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約束のアポストル  作者: 飯綱 阿紫
19/173

11-15-5-9

納品はすぐに終わった。

依頼品の状態は良く、量も申し分ない。

少しの世間話と報酬の確認が終わると、依頼完了確認をしていた人からお疲れさまでした、とだけ声をかけられて、相手は席を離れる。

ようやく終わった、と息を小さく吐いて、気を抜く。

そういえば、案内を任せていたソーヤと案内されているミコトはどうなっているんだろうか、と思い周囲を見る。

ギルド所有している建物はそれほど広いものではないので少し視線を動かすだけで全体を見渡せるので、二人のこともすぐに見つかった。

二人は今はギルドの依頼掲示板のところで何か話している。

ギルドの壁を大きく使って作られた掲示板には相も変わらずにそれなりの数の依頼が張られている。

父から聞いた話だと細かい張りだし方はその地域によって異なるが、大まかなルールというのは存在するらしい。

まず大きなくくりとしては戦いの場の選択。

ダンジョンか、フィールド…正しい定義と異なるかもしれないが、フィールドはおおよそ人々の居住区とダンジョン内以外を指し示す森だったり、平野だったり…場合によっては海や山のことを指す。

ダンジョンにいる敵は悪魔の作り出したエネミー。

フィールドにいる敵は野生で狂暴化したモンスター。

この差があるために、どこのギルドも大体掲示板の左右でエネミーの討伐かモンスターの討伐を分けている。

あとは用紙に着けられた色の差もある。

用紙の淵に緑色で縁取られているときは基本的に採取依頼、赤だと討伐依頼。

一目で、どういう依頼なのかがわかるようにすることで冒険者が選びやすくなるようにするという心遣いから生まれた決まりらしい。

他にも緊急性やら難易度別のくくりが存在するのだが、その辺りからはだんだんとその地域特有のルールが出てくるらしい。

例えば、このギルドだと緊急性のある依頼の場合掲示板では他よりも大きな用紙を使い、その存在感をアピールする。

あとは町に常駐している腕利きの冒険者に直接頼みにいく、という方法もある。

思えば、ソーヤ夫妻が亡くなったあの日。

ギルドが教官と父が呼び出されたのは、緊急性が高く、危険性も高いと判断されたために、ギルドから実力者二人を指名して頼むことになったのだろう。

偶々、あの場にソーヤ夫妻が…医者が居たために亡くなった命は数名ですんだが、逆に言ってしまえば医者がいて、遅れたとはいえ腕利きのの冒険者二名が援護に向かってなお、人命が失われるほどの出来事だった。

幸いにも、あれからはこれといった危機をこの付近では聞かないし、身近にも起こっていない。

じわり、とあの時の感情が胸のうちに広がる。

今さら言ってもしょうがないような後悔の山。

当時のまだ冒険者としての訓練を受けて間もない自分に何か出来るでもないのに、自身を責めるような言葉の数々。

そんなものに埋め尽くされそうになった。

「アーロン、ギルドの人と話は…終わった?」

いつのまにか、案内を終えたのであろうソーヤが目の前に立っていた。

「…あぁ、終わったよ。」

そう答えると、嬉しそうに口角をわずかに上げて微笑む。

「ソーヤも、ちゃんとミコトを案内できたか?」

「…どうだろ?」

アーロンの質問に、ソーヤは首をかしげてそういう。

自分でこういうもの、と理解しているものを改めて人に言葉を通して説明するのはいささか難しかったのか、ソーヤの言葉には自信のようなものは感じ取れなかった。

まぁソーヤは口下手だしなぁ、などと心の中でどうしようもない言い訳をする。

ちらり、とミコトのほうを見ればアーロンの心のうちでも読んだかのように、何か意を含んだような微笑をしている。

目があい、微妙に伝わっているアイコンタクトを交わすと、ミコトが口を開く。

「いや、ソーヤはちゃんと案内はしたって。」

案内はした、理解はできたとは言っていない。

そう聞こえてくるようだ。

まぁいろいろな場所で冒険者として活動して、研究者としても各地を駆け回っているミコトなら大して説明がなくともギルドの仕組みくらいは理解できるだろう。

特にこの場所だから~というルールはあまり存在しないのだから。

「ま、ミコトがそういうなら大丈夫だろ。」

自分で思ったよりも乾いた笑いがこぼれて、そのまま二人に自分の座っている席の近くに座ることを勧める。

ふと、気付けば、先ほどまで抱いていた重い気持ちが消えていることに気付く。

一人であれこれ考えこむのはよくない、一人だと同じようなことばかり考えるし、どんどん悪い方向に思考が向いてしまう。

だから、不安は話せ、抱え込まずに共有しろ、そう父に言われた言葉が脳裏に浮かぶ。

あの時のことは、まだ自分でもうまく消化しきれていない。

それはきっと進んで話したりはしないが、実の息子であるソーヤも同じだ。

ソーヤが、不器用ながらも前を向いて今を生きている以上、自分も年上であり、兄のような立場にあるのだからあまりよわいところを見せれない。

前に座ったソーヤに目線を向けて、結局自分ひとりでそう決定する。

ソーヤはアーロンの決心したような目に気づいて、でも何に決心したのかはわからない様子で少しだけ不思議な表情をしている。

「しかし、予想通りっていえばそうだが…大物というか危険性の高そうな依頼は出てないんだな、ここのギルド。」

アーロンの隣に座ったミコトがそう話を切り出す。

「ここは小さな町だからな、大きなとこと比べるとそりゃ依頼の数自体が少ないし、危険がありそうなのは直接腕利きの人のところに話がいったりするんだよ。」

ソーヤはそのあたりの説明をしなかったのか、それを聞いたミコトがなるほどなー、と感心したような返事をする。

「モンスター討伐依頼を見ると一般的な森とか平原にいる奴が多いし、エネミー素材依頼でもまぁわりといる種族ばっかりだな。」

「へー、そうなのか?」

「モンスターは獣系から植物系、あと虫系が多いだろ、エネミーだと割と最初の階層で見かけることの多いゴブリンやらスライムの名前がよく出てる。」

ミコトが言うにはとりあえず、ありきたりなダンジョンのひとつ、という印象らしい。

周囲の環境も特に怪しいところもなく、違和感のない状態のダンジョン。

「確かにウルフとかラビット、前はー…スピニエとかも出たっけな。」

懐かしいなー、と思いを馳せながらそう呟く。

スピニエを最後に見たのはいつだったか、下手をするとソーヤと出会った日が最後ではないだろうか。

「スピニエ?あーあの蜘蛛型のやつか、まぁ森があるなら出るだろうな…なに居たの?」

「最近はとんと見ないけどな、まだ俺とソーヤが小さいころに出会ったことがあるんだよ。」

あの時のことを思い出すと自分も随分な無茶をしたものだなー、と思える。

よくぞ腕の骨を折った程度で済んだ。

「ほー、あれ基本的に一匹いたら何匹もいるんだけどな。」

生態系が合わなくなったのかね?などとミコトは呟きそういう。

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