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約束のアポストル  作者: 飯綱 阿紫
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8-8-4-1

エーアスト・レーンスヘル、それが俺に与えられた名だった。

鉱物や宝石などの資源が豊富に採取することのできる鉱山や土地の権利を有していて、先祖に文官を務めていた者がいるせいか、やたらと本の多い…それだけの家。

それだけとは言っても割と伝統はある家系らしいし、今までの業績を見ても割と良いことをやってのけていることが多いのでレーンスヘル家に誇りはある。

だからこそ一応貴族として分類されるだけとはいっても、その誇り故自分でもそうだと思い可能な限りそうあれるようにふるまっていた。

とはいっても、王都周辺にいるような豪華絢爛な衣装で自身を飾りつけてどうすれば王家の者に取り入ってもらえるか、またはより良い家柄の者と関係を結べれるか…そんなことを考えているような人達と一緒だとは思えなかったが。

と、いうのもレーンスヘル家は割と貧乏貴族で、この治めている領地を衰退させないようにすることで精いっぱい。

いつも金銭のやりくりには苦労していたと思う。

お金に困っているのは自分が産まれるよりも前から、ずっとそうだったらしい。

その問題を解決するために自分という存在は産まれた、と一度聞かされた。

ここから少しだけ離れた場所を治めているエーデルシュタイン子爵、アレが一応自分の父親らしい。

エーデルシュタイン子爵はすでに結婚しているが、その相手の人は身体があまり強いほうではないうえに長く共に暮らしているが一向に身ごもる気配がないようだった。

跡取りが産めない以上破談することもあるはずだが、一向にそうなる気配はない。

共に暮らして情でも湧いたか、それともできない理由があるか…エーデルシュタイン子爵とは何度かあったことがあるがどうにもそんな情ごときで動かされるような人でもないような気がする、となると理由は後者となる。

子どもは幼い頃の方が死にやすい、病気か事故か…はたまた誰かの恨みを買うか。

その危険性をよく知っているからこそ、子供は複数人いることが望ましいとされているこのご時世。

子宝に恵まれないというのは、そうとう彼にとってストレスだったのだろう。

なので、近くにいて、金銭に困っているレーンスヘル家が目をつけられた。

…当時結婚適齢期だった母の存在があったのも要因として大きいのかもしれない。

子爵はそれなりに懐に余裕があったらしく、金銭の保証をする代わりに自身の愛人として子供を産むことを要求してきた。

最初は断っていたらしいが、結局のところ承諾して産まれたのが自分。

トントン拍子で産まれてきた子、しかも男児。

これには子爵も喜んだそうだ、それもそうだろうようやく自分と血のつながった男児、跡取り息子が産まれたのだから。

ここで話が終わるのなら、自分も特に子爵と何ら揉めることなく過ごしていたし何なら父とまで呼んでいた未来もあったかもしれない。

だが、ここで話は変わってきた。

自分が産まれたすぐあと、奥方が懐妊した。

産まれたのは双子の男の子、当然子爵は自分の時以上に喜んだ。

だが、体の弱い女性との子供、そして何より双子。

双子の場合、普通よりも負担が大きい。

出産であれ、育児であれ…とくに育児は大変だ、単純に二倍忙しいだけではないのだから。

それに体の弱いのが遺伝的なものであった場合、この双子もそうである可能性は十分にある。

せっかく産まれて後継ぎとして育てたのにも関わらずあっけなく病死してしまってはたまらない。

その保険として自分もその双子同様にそれなりに高水準な教養を施された。

勉学は特に苦ではなかった、知らないことを知るということがとても楽しかったし、何よりこの知識がいつかどこかで約に立つ、そう思えば今この時くらいちょっとは我慢できた。

地頭がいいのか、好奇心がなせることなのか自分でも驚くほどに勉強を上手くいった。

腹違いの二人の弟は遊ぶことが最優先らしく、家庭教師を撒いて逃げる姿をよく見かけた。

…そうこうしている間に、また兄弟が増えた。

四つほど年下で、同じ母から産まれた弟…フィーアト・レーンスヘルだ。

だがその弟は妖精の愛し子だった、何時かは…きっと大人になる前にこの世から消える、自分の認識することのできない世界へと行ってしまうことが決まっている子だった。

そのさらに数年後、今度も同じ母から産まれた妹、名前はフュンフト・レーンスヘル。

このころになってくると、エーデルシュタイン子爵の興味は主にツヴァイとドライに向いていて、自分への教養は惰性で続けているようなものだった。

だが終わりとは突然来るものだった、急にエーデルシュタイン子爵の後継ぎ候補から外された。

候補から外れたなら教養を受けさせる必要もない、屋敷にとどめ置くこともない、と追い出されて約束をしたはずのレーンスヘル家の生活を保障するためのお金すら碌に渡さないまま…エーデルシュタイン家との契約は終わった。

ここで縁も切れた、少なくともレーンスヘル家はそう思っていた。

レーンスヘル家に戻ってからは金銭問題に関してはしょうがないと諦め…もともとあまりあてにしていなかったのかもしれない…家族全員で何とかしていこう、と決意した。

幸いにもレーンスヘル家にも男児は二人、一人は…妖精の愛し子故跡継ぎには向かないが、それでも今後のことを心配する者はいなかった。

自分も、レーンスヘル家の跡取りとしてこれから、頑張ろうとそう思っていた。

数年経ち、フィーが仕事の合間に本を読んだり町に来ていた商人の話をよく聞くようになっていた。

なぜ、そんなことをしているのかと聞くと。

「ここもとても素敵だけど、外の世界にももっと素敵なことがある、僕はいつかこの世界からいなくなってしまう、だからその前に…自分の目で世界を旅して景色を見たい、僕はきっと冒険者というものにあこがれているんだ。」

と、言われた。

正直に言うと羨ましい夢だった。

次男だから、妖精の愛し子だから、跡取り息子ではないからそんな風に将来のやりたいことを、望みを口に出せると。

自分はどうあがいても家を存続させるための存在だというのに。

自分も、きっと自由な立場であったなら、ここだけではないいろんなところを旅したいと願っていた。

「やれるさ、そのためにいろんな準備しないとな。」

だが、自分の望みは蓋をして弟の頭を撫でながらそう言う。

恨んでなんかいない、嫉妬もしていない。

ただ少し羨ましいだけ。

嬉しそうにほほ笑んだ弟の顔を見ていたら、急に使用人の一人が慌ただしく自分に駆け寄ってきた。

一体何事だろうか、と要件を確認すると、すっと手紙を差し出された。

アイツからの手紙を。

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