫なのか?
少し不安になったが、何故か大丈夫だと思えてきた。
「俺の名前は鈴木陽斗。お前は?」
言ってしまった…
冷や汗をかきながら俺は少女に聞き返した。
「私?!えっと…………覚えてないや。」
人差し指で自分の頬をかきながら、うっすら笑う少女。
それがすっごく可愛く思えてきた俺は異常なのだろうか…いや、これを見て可愛いと思えない奴がおかしいだろ!
「……お前、幽霊なんだろ?」
咄嗟にでた言葉がこれだった。
あーー!何聞いてんだ俺!明らかに幽霊っぽい奴に幽霊ですか?って聞いて大丈夫なのか?
俺はすぐに後悔した。
でも、そんなことはしなくて大丈夫だった。
「そうですよ。」
「へ?」
思わず口に出してしまった。
あまりにもサラッと言うものだから…
「じゃあさ、ゆうって呼んでいいか?」
俺はちゃんと少女―ゆうの目を見て言った。
ゆうは少し動揺していたが、とても嬉しそうにしていた。
「ゆう……すっごくいいじゃん!気に入ったよ!」
そう言うゆうの目はキラキラしていた。
「ねぇ陽斗、これは私のわがままなんだろうけど…」
ゆうは顔を赤くして、モジモジしていた。
「私を陽斗の家に住ませてくれない?」




