11-15-5-14
一度家に戻り、倉庫の中をあさり、ダンジョンに必要そうなものを集める。
ダンジョンに数多く潜ったことのあるミコトの助言があったのと、たまにセスの準備を手伝っていたおかげである程度スムーズに道具類を集めることができた。
「ロープにランタン、ナイフと…水袋、食料とかはどうする?」
「長いするつもりはないし、その日の昼食分だけでいいだろ。」
「じゃあ鞄もそんなに大きいのじゃなくていいな…ソーヤ、手頃の鞄ってあったっけ?」
「リュックなら一つ、あったと思う。」
そう広くない倉庫の中、埃を舞わせながら着々と準備をして、足りないものを確認する。
足りないものはだいたいがありきたりな消耗品の類だったので、それならばカタラクト商店で問題なくそろうだろう。
「そういえばソーヤの矢筒って背中にやるタイプか腰に着けるタイプどっちだ?」
「前は背中ので…最近は腰のやつ。」
背中に矢筒があると少し面倒らしく、少し前にソーヤはギルドでお金をためて矢筒を買いなおしていた。
訓練の時は一射ずつ射ち込むことができるし、荷物の存在や、動きやすさについて考えなくてもよかったのでそれでよかったらしいが、実践段階になって、背中に矢筒があると少し面倒くさいことに気づいたらしい。
ソーヤはスキルの適正や、性格上どちらかと言えば潜伏していることが多いため、矢筒が背中があると矢を出す動きが大きくなってしまい、それで敵に居場所がばれてしまうことがあった。
変えてからわかったこととしては腰に着けるタイプだと移動中気を付けていないと様々なところに矢筒をぶつけてしまうことだ。
慣れないうちはよく木々にぶつけたり扉に引っかかったりしていたが、最近はそんなことは少なくなっている。
「腰のか…じゃあリュックはソーヤの鞄にしたほうがいいな。」
「うん、わかった…。」
先ほど倉庫から引っ張り出してまだほこりっぽい小ぶりなリュックを手にして、ソーヤは頷く。
「さすがに荷物って分散して持ってたほうがいいよな?」
「まぁな、大所帯のチームだと荷物持ち専門がいるらしいが、基本的にダンジョンでは自分の荷物は自分で持ってたほうがいいぞ、保険のためにもな。」
保険、という言葉に疑問を持ち、おもわずどうしてだ?と聞く。
「ダンジョンで荷物持ちが攻撃受けてそいつの持ってた荷物が全部だめになりましたー!ってなると時と場合場所によっては死活問題になるんだよ、あらかじめ分けて持ってたら被害はまぁ可能な限り最小で済むだろ。」
ミコトの説明になるほどー、と返事をして再び倉庫内捜索に戻ろうとした。
まだ、ミコトの言葉は途切れていなかった。
「それに、ダンジョン内で味方だったやつらともめごと起こす…なんてことも結構よくあることなんだよ。」
「え?」
「多いのは金品の扱い、それから男女交際から始まるいざこざ、あとは責任問題とかいろいろな…ちょっとしたことで喧嘩が勃発して溝ができて、以降そのままになるとかもある。」
軽い世間話のように話し続ける。
ダンジョンの中でそんなことが起こりゆると考えてなかったアーロンは、捜索する手を止めて思わず聞き入る。
「その溝がどんどん広がって、たまにダンジョン内でパーティー解散を宣言する奴らだっている、その時に自分で自分の荷物を持ってないと相手に持ってかれたり、自分の所持物が難癖付けられて取られる可能性だってある。」
だから、自衛のためにも自分の荷物は自分で持つ、それがダンジョン内では暗黙の了解になってる。
アーロンは、今まで見てきた冒険者たちは見たいい人達ばかりだったせいか、話を聞いてもいまいちそんなことをする人達がいるとはピンとこない。
確かに冒険者たちは冒険者である前にただ一人の人間だ。
それぞれの考え方、信念、とる手段がある。
それが相いれないときも時にはあるだろう、だがそれがどうしても命と天秤にかけたうえでそちらのほうが大事、となることはわからなかった。
たった少しのことで命を脅かされ、中にはそのまま何もできずに死んでしまった者たちもいるのだろう。
そう思うと、ミコトの言葉がやけに重く感じる。
「ま、人間関係のいざこざはダンジョンに限った話じゃないけどさ…これも、一応ダンジョン内での共通する効果の一つ、って俺は考えてるわけ…ダンジョン内にいればいるだけ不信感を煽らされる…とかな?」
「…悪魔ってのは何でもできるんだな。」
「悪魔に関しては研究がまーったく進んでないからなー、もう一種のそういう万能な邪神とかその能力を分け与えられたナニカってのが今のところの推測、基本的に何でもできるって考えたほうがいいだろうな。」
「意外だな、悪魔とダンジョンができてもう長い…ってか暦年の歴史になってる割にはどういう奴らとかどういうことができるってのはわかってないのか。」
「悪魔はなー…倒された実例が今まで少なすぎるし説の立証するにも情報が足りないし、仮説をやっとこさ立てたところで次の瞬間にはそれを完全に否定されたり…調べてるやつらはごまんといるがあれもこれもできるしダンジョン作って何かしている、魔王と何らかの関係がある、だがまぁ人間の手で倒せないわけじゃーない、わかってるのはそれくらいだよ。」
お手上げ、とでもいうように手を広げて首を横に振ってそう言い切る。
何が出来るかわからない、何ができないのかわからない。
だからこそ、様々な可能性を考える、今までの常識を疑う。
悪魔、ダンジョン、そして魔王についての謎を解明するために。
改めて、ミコト…研究者たちに尊敬の念を感じる。
「まぁ何にしても人間関係に歪みか生じやすいことは確かなんだから自分の命と荷物はしっかり自分で管理しろよ、ってことだ。」
わかったか?と問いかけるミコトに、おう、と返事を返して、再び倉庫内の捜索を再開させた。
結局手頃な鞄は最初に見つけたリュック時もタイプのものと、ショルダーバッグ、そしてウエストポーチのみだった。
ショルダーバッグはアーロンが使った場合大剣の動きに合わせて振り回され、事故の原因やアーロンの行動の阻害となることもあり、使わないこととなった。
ウエストポーチは動きやすくしっかりと固定すれば動きを阻害することもない、だが必要な荷物を入れようとすると蓋が閉まらなくなる。
行きの時点でこの状態だと食料や飲み物を差し引いても、ダンジョン内で何かを持って帰ることは出来ないだろう。
さて、どうしたものか、他にいいものはないものか、と三人で考える。




