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約束のアポストル  作者: 飯綱 阿紫
144/173

13-17-9-1

旅を続けて、歩いていく。

寄り道をしたり、日程の調整をしているうちに、暑い時期は徐々に通り過ぎていく。

空気が冷たくなっていき、乾燥していく。

季節の移り変わりを感じながら、更に進んでいく。

今頃、アードカークの町には雪が降り積もっているのだろうか。

かつて住んでいた町の景色をぼんやりと思い出す。

幼い時の数年、その程度でしか思い出せないが、それでもずっと奥底に、大事にしまってあって忘れられない思い出だ。

広いとは言えない町の中、白く一面に染め上げる冷たい雪。

吐く息が白く凍り、身体から体温と水分を奪っていく。

家に帰れば、家族が部屋を温めていてくれて、兄弟とともに暖炉の前を取り合ったりして、芯まで冷えてしまった身体を温めようとする。

食べるものも、貯蔵食が多かったし、温かい食べ物が大好きだった。

近所の川はほとんどいつも凍っていて、穴をあけて魚を釣ったりすることもある。

氷が分厚くできる深い寒さの時は大人と一緒に行って、スケートをすることもあった。

そういえばこっそり大人には内緒でスケートの練習をしにいった近所の子がいて、氷が薄かったがために割れてしまって、極寒の中川に落とされた子もいた。

あの時は町中全体が騒然とした。

その出来事もあって、アーロンは水の中というのはどうにも苦手だった。

トレヴィオで過ごしていた時期に数回訓練と称して川に入ったこともある。

アードカークのものとは違って、やわらかい、流水。

暑い時期に衣服を外して入るのは気持ちがいい、というのはわかった。

だが、それでも全身を漬けて、顔を浸すということには抵抗がある。

呼吸ができなくなるという恐怖感はもちろん、水が奪っていく体温に恐怖を覚えるのだ。

雪の中に、放置されて急激に冷えていく感覚とは違う。

ゆっくりと穏やかに、しかし確実に体温を奪っていく。

長い間浸かっていると、だんだん自分と水の境い目がどこにあるのかわからなくなる感覚も、苦手だ。

なんとか、水泳の訓練をつけて軽く泳ぐことはできるようにはなったのだが。

まだ苦手意識は消えないままだ。


そうしている間にアードカークが存在する山の麓の町までやってきた。

栄えた町ではないが、山に入る準備をする最後の町なので物品は豊富だ。

ここは、なんとなく見覚えがあるような街だった。

アードカーク以外でしっかりと滞在して、準備をして、見て回った最初の町だからかもしれない。

もちろん下山しきる前にアードカーク以外の町にも短期で滞在はしたのだが、どこもそれほど記憶に残るほどのものではなかった。

短期間、ということもあるが、そもそも街の雰囲気がアードカークに似ていて、区別として町は別だが、大まかにみると一緒のような場所、というのが影響しているのかもしれない。

そういえばどこそこのお姉さんがあそこの町の誰々さんに嫁いで~といった話はよく聞いていたため、身近な町だったに違いない。

さすがに下山した町は雪山とは雰囲気が変わってくるので、記憶に残ってるのだろう。

やたらと父の外出に付き合ってはいろんなものを見て質問攻めをしていた記憶がある。

一先ず、その町で宿を探して、雪山に入る準備を本格的に始める事の運びになった。

大きな宿屋に宿泊することが決まって、町へど繰り出す。

冷たい空気が頬を撫でる。

何となく、そろそろ雪が降るんだなぁ、と感じるような空気。

少しいつもより重いような空気に、静かさを感じる。

アードカークに居た時は頻繁に感じていた空気だが、下山した今ではなんだか懐かしい空気だった。

年に一度か二度、感じるか感じないか。

雨とは違って、雪というのはなんだがいつもより静かに感じるのだ。

なつかしさをじんわりと感じていると、ソーヤがやってきて、買い物に付き合うことになった。

アストやリュディ、ミコト、フィーはそれぞれ好き勝手に歩いて回っているようだった。

アストとフィーはいつもの観光だろうし、ミコトは文字通り好き勝手…もしかするとこのあたりにも何か彼の興味の引く出来事だったり研究のネタになりそうなこともあるのだろうか、それを探索しに行ってるのかもしれない。

そしてリュディはそんなミコトについて行って、色々面倒を見ているのだろう…。

なんだかんだリュディとミコトのコンビはうまくやっているようだ。

そもそもアーロンが出会う前からそこそこ良好な関係ではあったらしいし、今はリュディの問題である、リュディが強すぎることによるチーム内での慢心が原因の人死にも出ていない。

むしろリュディがいるおかげで連携がうまくいき、お互いに能力を伸ばし合う良い結果が出ている。

アーロン事態、まだ慢心ができるほど実力はないし、それに今はしている場合ではない。

武器を変えたばっかりでまだ余裕すらなく、むしろ慢心する隙がない。

いつもあぁすればいいのか、こうすればいいのかと試行錯誤を繰り返す日々。

他のメンバーもそうそう油断するような奴らではないし、なんだかんだミコトがエネミーやモンスターの雑学やら生態やらそういったことを事細かに教えてくれて、それが耳について頭が覚えて、その習性を利用した戦い方をその場に協力して作り上げていく。

そうした臨機応変な戦闘をしていると、リュディ一人が強ければどうにかなる、という問題ではなくなってきて、必然的に慢心もなくなっていく。

あるいみ、彼にとっては一番いい状況なのではないだろうか。

ミコト以外にも心おきなく話すことのできる友人もできて、協力し合える。

いい、仲間たちに恵まれて、助け合える関係になれたことは喜ばしい。

アーロンもそれに助けられながらここまで来た。

だからこそ、自分が力になれることならば、力を積極的に貸していこう、そう思ったのだ。

そうこう考えながら、町中を回って、見覚えのあるお店に入ったり、と繰り返し準備を進めていく。

途中で温かい饅頭を店頭で蒸していて、それに惹かれて二人で立ち寄って立ち食いしたりもした。

何となくこの行動に既視感があるのは、昔同じようにして父と食べた記憶があるからだろう。

何にしても、その饅頭はとてもおいしかったので後悔は一切していない。

ソーヤも満足そうに食べていたので、きっとおいしかったのだろう。

そうこうして観光をしつつ準備を整え、雪山の状況を確かめる。


等々、この山に登ることになるのだ。

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