11-15-5-6
ミコトに家の案内を終えて、貸す部屋の準備も終えて…さぁこれからどうするか、と思い始めた頃。
「おーい、夕飯の準備終わったぞー!アーロン配膳くらい手伝えー!」
と、キッチンのほうから父の声が響いた。
「おー!いまいくー!」
父に大声で返事をしたあと、二人に行こうと声をかける。
ソーヤはいつもの通り、小さく頷いてついてきて、ミコトは、夕飯何だろうなーと言葉を口にしながらソーヤの後ろを歩く。
その日の夕飯はいつものよりもずっと豪勢で、おそらくミコトという客人がいること、そしてそのミコトがアーロンとソーヤの恩人に当たる人だからだろう。
その夕食の席で、いろいろな話を聞いた。
かつて父が所属していたキャラバンのこと。
ミコトの両親について、自身の母親についてを。
「そうか、ミコト君も同じキャラバンの出身だったか。」
「はい…といっても生まれたのは母親の故郷のサイユ内ですし、キャラバンに身を寄せたのはそれなりに育ってからですよ。」
ミコトの返答にセスは小さく笑って、それはそうだな、とつぶやく。
アーロンはキャラバンというものがどういうものかいまいち理解はできていないが、実力がものをいう世界ということにはちがいない。
と、いうことは少なくとも何かしらで優れた能力を持っている、または戦える力を持っていることになる。
そういうことができる年齢というのは、いくら天才といえども下限はある。
「そうか、サイユで育って…だから武器もサイユ由来の刀を使っているのかな?」
「そうですね、サイユでは一般的な武器の一種ですし、何より身に着けた戦い方と一番しっくりきたんですよ。」
セスの言葉で、ミコトの武器について思い出していた。
あの片刃の剣のようだが、薄く、折れそうな刀身。
叩きつけて相手を負傷させることを目的としている剣とは違い、まさに斬り、絶つ。
あれは刀だけあればできることじゃない、その武器に合わせた戦いかたを身に着けてこその技術。
そして切れ味を落とさせないための攻撃の仕方、手入れまで、すべてを含めて一種の芸術のような戦い方だった、そう感じた。
「戦い方か…そういえば君の母親は少し変わった戦術を使っていたような気がしたな、あれもサイユ独特のものだったのか?」
「古武道桜花流ってやつですかね?」
「あー多分そんな感じの。」
「だったらそうですね、サイユに古来から伝わる伝統的で一番有名で…使える人は限られている戦術の一種です。」
「ん?一番知られているのに、使う人はいないのか…もしかして訓練が厳しすぎて門下生が逃げてしまうから…といったところか?」
確かにあれほどの技術を身に着けるための訓練はすさまじそうだ、あまりの過酷な訓練だと門下生は逃げてしまうだろうな…などと変に納得しそうになっていると、それを笑い混じりに否定するミコトの声がした。
「あはは、違いますよ有名な理由は桜花流って流派を作った人が神話時代の勇者御一行の一人で、サイユじゃ勇者と同じ武術、ってことで有名なんですよ、で、使えるのが限られてるってのは…桜花流自体は門下生の募集をしてなくて、現状一族の者じゃないと教えてもらえないんですよ。」
「以外だな、そういう有名な武術とかだと門下生を集めて道場で鍛えて教育費で生活してるもんかと思ったんだが。」
「他の流派だとそういうのが主流ですよ、桜花流だけがこういう方針をとってるんですよ…まぁ俺跡取りじゃあないんで詳しいことは教えてもらわずに家を出たんで、あんまそういうのはわかってないんですけどね。」
ケラケラと笑いながら食事を口に運んでいくミコトは全然悪びれることもなくそう言ってのける。
「跡取りじゃない…あぁそうか普通に考えてるとミコト君の伯父さんに当たるひとが当主で、その息子アタリが跡取りになるのか。」
「ですです、まぁ一応分家?みたいなもんなんで桜花流を習わせてもらえたんですけど、性に合ったのが刀を使ったものだけだった、ってことでそれだけ一通り習ったんですよ。」
なるほどなぁ、とセスがつぶやいて、ジョッキに入れた酒をあおるようにして飲む。
アーロンは、二人のその会話が一区切りついたのとほぼ同時に、食事を終えてたので席を立つことにした。
「ごちそうさまでした、俺ちょっと風呂の準備してくる。」
自分の使った食器を片付けて、キッチンの流しに持っていきながらそういう
「おう、頼んだ。」
父は機嫌のよさげな声でそう言ってまた、ミコトと何事か話だした。
共通の話題を話せれる人物がいるのが楽しくてしょうがないのか、そんなにおしゃべりな性格でもないはずなのに、今日はよくしゃべる。
ソーヤはどうしているんだろう、とふと横目で確認する。
いつも食事のペースは遅いほうだから、あまり気にしていなかったが、今日はいつにましても遅い気がする。
まだ皿の上に食事が半分以上残っているのは少し異常なような気がする。
どこか、具合でも悪かったのか、食事になにか変なものが入っていたのか、と気になったがそれは恐らく杞憂だとすぐに思えた。
ソーヤの目線が父とミコトの間をうろうろしていた。
あまり交通量が多い村ではないし、こうやって個人の家に客人が来ることは本当に珍しいことだ。
そして、あまり気力がなさげで興味が薄く感じるように見えるソーヤだが、それなりにこの村の外のことに対する興味はある。
きっと、二人の外の世界の話が興味深くて話を夢中に聞いているために食事をすることを忘れているんだろう。
その姿に苦笑を浮かべて、ソーヤの後ろに立つ。
「ソーヤ、話を夢中になって聞くのはいいけど飯も食おうな~?」
声をかけると少しびくりっと肩を跳ねさせて、こちらに視線を向けた。
その表情はいたずらを実行する前に親に指摘された子供のようで、すこし間抜けな表情に思わず笑い声が漏れた。
「ん?本当だな、ソーヤ君、全然食べてないじゃないか、冷めちゃうぞ。」
「てっきり猫舌だから冷ましてるかと思ってたんだけど…違ったんだな。」
「二人の話に聞き呆けて飯どころじゃなかったみたいだぜ。」
そう、指摘するとちょっと困った顔をして、赤くなった顔を伏せて隠す。
その姿を見た二人はお互いを見て、ふへっ、と気の抜ける笑みを浮かべた。
「なんだなんだ~こんな話でいいなら幾らでも話てやるぞ~。」
「俺も、いろんなところ旅してるから何かしら面白い話はできるよ~。」
恥ずかしがっているのか、顔を伏せてしまったソーヤの頭を乱雑になで繰り回す父。
その光景をほほえましそうに見つめて止めることをしないミコト。
「…うん、ありがとう。」
顔を赤らめながら小さく礼の言葉を呟いて、スプーンを手に持ち直すソーヤ。
食事の時が和やかに過ぎていく。