11-15-5-21
「ダンジョンって悪魔が作り出す閉鎖された空間、だよな?」
「あぁ、ついでに言えばダンジョンを守ろうとするエネミーがうろうろしているってことだな。」
「何で悪魔ってなんでもできるような奴が作った閉ざされた空間で、外から何かしらの手段で潜ってるやつの状態を知ることができるんだ?」
何故ダンジョンが人を招き戦いを続けているのか、その疑問も尽きないが。
まずは、なぜどこのダンジョンも完全に孤立する…つまり人間側がどんな手段を講じようが情報は手に入らないし、自由に出入りもできないような仕様にしなかったのか、ということだ。
魔王の目論見はわからないことが多いが、一般的に多い意見は人類の抹殺、もしそれが本当ならばその魔王の手下である悪魔がわざわざダンジョンに入ってきた人間を逃がす仕様にしているのはおかしい。
逃がしてしまえば外にいる人間にダンジョンの構造が知られてしまう、そうすればダンジョン内での生存率もあがる。
入ったら出れない仕様にしてしまう、という単純なトラップをどのダンジョンにもついていないのは少しだけ違和感を感じた。
それどころか、外から中の情報が見抜ける…完全に孤立しているわけではない。
そしてそれは法術だけではなく、ミコトのように共有という離れた人と連絡ができるスキルを持っている者でさえ、簡単に外部と連絡が取りあえる。
なんというか、ダンジョンの目的がわからないのだ。
「んー…なんというかな。」
ミコトはどう話したものか、と顎に手をあて、考え込む。
とはいっても思考以外の感覚は周囲の警戒に当ててるようで視線はあたりを見渡している。
「そもそも法術って何かわかるか?」
だいたいでいいなら理解している、と口にだそうとしたところで、ソーヤが小さくだが首を横に振る気配がした。
そういえば法術というものを習った講義のほとんどに二人はそろって出席こそしたものの、ソーヤはほとんど寝ていたような気がする。
ミコトはソーヤのその様子を見て、そこからかー、とつぶやく。
「まず、法術ってのは神や天使経由で人間に授けられる力だ、法術を授かるには教会に入信して幾多の修行やら巡礼を経て神及び天使に認められる、そして何か一つ法術を授かる。」
「授かる法術ってのは選べないものなのか?」
「だいたいの系統なら選べる、方法としてはどの神及び天使を信仰している教会に入るかってところだな、例えば王都付近で熱心な奴ってなるとハザ教だ、でハザは地を司る天使だから授かる法術の傾向としては地属性のものだったり守りを固めるものが多かったりする。」
王都という国を守る意思が宗教に影響しているのかもしれないな、と付け足すようにミコトは言葉を続けて、一息つく。
「なるほどな…俺の故郷にもそういえばあったな、なんか教会が。」
「ん?トレヴィオに大きな教会は…あぁ産まれ故郷か。」
一瞬だけソーヤもミコトも、トレヴィオのことを思ったらしいが、すぐに勘違いに気づいたらしい。
ミコトにとってはもうトレヴィオの町の人という扱いだし、ソーヤは幼いころから長いこと一緒にいるせいかすっかり忘れている節があるためしょうがないといえばしょうがないのだろう。
「確か…雪山の町、だったよね。」
ソーヤは昔した故郷の話を思い出したのか、確かめるようにそう聞いてきた。
「そうそう、町名はアードカークほぼずーっと雪に覆われてる寒いとこだよ。」
「アードカーク!へぇアーロンはそこの出身だったのか。」
町の名前を聞いて、ミコトがやけにテンションを上げている。
そんなに珍しいようなところだったか、と疑問を持ちつつ、一応肯定の意を示しておく。
「アードカークっていったら神話に出てくる英雄の出身地だといわれてる場所でもあり、その英雄の加護を施した天使がいる町じゃないか。」
「…おぉ」
ミコトの話にそうだったのか、と思わず情けない声がでる。
知らなかった、家族はそろってあまり熱心な信者ではなく、年の行事の際に教会のあれこれを手伝う程度の関係で、そこまで深い逸話やらなにやらを聞いたことはなかった。
「アードカークは…確か天使はファシエルだな、一般的には氷を司るとされてるが水と風の複合したものとも聞く。」
すらすらと出てくる知識や回る舌に若干驚きつつも、故郷でよく聞いて、ここ最近では聞かなかったその天使の名でどこか懐かしさを感じる。
「ファシエル教は英雄に直接関係する天使の宗教で神話にもよく出る、だから名は知られている…んだがその実信者や教会の数は多くない、というか少ない!実質アードカークのみといっても過言じゃないだろう、これにはいくつかの理由があってそもそもファシエルはー…。」
「おー…って待て待て!おかしい、話がすごく脱線してるぞ、俺たちはいま法術の話をしてたよな?!なんでファシエルについての話にすり替わってる?!」
うっかり聞き続けてしまうところだったが、本来の会話の道筋を思い出し、思わず声を大きくしてそうミコトの言葉を遮る。
ミコトはそれにハッとしたようで、少しだけ頬を赤くして照れ臭そうに笑う。
どうにも、何か夢中になって話し出すとそれに向かって一直線になるようだ。
だからこそ、研究者、というものになっているんだろうが。
「悪い悪い、法術な、まぁさっき言った通り法術ってのは努力をすれば誰彼関係なく会得できるものでいい。。」
ざっくりとした説明に、少し気が抜ける。
が、そこからまだ話は続いた。
「そもそも法術は昔、それこそ神話時代に近い頃神と天使が地上に残ってしまった魔王と悪魔を退治させる力として授けた力なんだ。」
「昔は法術を使ってエネミー狩りしてた、ってことか?」
アーロンの言葉に多分な、と答えるミコトの表情は言葉に合わずにどこか自信に満ちている。
「今は法術使ってるやつって…いないんじゃないか?」
「確かに現在の人々でわざわざ法術を授かってまで~ってのはないかもな…そういうスキルがもう産まれたときから持っているから。」
そう、スキルがある。
アーロンの防御のスキルにしかり、ソーヤの回復のスキルもすでに産まれたときからあった。
だから、この体の一部ともいえるスキルのようなものをわざわざ神様天使様に頼み込んで授かる、という感覚がよくわからない。
そう考え込んでいると、
「スキルってのはな、もともとは法術だったんだ。」
ミコトはまた、一つ俺たちの知らなかったことを増やした。