13-17-9-23
下山をしていくなかでやっぱり天候の問題で一度は途中の街に短期的に滞在を余儀なくされることはある。
「おー、今日の雪はすげぇな。」
ミコトが滞在している宿の窓際から外を覗きながらそのようにつぶやく。
窓の外を見てみると確かに、すごい雪だ。
わりと下山してきたというのに、まだまだ地上は遠く感じるほどの積雪量。
今回はこの近辺の出身のものでもやや驚くくらいには降っているため、わりと宿屋の周辺が騒がしく感じる。
今朝の除雪作業はしっかりとやってはいたのだろうが、あまりにも振り続けるものだから今からもまた多少雪をどけたりするのかもしれない。
「明日の天候はどうなるだろうな。」
「あー、多分この感じだと朝には出歩けるくらいにはなってるんじゃないかな。」
「なら、明日は予定通りに出るか?」
「ただ、雪崩とかの危険性とかもあるからなぁ……1日だけ様子見でここに居ようとは思っている。」
大丈夫か?と視線で聞いてみると、聞いてきたアストは問題ない、というように頷いていた。
フィーとソーヤの姿が見えないが、近くにはいるのだろうか。
「フィーとソーヤは?」
「ソーヤは部屋で装備の調整をしてるって言ってたぞ、フィーは……あそこだな。」
「え?」
「暖炉のところ、火の精霊が調子悪いみたいでさ、様子を見てるんだってさ。」
そういわれて暖炉のほうに視線をやると、そこにはしゃがみ込んで、何かと話をしているようなフィーの姿があった。
多分、妖精と何か会話……話している様子を見るに交渉ではなさそうで、どちらかというと励ましている、ような感じに近かった。
たまに炎の光とは違う、キラキラとした粒子のようなものが散っている。
その光景をちらりとみただけならば、幻想的なものに見えるのだが、きっとフィーにとっては当たり前のありふれたものでしかないのだろう。
ふと、その光景を遠巻きに見ている人たちがいることに気が付いて、そちらに目線をやる。
どの人も、微笑ましい、という感情とは程遠そうな……。
嫌悪、とまでは行かないが、気味悪そうなものを見るようなものを視線をフィーに送っている。
妖精の愛し子、というのはいつもこのような視線に晒されている、と気がついたのはフィーとアストと旅を始めてすぐの頃だった。
フィーが妖精と何か相談事のように小さな声で話しているだけでも、周囲の人は気味が悪い、などという言葉を投げかけてくる。
さらには、フィーの目……妖精の愛し子特有の瞳を見て、ゲェ、と声に出し、嫌な顔を隠そうとしない者もいる。
そういった人たちに比べれば、ここの人たちはまだいいほうだろう。
だけれど、どことなく不信感、というものを隠しきれていない。
人は自分と違うものを、見えないものを嫌う傾向がある。
だからこそ、普通は見えない存在である妖精、というものを見ている妖精の愛し子、それは嫌われる対象の一つとしてよく選ばれやすい。
アーロンとしては身近な人たちがそういったことをするタイプの人間ではなかったので、そのように目の色を変えて、態度に出すのが正直信じられはしなかったが、あまりにも同じようなことがこうも多いと、そういう人たちも一定数いるんだ、と思ってしまう。
そうこうしている間にもフィーはにこやかなまま、妖精との会話を切り上げたのか立ち上がって、懐からいつもの角砂糖を渡している。
そのまま遠巻きに見ていた……宿屋の店主に、話しかけて、少ししてからこちらに戻ってきた。
「どうだった?」
アストはいつも通りの態度で聞く。
フィーも、それに何でもないように答える。
「うん、ちょっと暖炉の汚れが気になって最近おさぼりしてたんだって。だから汚れを綺麗にしてくれたらちゃんと働くって言ってたよ。」
「あぁ、そういえばここの宿の掃除の人若いんだっけか、新人さんだとまだちょっとうまくできなかったりするもんな。」
「そうみたい、話したらわかってくれる優しい妖精でよかった。」
「そうじゃないとどうなるんだ?」
「そもそも適当に働いたりせずに急にどっかいっちゃうし、下手すると暖炉、爆発してたかも。」
質問の返答には小声で言ってきた。
これを言ったら妖精の恐ろしさだけが表にでていって、余計に怖がられる、と思ったからだろう。
「あー……そりゃ大変だ。」
「うん、でも大丈夫だよ。妖精さん、ここの新しいお掃除の人嫌いじゃないみたいだからきっとうまくいくよ。」
「へぇ?」
「丁寧に掃除してくれているのはわかってるんだけれど、目についてないところがあるから教えてやってちょうだい!って感じだったよ、なんだかお姉さんみたいな妖精だったんだ。」
「妖精ってのも結構人間っぽさがあるもんなのな。」
「彼女は長くここで力を貸しているからかも、ちょっとそういうところが似てきてるのかもね。」
なるほどなぁ、と思いながら暖炉に目をやる。
一度火を下ろされて、件の掃除担当の若い子がやってきた。
これから掃除でもするのだろうか。
真面目そうな顔をしたその子は言われたであろう汚れが残っているところに視線をやると、ちょっとだけ驚いた顔をしてから、掃除道具を手に取って、丁寧に仕事をしだした。