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オリゾンを出て予定通りソーヤとアストはフィーに詳細を告げずに別行動をとり、アーロンとフィーは海の見える方へと歩き出す。
大通りをまっすぐ見える方向へ行ってしまえば迷うことなくついたし、さほど遠くない距離。
少し冷えてるように感じる潮風が吹いて、二人の髪と衣類をはためかせる。
「わー!すごい、海だ!!」
フィーは興奮そのままに海に向かって駆け出す。
港に近い場所だからか、一通り整備してある場所で海面に比べると高い位置に地面がある…多分岸壁というものだろう。
今は船が泊まってはいないが、おそらく船を泊めておく場所になるのだろう。
「おい、落ちるなよ。」
あまりにもテンションが高いのでこのまま海に落ちてしまうのではないか、と多少不安になってしまいそう声をかけてしまう。
「大丈夫!」
いつも世話をしているソーヤとは違ったタイプの年下の子に若干戸惑いながらもできるだけ目を離さずにいることにした。
流石に海に飛び込んだりするわけでもないようで、岸ぎりぎりのところに膝をついて座り、水面に映る自分の姿を覗くようにしていた。
「あ、お魚…よく見たらあそこの縁のところに貝がいるよ!あれなんだろう?」
海を見たことがなかったのか、フィーは予想以上にはしゃぎいろいろなものを見つけては質問をしてくる。
だが、アーロンも海とは無縁の雪山産まれ、育ちもあまり海にかかわってきていないためそのあたりの知識は欠乏している。
「悪いな、俺海詳しくなくてさ。」
質問には答えてやることができない、と苦笑しながらいう。
「アーロンも海初めてなの?」
「まぁな、元々雪山育ちだし泳ぎの練習すらしたことのない、見るのも…こんなに近くは初めてだな。」
「僕も、こんなに近くは初めて!」
質問に対する答えが得れないことに不機嫌になるでもなく、ただ相手との共通のことを見つけれてフィーは無邪気に笑う。
兄弟ともども、どうにも人を無自覚に誑かす癖があるらしい。
それから目をそらすようにして、海に視線をやり、波のウェーブをなぞるように視線を横に向けていくと、少し離れた場所にクリーム色の空間を見つける。
恐らく、砂浜だ。
一般開放されているようでちらほらと子供とその親らしき人々が見える。
「あっちのほうに行けば砂浜があるっぽいから多少遊んだりできるんじゃないか?」
「え、どこどこ。」
ここでは海で遊ぼうとするとどうしても飛び込む形になってしまう。
今二人の恰好はどう見ても海用の装いではないし、そのまま飛び込んでしまうと着替えがないため帰りが悲惨なことになってしまう。
ただでさえ海風を受けただけでも武器防具は錆びやすいと聞くので、浸すことは絶対に避けたい。
砂浜なら十分に気を付ければ武器を海に浸すことや服を無駄に汚す心配もすくないだろう。
そう思って、フィーにそう勧めるとフィーは思ったよりも食いついてきて砂浜を見つけ次第、すぐさまアーロンの手を取り、行こうとせかしてきた。
「そんな焦らなくても逃げないって、道覚えながら行こうぜ。」
「そうだった!フフッ楽しすぎていろいろ忘れちゃった。」
ごめんね、と軽やかに笑いながら言われる。
そう謝罪されるようなことでもないので、小さく返事だけ返してそれでおしまいにした。
そうしてゆっくりと海沿いに歩いていき、並んでいる店を見ては他愛のない話をする。
のんびりとしてちょっと贅沢な時間の使い方をしているのではないか、と思える。
たまにはこういうのも悪くはない、横目で海を見つめているとふいに視線を感じた。
特段嫌な感じではない、しかもその視線の主は身近な人間。
間違うことはない、フィーがじっとアーロンのことを見つめていた。
たまにフィーが何もないところを見つめていることはあるが、それはだいたい妖精を視線で追っていることが多い。
そうじゃないときはだいたいはぼんやりしていて時。
今回もそういうものかと思ったのだが、視線がアーロンからずれることがない。
間違いなく、アーロンを見ている。
「…フィー?そんなに見られても困るんだが。」
何かしただろうか、それとも気づかぬうちに会話を無視してしまっただろか、と内心焦りながらそう聞く。
フィーはさきほどまでの楽しそうな笑みはどこへやってしまったのか、真剣そうな顔で見つめてくる。
そういう表情は兄弟でそっくりなんだな、と場面に似合わないことが思わず頭がよぎる。
だが、今は言うべきではないだろうと口をつぐむ。
「アーロンってさ。」
大きな宝石のような瞳でじっと見つめられる。
見れば見るほど、本当に宝石のように思える、実はフィーは人形で瞳は宝石で作ったと言われても思わず納得してしまいそうなほどだ。
「な、なんだ?」
「聞かないんだね、僕たちのこと。」
「……は?」
一体なんのことだろう、と思考が停止した。
「僕たちが普通じゃないってわかってるでしょ?」
そこまで言われてようやく、思いいたる。
身分のことか、と。
「気になったりしないの?」
「気には、なるけど本人が言わないことを…言いたくないことを根掘り葉掘り聞くのは気分良くないだろ?それだけだよ。」
その返答に満足したのか、フィーはそっかーとどこかそっけない態度で顔をアーロンからそらす。
「もしかするとすっごい犯罪して逃げてきたのかも、とか思わないの?」
「犯罪ってどんなだよ…それならこんな白昼堂々優雅に散歩したいなんて言わないだろ、普通。」
「僕が冒険者をしてることは?」
「別にしてもいいだろ、冒険者は身分関係なく誰でもなれるものだ。」
いくつかそんな風に質問を続けられる。
正解などはないんだろうが、あまりにフィーの態度が素っ気ないままなので何を言えば正解なのか、と思わず悩む、がそれは杞憂となった。
「そっかー。」
返答自体はまたしても素っ気ないままのもの、だが少し楽しそうな弾むような口調に戻っていた。
ちらりと横目でフィーの表情を確認する。
長い前髪で全体を見ることはできないが、それでも口の端が耐えきれないように上がっているのがわかる。
「フィー?」
「フフッ、ごめんねついいろいろ聞いちゃった。」
そういった彼の顔はすでにもう元の明るい楽し気なものに変わっていた。
一体なんだったんだ、と悪態をつきそうになったが、それよりも先にフィーがこういった。
「だって妖精さんの一部が君のこと好きそうだったんだもん。」




