13-17-4-3
「砂糖を報酬に…あぁだから角砂糖入れがいるのか。」
ようやく理解した。
妖精の愛し子を現世にとどめるには愛し子が妖精に頼ること、そして頼ったら報酬として砂糖を渡すことが必要となる。
アストはそのために割と頻繁に交換が必要となる魔石を利用した攻撃方法を編み出して、その魔石を愛し子であるフィーに作ってもらう。
その報酬用として角砂糖の用意もする、といった具合だろう。
「で、何かいいもんが無いかーって探してたってわけ。」
取り出した魔石を元の場所に戻しながら、アストはそういう。
「角砂糖入れって言われてもなー…あそこのガラス製のは?割と柄キレイだし金属じゃないから妖精だって嫌がらないだろ?」
長くこのトレヴィオの町に住んでいるとはいえ、キッチン用具や贈り物についてはあまりどの店のものが良いという知識はない。
キッチン用具はだいたい父が買いそろえたりソーヤ夫妻が使っていたものそのままを利用しているので買い足すことはほぼないため、そういった店にはあまり行かない。
そもそも良くいく店は冒険者御用達の店だったりいつも行く食堂やある一種なんでも取りそろえるカタラクト商店くらいだ。
花屋だったり雑貨屋の類は依頼があれば出向いて話を聞くことはあるが、忙しく駆け回っている日常の中にわざわざ立ち寄って買おうということはない。
だから今も、たまたま目に留まったものをそのままアストに勧めてみただけだった。
「あー…ガラスは割れやすいからダメなんだよ、ほら仮にも冒険者だからさ。」
くすりとほほ笑みながら却下された。
確かにガラス用品はあまりよろしくないかもしれない。
エネミーやらモンスターから攻撃を受けた際、または不慮の事故で転んでしまった場合に割れていらない怪我を増やしてしまう可能性は大いにある。
「じゃー…あの木箱はどうだ?小ぶりで持ち運びしやすいお弁当みたいな形してるけど角砂糖入れるくらいだったらいいんじゃないか?」
「木箱はな、中身が湿気るんだ…。」
「あっちの飲み物入れは口が広いから角砂糖くらいなら…。」
「スキットルのことか?あれそういう風に染めてあるからわかりにくいが金属だぞ。」
「まじかよ、じゃー…。」
などといくつかの店を回りつつあれはこれはと二人で探し回ったものの、めぼしいものは見つからなかった。
金属じゃなくて割れにくい、そして中身が湿気りにくいような持ち運びのしやすい容器、というのは意外にも相当な難問だった。
「悪いなアーロン…こんなにあれもこれもダメ、という羽目になるとは思わなかったんだ…。」
若干アストの表情にも疲れと申し訳なさがにじみ出てきた。
もっと簡単に見つかると思っていたのだろう、それはアーロンも同じ思いだったが、今となっては認識を改めざる得なかった。
ガラスは割れやすいから冒険者として持ち運ぶには少しリスクが高い、金属は妖精が嫌うから絶対にダメ、木材だと中身の砂糖が湿気るから妖精が良い顔をしない、陶器や磁器も比較的割れやすいものでそこそこ値の張るものが多い。
といった具合にいろいろ見て回ったが、どれもピンとくるものがなかったのだ。
「もうこうなったらガラス容器を買って割らないように注意するくらいしか方法がなさそうだな…。」
と半ばあきらめたようなことを言うアスト。
正直アーロンもそうだと思ったが、どうしても同意ができなかった。
こんなに一生懸命弟のことを思い、使い道やら特性やらを考えたうえであっちにこっちにと商品を見て回ったのにも関わらず、こんなところで妥協してしまうのは負けた気がする。
だからあきらめたくないのだが…いかんせんアーロンの足りない知識ではどうにもこれが限界だ、と値を上げる。
アストの言葉どおりにガラスの容器でも買いに行くか、となったときに後ろから聞きなれた声がした。
「アーロン、さがし…た…よ。」
振り返るといつも一緒に居ると言っても過言ではない、もはや冒険者として相棒ともいえる存在のソーヤがそこにいた。
ソーヤは備品の買い出しをしていたのか、カタラクト商店の買い物袋を両手に抱えて少し驚いた表情をしてこちらを見ていた。
正確にはアーロンを、ではなく隣にいたアストの方を見ていた。
恐らく知らない人がいることに気が付かずにいつものようにアーロンに話しかけてから、その存在に気づいて人見知りを発揮しているのだろう。
「ソーヤ、どうした?何かあったのか。」
ソーヤの人見知りはまだまだ治る気配がないな、と感じながらそう声をかける。
その言葉でようやく意識をアーロンの方に戻したソーヤは、要件を伝えてきた。
要件は簡単なもので買い出ししたカタラクト商店でちょっとした依頼を受けたそうだった。
急ぎというわけではないようだができるだけ早く素材が欲しい、というたぐいの物。
素材は近所に生息するモンスターで間違いないし、特にてこずるような相手でもない、量が必要なわけでもないのでこれならば明日から取り掛かっても大丈夫と判断して、ソーヤにもそう伝える。
ソーヤも同じことを考えていたのか、だよねと言いそうな安堵の表情を浮かべていた。
が、すぐにアストの存在のことを思い出したのか、スッと口が引き結ばれる。
そういえば、まだ名前すら紹介してなかったなぁと思って少し蚊帳の外にしてしまったアストに向き直る。
アストは蚊帳の外を気にしている様子はなく、それどころかソーヤのことを少し面白そうに見ていた。
何だろうか、一目見ただけで自分と同じ遠距離型の冒険者ということにでも気づいたのだろうか。
「アスト、こいつが前に話してた一緒に冒険者してるソーヤ、弓がメイン武器なんだ。で、ソーヤにも前話しただろ?こいつがアスト、妖精の愛し子が弟にいるって言ってた奴。」
妖精の愛し子、と聞いてソーヤがようやく小さくあぁ、と納得した声を漏らす。
「君がソーヤ君か、アーロンから話は常々聞いているよよかったら仲良くしてくれないかい?」
和やかにそう言ってアストは手を差し伸べる。
「え、あっはい。」
ソーヤは相変わらずの様子で、ちょっと挙動不審気味だったが握手に応じた。
「えっと…二人は、何してたの?」
握手をしながらソーヤはそう聞いてきた。
「ちょっとなー、アストが弟に誕生日プレゼント探してるって言ってたからその手伝いをしてたんだけど…これが難題でさ、今手詰まり起こしてる。」
そう答えながらこれまでの経緯を簡単にソーヤに伝えた。
妖精の愛し子と砂糖の下りや、アストの戦い方の話辺りでは驚いた表情をしていたが、別段疑っているわけでもなさそうで、スムーズに話が進む。
そして、こともなげにソーヤはこう答えた。
「多分、あると思うよ。」
割れにくくて、湿気にくい、持ち運びのしやすいちょっと見た目のいい容器。
値段はそれなりになるかもしれないけど、と付け加えた。
「「あるの?!」」
思わず声を重ねて驚きの声を上げる。