1話 ダンジョン
「おいおい...どうなってんだこりゃぁ...」
テレビのニュースをじっと見つめてそう口ずさむ。
ニュースに写っている光景は洞窟から緑色の肌をした小学生くらいの人がぞろぞろと出てきている映像だ。
そして、その緑色の肌をした人は近くにいる通行人など人を襲っている映像だ。
「また......1人...」
画面の奥でまた1人死ぬ。
今まで見たこともないスーツをピシッと着込んだサラリーマンの男性が緑色の肌の人の手によって背後から殴り殺される。
それでもその男性は持っていた傘で何体も緑色の肌の人を倒していた。
「意外と簡単に倒せるのか...?」
と言うかあの姿を俺は何度も見たことがあるし、何度も倒してきている。
以前やっていたVRMMORPGファンタジア・オンラインで出てきたゴブリンにそっくりだ。
だが、それでも数の暴力でどんどん殺していく。
そこで俺は1つ思い浮かんでしまった。
リビングの窓からでも見える白亜の巨塔の存在を。
「あれもダンジョンなのか?」
俺は嫌と言う意味でそう言ったが十中八九確実にダンジョンだろう。
むしろあれがダンジョンじゃなかったら他になんだと言うのか......
でも、まだこの住宅街は閑静だ。
鳥の鳴き声や、木々が騒めく音しか聞こえない。
スマホで今の状況を調べてみる。
(...........なるほど、見た感じ魔物が出てきてるのは一定のダンジョンみたいだな。そうは言ってもあのダンジョンから魔物が出てきてないって確証はないけど...)
やっぱり今の時代は便利だな。
まぁ、俺が生まれた頃には通信機器が発達してたし昔の事はわからんが、トゥイッターで#ダンジョンって調べれば呟きが見れる。
「んー、便利だけど本当か嘘かわからんのだよな......近場だし見に行ってみるか...」
俺は2階にある自分の部屋に行き、寝巻きから運動出来る服装に変える。
そして、押し入れの中からお目当てのものを探す。
少し探してようやく見つけたのは修学旅行で買った木刀。
念のため武器は持ってった方がいいと思ったからだ。
もしゴブリンとかが出てて、俺が素手だったら逃げるしか選択肢ないからな。
「よし!行くか!」
俺は今は誰もいない家の扉を開け、鍵を閉めて白亜の巨塔のある方向に向かって歩く。
「ほんとにでけぇな。」
近づいてくるとわかる。
以前みた東京スカイツリーなど比べ物にならないほどに高い塔。
さらに近づいてみると、白亜の巨塔の真下まで行ける。
「なんだ...?あれ」
俺の見つめる先には表現出来ない色が渦を巻くように、アニメとかである転移門みたいな見た目の物が塔の壁に存在している。
「ギィア゛ァァァァ」
突如、渦が逆回転に周り始め、そして何かが出てくる。
それは緑色の肌、ぎょろつく黄色い目玉、小学生程の身長を持つゴブリン...........
とは程遠く、真っ黒な肌、額に生える赤く脈動している双角。真っ赤な眼光。
それはゴブリンだ。
だが、ほかのゴブリンと何もかもが違う。
今まで感じたことのない絶望感......そしてその存在感。ビシビシと伝わってくる威圧。
「おいおい......おかしいだろ」
俺はただただそう呟く。
呟くことしか出来なかった。
次の瞬間......
「え?」
目の前にいた黒いゴブリンは消え、そして俺の後ろに立っていた。