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「僕の…親戚?に木材加工する人がいて、その人なら多分そういうのわかると思う。」
驚きのあまり、問いただすようなことをしてしまったため少しソーヤから情報を聞き出すのは難儀したが、なんとかそう聞くことができた。
「ソーヤの親戚、って確か…近くの村にいるよな。」
「うん、リアン叔父さんがいるけど…その人は鍛冶屋だから違ってて、えっと…僕の従兄弟?がそういうお店を出してるって…たまに叔父さんが教えてくれるから。」
あまり情報に自信がないのか、少し困っているような表情をしている。
ともかく、手詰まりだった先までとは違ってわずかでも希望が見えた。
それだけでいいだろう。
「あとは実際見てみないとわからないしな、それだけでもわかれば助かる!」
アーロンの返答にほっとしたのか、ソーヤは少し照れたように微笑む。
「そうだね、ありがとうソーヤ君よければそのお店を紹介してくれると嬉しいんだけれど。」
アストもようやくプレゼントがどうにか工面できるという安心感のせいか、さっきよりも疲労感の薄れた晴れやかな笑顔をしている。
「あ、えっと…お店は…ちょっと遠くって、ルズベリーまでいかないと。」
ルズベリーはトレヴィオの町の森を抜けてさらに橋を越えた町。
ここよりも王都に近いせいか、美しい街並みや、海に隣接している土地がらのせいかこの一帯の町の中では一番発展している町で、貴族がそこに別荘を買い避暑地としてやってきたりする。
この辺り一帯の冒険者を管理するルズベリーギルドもあるため、アーロン達のような冒険者も度々耳にする町だ。
「ルズベリーとなると…今から行くにはちょっと遠いな。」
ルズベリーに行くには馬車で大体半日かかる、町で買い物をして…ということを考えると行きかえりで丸一日潰れてしまう。
もうすっかり太陽は真上にまで来ていて、影を自分たちの足元に落としてくる。
昼の今から行くと帰るころには夕方を過ぎる、そうすればフィールドでの行動はさらなる危険を伴うことになる、それを避けるにはあちらで宿をとり泊まることになるが…さすがは発展した町、宿の代金も馬鹿にできるものではなくて、よほどのことが無ければ避けたい出費だ。
「フィーを置いていくには少し遠いな…だがありがとう、良いことが聞くことができた。」
あまり長いこと離れていると弟のことが心配になってしまうのか、アストは少し悩んだ様子があったがすぐに何とかする術を見つけたのか、笑ってそう答える。
「あ、でも…ルズベリーの少し入り組んだところにあるからわかりずらいかも。」
「え、そうなのかい。」
それは困った、とアストは腕を組み、何事か思考を始めた。
その様子をソーヤは何か言いたげに見つめている。
引っ込み思案というのは少し厄介なものだな、と思いながらアーロンはいつも通りソーヤの背中を押すことにした。
「ソーヤは店の場所は知ってるんだよな。」
「え、うん。」
よっぽど自分のことで精一杯だったらしく、アーロンが話しかけたことにソーヤは少し驚いたようだった。
少し肩をはねさせながらそう返事するほどに驚くとは思わなかったが。
「さっきカタラクト商店でもらってきた依頼はルズベリー方面でも解決できるだろ?」
「えっと…多分大丈夫、必要分は手に入る。」
「確かイザークって今店の手伝いしてるけど仕入れとかもやってるよな。」
「そう、聞くけど。」
「仕入れ先にルズベリーがあったよな、こないだもそういってなんか商品紹介してたし。」
「うん。」
話のつながりが見えないのか、ソーヤは話題をポンポンと変えて話し続けることに困惑しながらも相槌を返してくれる。
「俺さ、実はイザークにちょいちょい仕入れペースとかどこに行くのか聞いてるんだけど明日は丁度ルズベリーに行く予定って聞いてたんだよ、だから依頼受けたついでに馬車に乗せてもらえば依頼もこなせるし、ついた先でちょっと道案内することだってできると思うぜ?」
そう言ってやると、ソーヤはようやく合点がいったようで、小首をかしげていたのを元に戻しながらあぁ、と思わず声を漏らす。
そして、いいのかな?とでも言いたげな表情で、アーロンに問うてきた。
アーロンは言葉を出さず、揺らぐことなくソーヤの目を見てこくりと頷く。
実際のところイザークに聞いてみないとわからないことなのでここで勝手にいいだろう、と判断するのは違うのだが、以前似たようなことをしたことがあるので今回もきっと大丈夫だろう、と踏んだ。
とはいえ、話が纏まったらすぐに任務の兼に合わせてこのことを聞かないといけないな、と思いながら目の前の光景を見守ることに徹した。
「あ、あの。」
ソーヤがアストに意を決したように表情を固めながら話しかける。
「ん、どうした?」
アストはまだ何事か考えていたようで腕を組んで思考に没頭していたようだったが、ソーヤが声をかけるとすぐに返事をして朗らかにほほ笑みを浮かべながら対応する。
何かをしていてもすぐに切り上げて対応し、嫌な顔一つしない、こういうところに精神的余裕を感じるし、同じ兄として年下の人に甘いんだろうな、とも感じる。
良いところの坊ちゃんなのか、という質問にもあいまいではあったがほぼ肯定ととれる返答をしたのでおそらくそういった良い対人関係を築けるような教養というのも受けていたに違いないんだろう。
「明日、もしかしたら僕たちルズベリーに行けるかも知れないんです、それで…あのえっと、よかったらお店、案内するから…一緒に来ません、か?」
たどたどしいが、アーロンが思ったよりはスムーズに提案の言葉の伝えることができた。
「それは、俺はとてもありがたい提案だが…いいのかい?」
「た、たぶん…大丈夫、です。」
「そうか…!ありがとうソーヤ君、ぜひともよろしく頼むよ。」
アストは思ってもなかった提案だったのか、予想以上に喜んでいて好印象を与えるためだけに作り上げたような笑顔ではなく、彼自身が心のままに自然に浮かべる笑顔を輝かせながらそう言っていた。
「は、はいあ、えっとア、アストさん。」
「俺のことはアストで構わないよ、アーロンもそう呼んでいるだろう?」
「はい…僕もあの。」
「ソーヤ、と呼んでもいいのかな?」
アストの言葉にためらいがちにだが小さく頷いて意思を示す。
「あぁ、わかったよソーヤ、あとで俺の弟のフィーのことを紹介するから、よかったら仲よくしてやってくれ、多分君と同じ年ごろの男の子だ。」
そう話を進めている二人を横目にアーロンはイザークにどう説明したものか、と考えることにした。




