13-17-4-11
あれから特に問題らしい問題は起こることなく無事にトレヴィオに戻ることができた。
道に迷うことなくイザークとの待ち合わせ場所に戻ることもできたし。
アストとソーヤも無事に買い物を済ませることができたようだった。
それにしては荷物が増えているようには見えなかったので買ったものはどうしたのか?と聞くと、まだ作ってもらっている最中らしかった。
今日はどうやらそのオーダーメイドでこういうものをと注文して先に料金を支払ったくらいらしい。
制作期間はだいたい2~3日とのことでなんとかフィーの誕生日には間に合いそう、とのことだ。
アストは事情を知っているイザークからまた3~4日したらルズベリーに行く用事があるからよかったら乗っていきなよ、と声をかけれられていた。
それに頼るかもしれない、とだけ返してアストとフィーはカタラクト商店から足早に去っていった。
フィーのほうは半ばアストに引かれるようについていった、ので様子がおかしいのはアストとなる。
「ソーヤ、アスト…店でなんかあったのか?」
二人が出て行ってから確認のためにそうソーヤに聞いてみた。
「ううん、お店の人と話してるときも案内してるときも普通、だったと思うよ。…ただ噂話が気になるみたいで、人がねたくさん話をしているところにいるとちょっと、先を急ごうとするところはあった…かな。」
たどたどしい言葉だったが、ソーヤの言葉に思い当たる節がアーロンにもある。
オリゾンで食事をして、会計を待っていた時も噂好きな人達が近づいてきて、意識しなくても会話の内容がこっちまで聞こえるようになった時にアストの表情があからさまに良くなかった。
何か聞きたくない、不愉快な会話だったのだろうか。
それとも、自分にとって不利益な情報に頭を悩ませていたのだろうか。
本人に尋ねない限りわかることのない疑問だった。
「まぁなんにしても今日はお疲れ様、また頼みたいことが出来たらお願いするね。」
その思考に終止符を打つタイミングを与えたのはイザークだった。
彼は冒険者ではないからソーヤよりも一緒にいる時間は圧倒的に少ないにも関わらず、こちらの考えていることだったり何をしてほしいかというのを的確についてくる気がする。
もしかしたらこういうのが商人の才能なのかもしれない。
そんなことを漠然と思いながら、イザークに別れの挨拶を済ませ帰路に就く。
ほとんどが移動時間だったから歩きすぎて足が痛いだと戦いすぎて傷があちこちできたとか、そういうものはなかったが長時間座り続けたせいか心なしか腰が痛い。
それをごまかすように目いっぱい背を伸ばして腕を高く伸ばす、ついでに腰も伸ばす。
「アストとフィー、はさ。」
「ん?」
「なんで、冒険者になったんだろうね。」
「何でだろうな。」
ソーヤとポツリポツリとこぼれるような会話が続く。
が、そう遠い道のりじゃなかったため会話が本格的になる前に家へとついた。
「ただいまー。」
「ただいま。」
「あぁおかえり、早かったじゃないか。」
帰宅を告げるとすぐに先に家に帰ってきていた父が返事をしてくれる。
当たり前のことだが、冒険者になって命の危険を身近にしているとどうにもこの日常が大切になっていく。
夜、夕飯を終えてアーロンは自室で今までミコトと交わしてきた手紙を読み直していた。
ミコトの手紙は字が余りキレイなほうではないためたまに文字が変なことになっていることもあるし、なかなかの長文だ。
それはアーロンの手紙に対する返事と今どの町でどんなことがあるという自身の近況の報告から始まり、一番文章量を費やしているのがダンジョン及びモンスター・エネミーの考察やら生態についてだった。
流石頭脳派といえばいいのか中にはとてもアーロンでは理解できそうもないことまで書いてある。
そんな手紙を読み直しているのは、その手紙のどれかに妖精について調べたことを書いていたこともあったはず、と思い出したから。
フィーには深く考えなくても大丈夫、的なお言葉をもらったが、やっぱり気になる。
妖精の愛し子以外の人間が特定の妖精に好ましく思われていたこと、後天的に妖精の愛し子になる可能性、そして時の妖精はどういった存在なのかどんなことができるのか…。
今この場にミコトが居ないことが非常に残念だ。
きっと彼なら興味津々であれこれ調べるに違いないし、アーロンもこの探求心…いや知的好奇心?を満たしたいので絶好の相手だ。
だが、この場にいない人にいろいろ期待するのは出来ない。
代わりとして、今彼の知識のかけらとなっている送られてきた手紙を漁ることにしたのだ。
しかしそれなりに溜まった手紙の数とミコトの長文の中からそれを見つけ出すのは非常に困難だった。
「ふぁ…ぁ。」
慣れない馬車移動をした日だったのでいつもより疲労感が抜けきらないでいる。
何度もあくびを漏らしては目をこすり、もう少しだけ、と言い訳をして手紙を読み続ける。
そう読み続けてどれほど経っただろうか、残りの手紙の数と自身の眠気を天秤にかけはじめた。
夜も深まり、深夜と呼べる時間。
これ以上の夜更かしは明日…いや今日の作業に影響が出てしまう。
この手紙で最後にしよう、と心に決めてアーロンはその手紙を開く。
最初のあたりさわりのない挨拶や今関係ないと判断できる文章は軽く文字を見る程度で流し見をする。
こういうところでいちいち全文しっかり読んでしまうと手紙を書いた時期は確かこんな時だったな~などと思い出が出てきてしまい時間がかかってしまう。
できるだけ知りたい情報以外に興味を持たないように目を若干細めながら文章を追う。
一枚目、二枚目、三枚目、と関係ないものを机の上に戻していく。
そして
「あった…!」
ようやく、ミコトの書いた妖精について調べたものを見つけ出した。
手紙というよりはどこかに提出するようなまとめ方をしていた。
「妖精と四大元素、についてか。」
基本的な属性は地水火風それに加えて特別に光と闇という属性があるのがこの世界での一般的認識。
それに合わせて妖精たちも存在し、天使も語り継がれている。
複合属性の話も、アーロンはこの手紙である程度のことは知った。
だが、当時は理解できずに読み飛ばしていた場所もあったはず。
今はとにかくそこを見つけて読まなければ、と再び文字を追っていく。
そして、とある言葉が目に留まる。
「四大元素・光・闇だけではない、複合属性でもない属性の可能性…?」




