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約束のアポストル  作者: 飯綱 阿紫
21/173

11-15-5-11

「一致しない…?」

それが、感じていた違和感なのか。

心臓の鼓動が早くなるのを感じながら話の続きを促す。

「スピニエが存在する環境としては間違ってない、むしろ普通にいる場所だ、けれど二人の話を聞くとそれはただのスピニエじゃないと思う。」

ただのスピニエじゃない、その言葉の意味が理解できすに首をかしげる。

「スピニエは基本的に木の上とか…洞窟の奥に巣を作って縄張りに入った獲物を執拗に追いかける性質がある、多分ソーヤがスピニエのテリトリーに入ってしまって、それで追いかけられた、そこまでは一致している。」

アーロンも、自分で思い返すが、とくに変なところはない。

むしろスピニエの生態について聞いて納得したところが多い。

「けどな、攻撃の様子がどうも、おかしい気がする。」

どう違うのか、蜘蛛型のモンスターのだから糸を吐くことは違わないだろうし、関節以外が固くて攻撃が通らないのも、モンスターとして強い個体ならばそれで違和感は感じれない。

「そもそも通常のスピニエは成人男性と同じくらい大きくはならない、そいつが特別大きいだけかもしれないがだとしたら相当強い個体だろう、あと攻撃方法、糸を吐く、それはいいスピニエの基本的な行動パターンだからな、だが本来糸を吐く行動は得物を捕獲することが目的だ。」

通常の蜘蛛もそのような使い方をするからな、と付け足されるようにそう言われて、そういえばそうだ、頷く。

蜘蛛の糸は巣を作ることだったり、移動の手段であり、得物をとらえる縄…罠でもある。

スピニエも同じような行動をするんだな、とぼんやりとあの時のスピニエのサイズで考えてしまい、少し気持ち悪さを覚える。

「さっきの言い方だと、まるでスピニエは捕獲ではなく、武器として、糸を使ったように聞こえる。」

「…そう、かもな。」

ミコトの説明でようやく、彼の気づいた違和感を共有することができた。

確かにあのスピニエは糸を捕獲の道具としてではなく、武器として敵に対して攻撃の意を込めて、糸を吐き出していたことになる。

「あと通常のスピニエは視覚が失われてないから聴覚が頼りになる、ということはあまりない、俺らと同じで動くものを優先して攻撃するはずだ。」

ミコトが次々と、違和感を、あのスピニエの異常性を語る。

語るたびにアーロンの背中には嫌な汗がジワリとにじむ。

なんで、こんなにあの時のことが気になるんだろうか。

もう、5年も前のことなのに。

「通常のスピニエではー…、ってことは変異種とかもいるんだろう?」

喉が渇いて、しゃべりにくいが、何とか動揺を表に出さずにいられた。

「あぁ…恐らくアーロンとソーヤがあったスピニエと呼んでいるモンスターはメタルスピニエだと思う。」

「メタル…あぁ、金属化したスピニエ…ってことか?」

アーロンの言葉にミコトは頷きを返す。

「メタルスピニエの存在するのは基本的には鉱物のとれる洞窟内、それも日の光が届かないような暗所を好む、だから視覚は退化してその変わりに聴覚が発達して音に過剰に反応する、通常のスピニエと同じように肉食で縄張りに入り込んだ獲物を食すこともあるが、それ以外にも鉱物を好んで食べる傾向がある、取り込んだ鉱物は外殻のように身に着けるから防御力が非常に強い。」

すらすらと、まるで目の前に専門書があり、それを詠みあげているかのような速度で話を続けるミコト。

研究者というのは、こういうものをすべて記憶しているのだろうか、などと思わず関心してしまう。

「音に過剰反応、防御力が高いから攻撃が通りにくい、鉱物を体に取り込んでいるならその分重くなる…確かに共通点がおおい…っていうかもうメタルスピニエにしか思えないな。」

まさか通常のスピニエではなく、変異種のスピニエがこの町の近くにいたとは。

遠い昔のことなので今更かもしれないが、背筋に嫌な気配を感じてしまう。

「まぁ…メタルスピニエだと仮定してもまだ疑問は残る。」

「ん?」

「…さっきも言った通りメタルスピニエのいるのは鉱物のとれる洞窟内だ、けど出現したのは鉱物のとれる洞窟やら山はない、それに…やっぱりそれほどの大きさのスピニエがたった一匹でこんなところにいるのはおかしいだろう。」

そうだった、通常のスピニエならいても問題視されない生息地、だがそれがメタルスピニエだとおかしくなる。

そして、生存数。

蜘蛛の子を散らす、という言葉がある。

意味は大勢の者が四方八方に逃げ惑うさまを表しているわけだが、その言葉がある、ということは蜘蛛の子というのは一度に大勢発生するはず。

念のためにミコトに確認しても、スピニエだろうとメタルスピニエだろうと、変わらないとのことだ。

種類によって多少の差はあれど、数百から数千と言われている。

その数すべてが何か別のモンスター等に食われたとは考えにくい。

もしかして冒険者たちが見かけていないだけで、あの森に潜んでいるのかもしれない。

けれど、メタルスピニエと言われるためには定期的に鉱物を摂取し続けなければならない。

そうしないと、メタルスピニエ特有のあの外殻を手に入れることができないのだから。

堂々巡りを続ける議論はしばらく続いて、三人は次第に声を出す力すらなく、机に突っ伏してしまう。

こんなに頭を使って話す、いや議論をするのはほとんど初めてなアーロンとソーヤは慣れない頭脳のみの疲労感に顔をしかめる。

身体を動かしていないのにずっしりとした疲労感がのしかかり、心なしか額が熱を持ったように感じれる。

ミコトは慣れているのか、いまだに何か思考を練っていて、アーロン達とは別に眉間にしわを寄せてうなっている。

いくら考えても何も解決できない問題に、すでに二人はまぁ過去のことだし…、と若干の解決に対しての諦めをしていた。

何せもう五年も前のことだ。

そして今まで…何も事もなく、というわけではないが、それなりに暮らしてこれた。

それでいい、結局のところちょっと変なスピニエがいて、まぁ迷い込んでしまったんだろうな、くらいで片付けるのだ。

そう、ミコトに軽く言おう、そう思った瞬間に。

ミコトが意を決したように、口をひらいた。

「アーロン、ソーヤ…俺と一緒にこの近くにあるというダンジョンに潜ってくれないか。」

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