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なんとかしてウガルルと距離をとり、階段のほうへと向かいたい。
だが、ウガルルの足は思っていた以上に速く、そして操る風が厄介だった。
何度かミコトが対抗として風を操るスキルを使おうとしたが、すべてはじかれてしまった。
それどころか、ミコトの力を圧倒するほどの風力でミコトを吹き飛ばすこともあった。
嵐に巻き込まれて飛ばされてしまったような、様子だったので一瞬肝が冷えたが、ミコトは上手いこと風を使ってダメージを最小限に抑えながら着地をしていた。
最小限、とは言っても全くないわけではない。
ウガルルの起こす風は鋭い刃のように切れるものも混ざっていて、それによりいくつか防具や肌に傷がついている。
それはアーロンも同じことだった。
ミコトと同じように前に立ち、それなのにミコトのように早く動けないし吹き飛ばされたときにスキルを使って受け身を取る、なんて器用なことはできない。
ただ防御スキルを乱用してなんとか致命傷を避けている、というだけだ。
「くそっ…!」
何度目かの階段への道もウガルルに防がれて、思わず漏れる悪態。
こちらの三人の体力はどんどんと減っていく、上手いことウガルルにダメージを入れれたのは最初だけで、今では疲労のせいと、ウガルルがこちらの動きになれてしまったか、上手くかわすようになってしまって無駄に体力が削られる。
それどころかいたぶるようにこちらに仕掛ける攻撃の手抜きが見えてとれる。
相当、性格の悪いエネミーだった。
そして、ウガルルは最初に的確な弱点を狙ったソーヤのこと許していないようで、執拗に自分たちのことを追い回してきている。
つまり、この場…ウガルルが縄張りとしているこの広場から出てうまく離脱できたとしても追いかけられる。
移動を続けるとなると他のエネミーと遭遇することもあるだろう。
そうなるとウガルルから逃げながら相手にするのは不可能となる、現在三人にそれまでの実力はない。
何としても生きるには、階段までいかなければ…。
そう傷のせいで熱を持つ頭で何とかどうすればいいのか、作戦を立てようとする。
ウガルルと対峙して、にらみ合う。
不意に、横から矢が飛んできて、ウガルルの前足に当たる。
刺さるまでには至らなかったが、多少の傷にはなっている。
ソーヤが、隠密スキルをフル活用して仲間にも気配を悟らせないでこうしてウガルルに対して攻撃をしている。
ウガルルはどうも視力に頼り切っているのか、見えているミコトとアーロンに対しては獰猛な獣そのもの、という印象に対して、見えないで隠れてしまう、見えてもすぐに姿が消えて存在を感じさせないソーヤのことのほうが苦手らしく、時折こうして不意の一撃を当てられては怒りをあらわにしてうなり声を上げる。
こうするとソーヤが居れば案外勝てるように思えるだろうが、そうもいかない。
やっぱりソーヤのスキルについても疲労の関係性であまり長い時間は継続しては使えない。
ので、この短い階段争奪戦の間に何度かソーヤは離脱の意味を含めて矢をわざと外すように射ってから一時的な休息をとるために物影まで移動する、ということを繰り返している。
これ以上、長引かせるのは不利になるだけ。
何度も過るその言葉が焦りを募らせる。
じっとりとした汗が背中を伝っていく感覚が気持ち悪い。
あちこちに負った傷がじくじくと熱を上げてきて血を流す。
ひどい興奮状態だからか、痛みは感じない。
考えなければ、何か、方法を。
何度も何度も問うた質問を自身に投げかける。
そうしている間に、ウガルルは、今度はミコトに狙いをつけたようだった。
たまたま飛んできた矢の方向にミコトが居ただけ、それだけだが見つからないソーヤの怒りがミコトに向けられているようだった。
何度も聞いた叫喚が響く。
ミコトが、回避行動をとろうとして、足をひねった。
最初に、まだウガルルがこちらに敵意を向けてなかったとき同行者だったものにぶつかったときにくじいてしまった足だ。
重症ではない、というミコトの判断を信じて治療を後回しにした…いやせざる得なかった状況だった。
その治療が遅れ、さらに酷使したために、とうとう限界が来てしまったのだろう。
捻ってしまった足のせいでバランスを崩したミコトは地面に体をたたきつけて…かろうじで受け身は取ったようだが、ウガルルの攻撃から身を守ることができないでいる。
これはどう考えてもまずい。
アーロンは、助けなければ、と考えるよりも先に駆け出していた。
「うぁあああああ!」
「っよせ!アーロン。」
ミコトの静止する声が聞こえたが、動き出した足を止めることはできなかった。
ここで少しでも躊躇したら、止まったら、それこそ間に合わなくなる。
それだけは、なんとしても避けたい。
ミコトとウガルルの間に何とかして滑り込む。
手には大剣、もう武器として構える力も残っていない。
それでもウガルルとこちらを隔てるようにして構えて、衝撃に備える。
ウガルルの牙が迫る、一歩でも間違えれば頭から食われてしまう。
「防御ー!!」
自身と、持っている大剣にありったけの力を込めて防御のスキルをかける。
それだけでも頭がふらついて倒れてしまいそうだったが、何とか気を持ち直してウガルルの攻撃を防ぐことに集中する。
目の前に牙があり、いまにも顔に突き刺さりそうだった。
思わず顔を背けて目を固く閉じる。
そして、バンッ!と強くはじける音がして、大剣を持つ両手が激しく震えしびれる。
ウガルルはギャンッと見た目にそぐわないような可哀そうな声を出してアーロン達と反対の方向に転がっていく。
「アーロン!ミコト!立って早く移動して!」
どうやらウガルルの攻撃を完全に防ぎきることだできたようだった。
その事実が信じられずに少し呆けていると、いつの間にか傍にいたソーヤからそのように叱咤するような声をかけられた。
ソーヤはミコトに肩を貸して、階段とは別方向に移動し始めていた。
「ソーヤ、そっちには…。」
階段はないぞと、続けようとして、気付く。
階段以外にもこの階、いやダンジョンから出る方法はあった。
転移装置、確かそれもこの近くにあったはず。
詳しい場所は階段のようにわからなかったのだが、ソーヤは単独行動する隙があったからか、見つけたようで、そちらのほうへと急いでいた。
「僕、よくわからなかったけど、多分起動したから…あとは、皆で乗ればいい、はず!」
「あぁ…!急ごう!」
ソーヤと同じようにミコトに肩を貸したかったが、後にいるウガルルの存在も気にかけなければいけないため、アーロンはソーヤの後を追いながらウガルルを警戒することにした。




