11-15-5-26
「いや~…ダメだったな。」
「だな~。」
「…うん。」
結局あの後ダンジョンウルフに逃げられて、いつも通り服従のスキルを発揮することはなかった。
念のためということでウルフ系以外に鳥類を模したエネミーのロックやらスピニエに似た姿をしている蜘蛛のエネミーのウィルムあたりにも試してみた。
が、やっぱり効果はなかった。
「何がダメなんだろうなぁ。」
思わず弱気になってそう呟く。
「エネミーもしくはモンスターで相性が悪いんじゃないか?この辺りにいる奴らじゃないとか。」
「…適正検査に問題があったりは?」
「100%……とは言わないがほぼほぼないだろ、適正が表に出ているか出てないか微妙なラインのスキルなら検査時に出てくるかどうかはわからないけど、あるとされて出てきたなら基本的にあるとされている、それがうまいこと発動できてないか条件がうまく達成できてないと考えられる。」
確かに使えるようになれる、本人の努力次第で習得できるスキルの可能性としての検査、という形ならソーヤの回復スキルが露見することとなっていたはず。
現状発動できて、能力の適正の高さによって出やすくなる。
つまり、
「適正検査である、って言われた以上もうその時からスキルは発動してるし、防御のスキルとほぼ同程度の適正の高さはある、ってことか。」
となる。
「だよなぁ。」
そんな気はしていた、だからこそずっと不思議だったのだ。
何故すぐに適正が見つかるほどに高いのに、発動しているはずなのに効果が見えてこないのかが。
「まぁスキル検査で似て非なる特性と間違えて伝えられたとかいう事例もなくはないし、アーロンのそれも服従とは違う何かなのかもしれないな…まぁあんまり考えこんで気落ちするなよ?」
ミコトの気遣うような言葉に気の抜けた返事をして、ひとまずこのことは忘れることにした。
ダメな時は何をやってもダメなのだから考えても、行動してもあまり意味をなさない。
それなら別のやるべきことを成すべきだろう、と頭を切り替える。
「いやー案外二階層も手ごわいってわけじゃなくて助かったな。」
現在三人は二階層に移動していた。
最初のダンジョンウルフは一階層で相手をしていたのだが人の通りが多いせいか、出現率があまり多くなかったので二階層でもある程度安全策はとれるはず、というミコトの案でアーロンが手懐けれそうなエネミーを探しつつ、二階層に降りてきていたのだ。
「やっぱり一つでも階層が違うとエネミーの顔ぶれが少しずつ違ってくるんだな。」
一階層では群れを作らないタイプのウルフ系と力の弱い虫系統のエネミーが多かった印象を受ける。
それに比べると二階層は一階層の敵に加えて狂暴性の増した鳥類、大きく鋭い牙を持った人の頭くらいありそうなネズミ。
動物を模したエネミーが多いが、そのどれもが狂暴性を上げてきている。
「ダンジョンで1~5階層なんて入門編みたいなもんだからこのあたりのエネミーはわりとどこのダンジョンでもみかけるぞ、そのダンジョンの特性が出てくるのはそれ以上の階層…といってもわりと傾向は似たり寄ったりなんだけどな。」
「へぇ、例えば?」
「多いのはスケルトン…人間の骸骨の姿をした奴とかゴーストも結構出てくるな。」
「ゴースト…って霊?!」
思わず持っていた武器を取り落としそうになるほどに驚く。
「まぁ端的に言えば霊だけど…アーロン、もしかしてお前…幽霊とか苦手な質か?」
「いや、そうじゃないんだけど…。」
別に苦手でもないが得意でもない、そもそも霊感とかいうものは持ち合わせてないのでそういう話を聞いてもピンとこずに首をかしげることの方が多い。
「じゃあそんなに驚くことはないだろ。」
ミコトがソーヤになぁ、と同意を求める。
ソーヤは一瞬首をこてん、と横に傾けてから少し不思議そうにうん、と答える。
その返答に満足したミコトは少し困ったような…いや多少味方を付けた不敵そうなものにも感じれる笑みをこちらに向けてきた。
「いや…だってゴーストって普通の攻撃じゃあ倒せないんだろう?」
ギルドで聞いたいくつかの話の一つにダンジョン内の話も当然あって、そこでゴーストの話を聞いたことがあった。
ゴーストはもともと生きていた人間それもダンジョン内で死んでしまった冒険者の無念の魂とされている。
無念を抱いた魂は生者を妬んで襲う、そしてその肉体を奪おうとしてくる。
肉体を奪われたら意識を乗っ取られる前に除霊を行わなければまた新たなゴーストとして冒険者の肉体は死んでしまう。
そのゴーストを払う…倒すためには光属性の法術、またはそれに関連するスキルを使う必要がある。
それに属する法術やスキルのない者は一般的に武器屋で売られている光属性が付与された武器を買うか法術使い、またはそのたぐいのスキルを所持している者に付与してもらうか。
だが、そういうたぐいのものは初心者冒険者には手が出ないような金額だった。
つまり、ゴーストを退治する手立てがないとわかっている状態でなおかつ金銭面でその準備もできない、その状態でゴーストと対峙してしまうのは無謀とわかりきっている。
だからこそ、出会いたくない、と強く思ってしまい思わず嫌悪するようなことを言ってしまう。
そう、告げるとミコトは確かになぁ、と納得した。
「一応教会とかで売ってる聖水である程度弱体化させることができるからそれで逃げれると言っても、聖水も安くないしゴーストは下手すると群集になっていることもある、そうなると聖水がいくつあっても足りないし、付与法術だって安いものだったら回数制限がある、警戒するに越したことはないな。」
「教会で売ってる聖水でも効果はあるのか。」
「といっても本当に動きを鈍くさせるくらいしかできないから倒すには結局それ用の武器なりスキルなり準備しておかないといけないな。」
結局のところ、現状でできることと言えばゴーストに合わないようにすること、あってしまったら全力で逃避する。
その程度となる。
基本的に戦うこと、守ることが仕事の部類に入る冒険者であるアーロンにとってそれはあまりしたくないのだが、しょうがないのだろう。
「せいぜい頑張って稼いでいい装備揃えるんだな。」
ミコトの言葉に深くため息をつき、そうだなと答える。
しばらくゴーストの苦手意識は取れそうにない。




