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約束のアポストル  作者: 飯綱 阿紫
18/173

11-15-5-8

朝食を終えて、それぞれ準備を終えてからアーロンとソーヤ、そしてミコトは家を出た。

父の用事はもう少し後から家を出ても問題ないようなので、家事のほとんどを任せることになった。

予定通り、アーロンとソーヤは昨日のギルドでの依頼の報告、ミコトはそれについてきてここのギルドの様子を見に来ている。

昨日と同じように武装をして、依頼物を持ってギルドに向かう間、三人の間に会話はなかった。

ソーヤはそれほど積極的に話しかける方ではないのでそれは当たり前なのだが、アーロンは割と会話によるコミュニケーションをとろうとするタイプの人物なので道中一言も話しかけない、というのは非常に珍しいほうだ。

アーロンは、今、話しかけて会話に花を咲かせる自信はないし、そのような余裕がない。

先ほどの朝食での席で交わされた会話が思い出されてしまって、まだ気持ちの、頭の整理ができていない。


「人食いダンジョン…?」

ダンジョン、というのはこの町の近くにもあるあのダンジョン。

遥か昔に、魔王がこの世を統べて滅ぼそうとした、しかし勇者達によって封印された。そしてその部下である悪魔によって作られたダンジョン。

ダンジョン内には悪魔が作り出したエネミーが存在していて、エネミーはダンジョンに入ってきた冒険者を攻撃するように命令されている。

そして、ダンジョンの最下層に存在している、そのダンジョンを統べている悪魔を倒した者。

その者はダンジョンに眠る魔王の財宝を手にすることができる、そして王国からは悪魔を倒した者として栄誉と褒章を賜ることができる。

それは恐らく、全冒険者の夢であり、人生一番の大博打を狙う者の焦がれているものだろう。

だが、悪魔というのは恐ろしく強大な力を持っている。

そのため、勇者たちが死した今まで踏破できた、といわれているダンジョンは5個あるか、ないか。

一番最近の記録でもおよそ100年近くはダンジョン踏破者は出てないだろう。

ただでさえ下の階層のエネミーになればなるほど力も強くて、そこですら毎年大量の冒険者の死亡者が相次いでいるのだ。

悪魔を倒してこい、など言うのは酷なのだろう。

なので、ダンジョンが多くの人々の死場になっているのは否定しない。

むしろ、死に場所としてあの場を選んでいる人すら多い。

だが、それは別にダンジョンが人を餌で釣っておびき寄せて殺しているわけではない。

あくまで自分たちの意思でダンジョン踏破、あるいはそれ以外の目的をもって死すら厭わないで勝手に死んでいっている。

それを人食い、と称するのはいささか違う、と思う。

それなのになぜ、賢いミコトがダンジョンのことをそう称したのか、そう聞いた。

そして、その帰ってきた言葉に、絶句した。

「俺は、エネミーに人を殺されたところを見たり、そういう仕掛けを見たりしてそういったんじゃない…研究の一環で、俺とミゲ…父親と一緒に何百年も前に踏破されたダンジョン跡地に足を運んだんですよ、中はエネミーの影の形もないし、大したものも残ってなくて正直期待外れだったので二人で早々に出ようか、って話になったんです、あと少しで、外に出れるなーって時に突然、地震が起きたみたいにダンジョンが揺れだして、上からいろんなものが落ちてくるんですよ。」

なんでもないように、世間話の一つのように話すミコト。

「これはまずい、ってなって二人で走って外を目指したんです、このままだとダンジョンだった建物の瓦礫に潰されて死んでしまう!ってね、それで、走ってたんですけど…本当に、あと数歩ってところでダンジョンの入口が崩れ始めてて、あぁこれはダメだなぁ間に合わないなぁって思ったときに父親に今までにないくらい力強くドンッて押されて…俺だけ命からがら外に出れたんです。」

父のヒュッと息をのむ音が静かに響く。

そうだった、父にとっては親友の死について知らされているのだった。

「俺が外に出た瞬間、ダンジョンはまるで化け物の牙みたいな形をしながら父を噛み潰して、跡形もなく消えていった…父を探そうとしてその場を掘ったり、いろいろ確認したけれど…そこには何もなくて、ダンジョンの存在すらそこには残ってなかった。」

まるで人間を捕食して、そのままダンジョンが生きてるかのように行方をくらませた。

到底信じれるような内容ではない。

だが、ミコトが嘘をついているようにも思えない。

「ダンジョンは悪魔が死んだ後も生きている、ならなぜ踏破されてすぐではなく何百年も経った日に動き出したのか、なぜ踏破されていないダンジョンではその現象が見られないのか…なぜ、父が死ななくてはいけなかったのか、それを解き明かす。」

強い、意思を感じる言葉。

ミコトの人生をかけてやりたいことなんだ、と納得せざる得ないほどの意思の強さ。


未だにダンジョン自体が人を食い、姿をくらましたことは理解できない。

当然なのかもしれない、ミコトやその父親であるミゲルさんという頭の良く、それを研究していた人々でもわからない、と言って調べていることなのだから。

だが、それを除いたとしても。

アーロンにとっては建物が突然生き物として命を持ってしまった、という奇妙さが感じられてしまう。

結局、ギルドにつくまで三人の間に会話はなかった。

アーロンは頭の整理でいっぱいいっぱいだし、ソーヤはぼんやりとしていて、ミコトはそんな二人に黙ってついてきている。

「…ここがギルド?」

アーロンが一つの建物の前で足を止めたからか、ミコトはそのように聞いてきた。

昨日と何も変わらない、明るく穏やかな声。

「あ、うんそうここがギルド。」

多少ぎこちなくだが、そう返事を返す。

しっかりしないと、そう心の中で自分を叱咤してギルドの扉を開ける。

開けると、いつもの通り小さいテーブルとイスがいくつか置いてある談話ペースと掲示板、そして受付がある。

先ほどの非日常的な会話から、日常に戻ってこれたような感覚に少しだけ心の余裕を取り戻せる気がする。

「俺、依頼について報告と納品してくるから…ソーヤ、軽くでいいからミコトにここのギルド案内頼めるか?」

「…うん、多分大丈夫。」

アーロンは、抱えていた依頼品を再度持ち直してから、ソーヤにそう聞いて、返事を確認してから受付のほうへと向かう。


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