11-15-5-12
「ダンジョンに…?なんで?」
突然の提案に驚いて思わず口を大きく開けてしまう。
どうしていまのスピニエの話からダンジョンの話になるのか。
ソーヤもよくわからないらしく、首をかしげている。
二人のその様子を見て、ミコトは少しだけ困った顔をしながら、耳を軽く引っ張ったりして少し考えてから言葉を発する。
「ダンジョンには特性がある、って言っただろう?」
まだ、どう説明していいのか悩んでいるようで、眉間に若干しわが寄っている。
とにかく、今はミコトの話を聞くしかない、それから判断しよう。
そう心で決めて、ミコトの言葉に小さく頷く。
「その特性って本当に多岐にわたるものがあって…もしかしたら、可能性での話でしかないが…もしこのダンジョンを作っている悪魔の特性が、フィールドにいるモンスターにすら関与するものだとしたら…。」
ミコトの推測を聞いて、ふと考えてしまう。
あのメタルスピニエがここにいた理由、メタルスピニエとして居たんじゃなくて、何かを誰かにメタルスピニエとして作り替えられた、もしくは呼び出された、ということを。
自分で考えておいて、そんなまさか、と思ってしまう。
だが、ミコトはそう思っていないようで、真剣な顔をしたまま見つめてくる。
もし、本当にあれが本来はここにいなかったモンスターだとしたら。
その原因がダンジョンにあるとしたら。
ダンジョンの近くにあるこの街は、とても危険な状態なのではないだろうか。
最悪な考えばかりが脳内を駆け巡る。
そういえば、ソーヤの両親が死んでしまったあの日だって思い返せしてみればおかしいところがあった。
実際は見てきたわけではないがそれでも実際見てきた父親から得られた情報でも、違和感があったはずだ。
帰ってきたばっかりの父は大型のモンスターの襲撃だと言っていた。
この町の近くに大型のモンスターはそうそうお目にかかることはない。
見たとしても数年に一度、遠くから見かける程度の情報。
それがわざわざ人里に降りて、襲ってきた。
あの最初に見たメタルスピニエの子という可能性も考えた。
だが、スピニエの生態として基本彼らは縄張りに入った獲物を襲うはず。
わざわざずっと昔から存在していた隣町を襲うことはない。
他の大型モンスターの可能性は極めて低い。
大型モンスターが複数その地域にいると、よほど共生関係でもないかぎり縄張りに存在することを許さない。
そのため、近くに町がある限り…それに気づかないわけがない。
野生の生き物たちが危機を察知して逃げるように、身をひそめるように、当然人も、その戦いに巻き込まれないように備えるはず。
その備えがなかったから、危機を察知することができなかったから、隣町は襲撃され、ソーヤ夫妻は命を落とし、腕利きの冒険者としてセスと教官が呼ばれた。
何か理由を考えようとするたび、すぐにそれを否定する材料が思いついてしまう。
どうして、なんで、いつから…。
ソーヤも同じような考えになったのか、いつもより若干、顔色が悪く感じる。
「悪魔を倒しに行くわけじゃない、悪魔の影響を受けて出現しているエネミーの状態を確認したいんだ。」
重い、沈黙を破るようにミコトがそういう。
「エネミーの、状態?」
確認するように、そう言葉を反芻する。
それにミコトは目線を合わせたまま、ゆっくりと頷く。
「俺は今まで数々のダンジョンに潜ってきた、だからエネミーの通常パターン、モンスターでいう通常種の状態がわかる、このダンジョンと今までのダンジョン、そのエネミーの…行動だったり、体質だったり…攻撃性の違いを比べて、悪魔の特性を図る。」
「…俺とソーヤより、父さんと行ったほうが…いいんじゃないか?」
「確かに、セスさんの冒険者としての実力はすごい、きっと並大抵のダンジョンなら一人でも潜ってある程度の成果は上げれると思う…だからこそ、だめなんだ。」
ミコトの言葉の意味がよく理解できずに、思わず首をかしげてしまう。
実力があって何度もこの近くにあるダンジョンに潜ったことのある父なら案内も、ダンジョンの特性も理解しているはず。
それに護衛としても活躍ができる、エネミーの様子を確認する際の安全を確保することができるはず。
むしろ、ダンジョンに潜りなれていないアーロンとソーヤを連れて行くほうが危険を伴うことになるはず。
「セスさんは確かに若いころキャラバンに所属していて、俺と同じようにいろんな場所のダンジョンに潜ったかもしれない、フィールドにいるモンスターのことも二人より熟知しているはず、けれどそれじゃだめなんだ。」
「…なんで?」
「エネミーに対しての先入観があるんだよ、俺もだけれど多くの熟練の冒険者っていうのは経験であのエネミーはこういう動きをするだろう、という考えが無意識化にある、変異種みたいによく見れば違いがわかるエネミーだったら違いを認識しやすいかもしれない、だが通常種と同じような姿をしていた場合、違いに気付かずに何が異常なのか判断できないこもしれない。」
「…うーん、とつまり、俺たちはどうすればいいんだ?」
「同行してもらってダンジョンにいるエネミーの行動を見てほしい、何か感じたことがあれば事の大小関わらずに俺に教えてほしい、そういうものか、と納得せずにあれは何か、疑問を持ち続けていてほしい、本来なら学者なんて名乗ってる俺のすることだけど…真実を明らかにするためには常識を疑う必要がある、そして…疑う事象に気付かないといけない、それは常識に馴染んでしまい、慣れてしまうととても難しいことだ、だからこそ、慣れていない君たちに頼みたいことなんだ。」
引き受けてくれないだろうか、先ほどの説明よりも小さくなった声でそう言う。
恐らくだが、自分の研究のために未知の場所へと連れていき、生死すら左右させてしまうことに対して申し訳なく感じている、のだと思う。
出来るだろうか、アーロンは引き受ける前提で考えて、ミコトの望むことが出来るか、考えていた。
今まで、あまり進んで疑うようなことをしてこなかった。
あるがままに受け入れて、利用して、教わったままに活用してきた。
だが、ミコトを一人でダンジョンに送り込む、という考えはなかった。




