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約束のアポストル  作者: 飯綱 阿紫
146/173

13-17-9-3

雪山を昇り始めてどれくらい経ったか。

段々と雪山に慣れていない他のメンバーも身体の動かし方をつかんできていて、自然と可能な限り疲れにくいような行動をするようになった。

身体の末端は凍傷になりやすいため、手や足、特に指は念入りに冷気が入り込んだりしないようにする。

そして、忘れがちだが耳。

耳も凍傷になりやすい。

いや、外に出て冷気にさらされるとすぐにわかることではあるのだが…。

ともかく露出が多い顔や吐息がかかるため、顔は結構凍傷にはなる。

そのためできるだけ顔の露出を減らすために、帽子で頭から耳を隠すようなものを使用したり、首から口・鼻あたりを覆うようにできる防寒具を使用している。

……寒い地域ではしょうがないことなのだが、こうなるともう誰が誰だかわからなくなる。

なんといっても目も雪からの照り返しがある。

それを何の対策もなく見続けていると、時間がたつにつれて目が疲れてくる。

日光からの光だけでなく、あちらこちらに降り積もっている雪が光を反射して、自分の目にチラチラと光を届けているからだとされている。

だから、それを防ぐために、目も色のついた眼鏡や、わずかな隙間しか空いていない眼鏡のようなものをつけている。

当然、アーロン達も例によってその装備は整えた。

だからこそ、帽子で髪は隠れ、目もほとんどが覆われて、皮膚の露出は最低限、むしろないに等しい、さらには体形の違いまで覆すような厚着。

……残った特徴は持っている武器と大きな身長差程度だ。

パッと見たときに身長が近い人が並んでいて、武器が見えなかったりするとどっちだ?と悩んでしまう。

だが、そんなことも慣れてきていた。

僅かな着方の癖や、装飾品の趣味。

あとは使用武器によって出てくる防具の撚れ方や擦れ方。

やっぱり武器によってよくする行動、人によってやる癖、というのはあるもので、そういう癖が服に出てくる。

擦れ方も、どう武器を担いでいるか、どこで武器を支え力を入れているのか、よくしゃがむのか、そうではないのか。

服に、人となりが現れてくる。

そういえばアーロンも昔、外に出た大人たちのことをすぐに見分けることができた。

きっとそういったことを無意識にみて、あぁ誰なんだろうか、というのを見分けていたのだろう。

幼少期からそんなことをやっていたアーロンはその見分け方に慣れていたようで、割とすぐに防寒具に身を包んだメンバーを的確に言い当てた。

メンバーは最初の頃こそよくわかるなぁ、と言っていたが、観察眼の鋭いアストやミコトあたりはすぐにその感覚をつかんでなるほどこういうことか、と納得していた。

フィーが案外最初から…それこそアーロンの目が慣れない前から見分けていたらしいが、それは精霊の力を借りているから、らしい。

……そりゃ妖精からしたらたかだか服を着こんだところで誰かわからなくなる、なんてことはないのだろう。

妖精の愛し子らしい見分け方といえばそうだろう。

一方でソーヤはいまいち装備との相性が悪いのか、視野が狭まる、または実際の景色と多少の差がある。

と、いうことに未だに慣れずにいた。

戦闘面でも的を外すことはまずないのだが、それでも険しい表情が抜けきらない。

慣れない足場に、吹雪の時は弓の力…飛ばす力が低くなる。

視野も余計に狭まるし、何より細身の彼は自らの体温を保つことすら難しいほうだ。

雪山の人は筋肉がないと体温が保たれない。

筋肉は自然と身に着く、よく働き、よく動くからだ。

そうやって動かないでじっとしていると、身体から熱がうまれなくて、どんどんと冷えてしまう。

だからこそ、身体を動かし、働き、筋肉がつく。

よって割と筋肉質で身体に厚みのある人が多い。

ソーヤのような細身な人もたまにはいるのだが、ほとんどの人がいつも寒さに震えていた。

ソーヤも冒険者をしている身のため、筋肉はそれなりにはついているはずなのだが…やっぱりこの寒さは堪えるのかもしれない。

まだ山の中腹あたりで、まだまだ上っていく段階だ。

もっと寒くなる前に何か対策を打つべきだろうか、と仲間うちででできるだろう対策をやってはいる。

が、どうにもならないことも多い。

と、いうのもフィーも細身なほうなのだが、もっこもこに着こむことであまり問題にはなっていない。

フィーは、あまり大きく動く必要のない戦闘職だから。

それに比べてソーヤは後衛ではあるものの、隠れてるときはピクリとも動かないし、いざ見つかったら敵に狙いを定められないようにするため四方八方に走り回ったりすることもある。

フィーと比べると移動が多く、身軽である必要性がどうしても出てきてしまう。

そうして動き回って、一時的に身体中に熱が回ってあったまるが、汗によって冷やされて、また寒くなる。

そういった悪循環に陥ってしまう。

必要以上に着こませると戦闘に支障が出て、戦闘よりに考えすぎると今度は低体温を引き起こしてしまう。

ソーヤはギリギリのラインで何とか持っているといっても過言ではないだろう。


そうした問題を抱えつつも、全員、進める足は止めなかった。

何度も雪山を歩いては町を経由してどんどん上を目指す。

アードカークはそれほど高い位置にある町だ。

途中高山病になったりしないように、長期で町に留まったりする計画もある。

そういうことが必要なほど、地上からは遠く、上るのも下るのも大変の町だった。


そうして、長めに滞在することを決めている町で色々見て回る。

モンスターの毛皮を使った防寒具、保温性に優れた水筒、身体を温める効能があるような食材…。

やっぱりそういう需要のありそうなものは一通りはあった。

そして案の定この町にたどり着いたときにソーヤはかなり寒がっていたので、宿屋の人が気を利かせてすぐにぬるま湯を用意してくれたりもした。

話を聞けば年に数回、こういった人が来るとのことだった。

中には酷い凍傷で水膨れや発疹が出てしまっている人もいるそうだ。

そういう人達はとにかく早く温めないと、と思ってしまって暖かい暖炉の前に行こうとしてしまうのだそうだ。

凍傷において、急に温めるのはいけないことだ。

ぬるま湯のような少し暖かい程度のお湯からゆっくりと、凍傷部分ではないところから徐々にあっためていくのが、応急処置としては正しい。

結局、この町でも有用なものは得に見当たらず、適当に消耗品を買い足して終わることになった。

さて、この寒さをどうやって堪えてソーヤを連れていくか、そもそも連れていくべきだろうか。

などと考えていると、フィーが少し言いづらそうに話しかけてきた。

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