11-15-5-4
慣れた道をたどり、トレヴィオの町へと戻った。
「ここがトレヴィオ、ようこそ?」
「案内ごくろーう、おもてなししてくれんの?」
短い道中だが、アーロンとミコトは似たような年であり、ミコトは冒険者としての先輩であり、なにかと気が合う会話が続いたせいか、早々に軽口をたたきあう仲となった。
ソーヤは未だに人見知りの性格が治りきらずにいて、初対面の人とうまく会話することができないでいる。
だが、別段嫌っているわけではないし、ミコトのように陽気な人はむしろ好きな方だろう。
こればっかりは自分でどうにかしてもらうしかない、そう思いながらできるだけ打ち解けれるように会話をつなげる。
「そういえば会いたい人がいるんだって?俺でわかる人だったら案内するけど。」
「お、本当か?えっと…たしか…セス、セス・セシルって人だ。」
ミコトからよく見知った人の名が呼ばれ、一瞬驚く。
確かにセスは冒険者としてそれなりに強い部類にあたるだろうが、見ず知らずの人間がその名を覚えるほどの偉業をしたような人物ではない。
もしくは自分が知らないだけで、何かを成し遂げているのかもしれないが、そうだった場合周囲の人間が放っておかないだろう。
なのになんでミコトが父のことを知っているのか、その疑問が浮かばせながらミコトに言葉を返す。
「…セス・セシルは俺の父さんだ、ぞ?」
「…えっ。」
お互い予想外だったようで思わず足を止めてお互いの顔を見合わせている。
ソーヤも同じことを考えていたようで、少し目を見開いている。
「そっか、さっき名前しか名乗らなかったか、アーロン・セシルって名前なんだよ。」
「あー、そっかぁー…そういや年の近い子供いるって聞いたことあるな…アーロンのことかよ~。」
「ミコトは父さんの知り合いなのか?」
「いや~俺は会ったことない、今日初めて、知り合いなのは親の方でさ、近く通るなら顔見せてやれって、言われたから…寄り道したら道迷ってこのざまってわけ。」
少し笑って恥ずかしい気持ちをごまかすようにして、ミコトはアーロンから視線を外した。
「そういうことかー…じゃあ行くのはソーヤの家でいいな。」
そういいながら、ソーヤに視線で同意を求める。
ソーヤは小さく頷いて答える。
「ん?セシルさんの家はないの?」
「まー無いような感じだよ、今はソーヤの家を間借りしてる形だから。」
あの家は、ソーヤの家ということになっている、だがソーヤがまだ未成年なので保護者としてセスが管理している。
なので、まだセスとアーロンはソーヤの家で居候として暮らしている。
「ふーん?」
ミコトはとくに気になったわけでもないのか、簡単にその話を流す。
あまり詮索されても困ることなので、その興味のなさに多少感謝をしながら、アーロンは案内を再開させる。
「ただいまー、ってまぁ今父さんはいないんだけどな。」
「ただいま。」
「おっじゃまーしまーす。」
家は予想通りに暗く、それは父がまだ帰ってきてないことを意味していた。
父は昨日からダンジョン内に潜入してるから、普段の通りなら今日は帰ってこず、早くて明日戻ってくる予定だ。
「セスさんって何やってんの?」
「そこそこ腕利きの冒険者やってるよ、俺と一緒の大剣使い。」
「あー、じゃあもしかして今日ダンジョンに潜り込んでるとか?そしたら今日帰ってこないんじゃないのか?」
「そうそう、潜り始めたのは昨日で特に何も言われてないから…多分早くて明日じゃないかなー?」
なぁ、とソーヤに同意を求めるように聞くと、ソーヤは簡素にそうだね、とだけ答えて武器防具を外して自分の部屋へと片付けに行ってしまった。
その様子をいつものように見送り、アーロンも身に着けていた武器防具を外しだす。
ようやく窮屈な拘束から解放され、身軽になった身体を伸ばす。
「なぁ、俺ソーヤになんかしたっけ…?」
ミコトはソーヤの態度がそっけないことを気にしたのか、どこか困ったような顔をしながらそう聞いてきた。
慣れてない人からすると確かにそっけなく感じてしまうのはしょうがない、などと心のうちで言い訳をしつつ、ミコトに訂正をする。
「いや、大丈夫だよ、ソーヤはいつもあんな感じでさ、基本的に冒険者としてのスイッチが入ってない限りはボーっとしてるし人の話も聞き流すこと多いし、ほっといたら寝ちゃうから多分さっきのもあんまり話聞いてなかったんだよ。」
「あー…そうなの?よかった、よかった、プライド高い系の人だとあぁいう助け方嫌うからさ。」
「いやいや、あれほんと助かったって、ソーヤもちゃんとそう思ってるはずだから、大丈夫だって。」
ミコトを若干励ます形になったが、何とか誤解も解けたようだ。
ミコトの言う通り、人によってはあぁいう横入りのような助け方は好まれない。
特に冒険者として実力がついてきて、自信がついて、慢心しだしたころは多い。
年代的に言えば20代前半辺りだろうか、そういえばギルドの集計をした行方不明者や死者が多い年代も丁度そのあたりだったはずだ。
何にしても、アーロンとソーヤにそれは当てはまらないし、ミコトもそう判断したうえであのような助け方をしたのだろう。
「そういや依頼品はギルド持ってかなくてもいいのか?」
武装を解除しながら、ミコトは机の上に置かれた素材袋を見つめてそのように聞いてきた。
「ここのギルドの受付はちょっと閉まるの早くてさ、この時間に帰ってくると素材確認ができないんだよ、だからこの素材は明日の早朝あたりにでもギルドに持ってくのがいつものことなんだよ。」
「緊急な用事の場合は?」
「そういうのだと報酬は依頼主から直接もらうことにして、素材確認も依頼主がやるから直接そっちに持って行って後で依頼は完了しましたーって報告だけする。」
田舎ならではのぼんやりとした取り決めにミコトは何か関心したように声を漏らす。
「ミコトのとこはそういうんじゃないんだ?」
「ん?あー俺が今まで受付したとこだといつ行っても窓口には誰かしらいたからな。」
同じ冒険者ギルドでも地域が違うだけで受付の仕様がここまで変わるのか、と今度はアーロンが関心する番だった。
「へー、それで…。」
知らないことをミコトの口からきけて思わず楽しくなってきて、話の続きを促すようにしたとき。
玄関の扉があいた音がした。