13-17-6-19
変わり映えのしない、懐かしい家。
日が落ち始めているため、廊下に差し込む光も少なく感じられ、全体的に薄暗く、影をぼんやりと広げている。
廊下の向こう側、リビングのほうから人が立ち上がる音がした。
そうして、リビングの扉が開かれる。
「おかえり、アーロン、ソーヤ君。」
少し、老いたような父の姿が目に入る。
教官と同じように、若干増えた白髪に、ハリが失われつつある肌の質感、そして、伸びた分、近くなった顔。
漠然と、同じ姿のままでそこに居てくれると思っていた。
いや、同じ姿ではある。
ただ、自分たちが成長している分、その時間も同じように周囲にも流れている。
それがもたらす変化が成長なのか老化なのかの違いなのだろう。
少し、悲しいと思うようなところもある。
だが、これが当然のことで、自然なことなのだと理解している。
父は、アーロン達の姿を見ると、一度身体の様子を見て、顔を見てから、ほほ笑んだ。
怪我や不調を心配したのだと思う。
「ただいま、父さん。」
「た、ただいま…セスさん。」
「大きな怪我はないみたいだな、良かった。」
「今のところ、大丈夫だよ。」
「なら良かった。」
そういって、父はアーロンとソーヤの頭に手を置く。
かつての日常のように、頭を軽く撫でる。
そうして、最後にぽんぽんと跳ねさせるようにする。
「背が伸びたな、もう少しで抜かされそうだ。」
確かに、視界はかなり近いし、この旅の最中何度か体の節々が痛み、移動するのが億劫になることも多々あった。
それがきっと成長痛、というもので、それの前後で防具等の着心地に違和感を覚えるようになって、サイズを変更することが起きるようになった。
確かに、そういう日常の色々の変化から、自分の身長が伸びてきている、ということはわかってはいた。
だが、あと少しで、父に追い付く程度の身長差になっていることは、こうして並んで初めて分かった。
アーロンは、まだまだこれから背が伸びてもおかしくない歳だから、父の背を越えることはそう遠いことでもないのかもしれない。
少しどういう風に反応したらいいのかわからなくて小さく笑い声を漏らすようにして、返事とすることにした。
「急なことだったから、色々心配はしていたんだが、ともかく元気にやっているようでよかった。いや、手紙の様子でわかってはいたんだが、やっぱり実際に見るのと心配の仕方が変わってくるからな。」
父も、少し照れながらそう言い訳をするように言う。
「あぁ、長旅から帰ってきてずっと玄関先で話すのはよくなかったな。」
そう話を切り上げると、父は部屋の中に戻っていく。
「一応、二人の部屋は可能な限りキレイに掃除はしているから使えるとは思うぞ、あと仲間も一緒だと聞いていたからな、客室の掃除もしてある。部屋数が多くあるわけじゃないから二部屋しかなくてな、二人ずつ相部屋になるんだが、大丈夫だったかな。」
リビングに招き入れながらそう説明をする。
「わざわざありがとうございます。」
「宿屋の部屋もよく相部屋になってるから平気のはずだけど。」
「なら良かった、まぁ宿屋より狭いだろうがな。」
リビングに入ると、すでにある程度食事の用意が済まされているようで、いい匂いが漂ってきていた。
アーロンの好きなスープや、ソーヤが良く食べる肉料理、この村でいつも食べていた懐かしいパン。
「うわ、懐かしい!」
思わずそう口に出して机の上に出されたそれを見る。
ほかほかと湯気がたっているので出来立てなのだろう。
「部屋に荷物を置いて、手を洗ってきなさい。そうしたら食事にしようか。」
「はーい、客室はいつもの所だよな、アストとフィーとミコトとリュディを案内してくる。ソーヤ、行こう。」
「う、うん。」
そういって、アーロンとソーヤはリビングを出て、記憶を頼りに四人を客室まで案内する。
「あぁ、部屋は変えてないからいつもの所だ。」
父の言葉を後ろに聞きながら客室へ向かう。
客室の一つに行ってみれば、父の言う通りそれなりにキレイに整えられた部屋があり、ベッドは2つ、ちゃんとベッドメイクもされた状態になっていた。
冒険者らしく、大きめの荷物を置けるスペースも確保されているし、武器置きに使えそうなところもある。
冒険者として旅をしていたときに、これがあったほうがいい、という経験が活きているのか、気遣いの感じられるような部屋に仕上がっていた。
「おー、キレイな部屋だな。」
「うん、とっても過ごしやすそう。」
それぞれ、部屋の様子に感想を漏らして。荷物を置く。
部屋分けの方法は、いつも通りアストとフィーのレーンスヘル兄弟と、ミコトとリュディの二人組で部屋を分けることにした。
たまには部屋分けを変えてみる、ということもあるのだが、なんだかんだ兄弟は兄弟で、ミコトとリュディはそれなりに前から知り合っていて友人である、アーロンとソーヤは同じ村で兄弟のように共に育ってきた仲、ということと、ソーヤはアーロンに起こされていることが前提で生活が成り立っているため世話を焼くのに同室のほうが都合がいい、ということもあり、基本的にこの6人で宿屋に泊まるときは、アーロンとソーヤ、アストとフィー、リュディとミコト、の構成になることが多い。
もちろん二人部屋じゃないことも多々あるが、基本的にはこうなる。
四人にそれぞれ客室を案内して、どこにトイレがある、等の説明を終えてから、アーロンとソーヤも久しぶりの自室へと向かう。
急な出来事のせいで、ろくに整頓せずに旅立つことになった自室。
旅の準備は父や教官がやってくれたし、必要なものは恐らく二人が入って用意してくれたりしたのだろう。
もう数年経っているから時効ではあるのだが、多少の気恥ずかしさがある。
特別整頓できているわけではないが、日々の片づけはちゃんとする方だったため、そこまで散かってはいない部屋。
父の言う通り、埃を拭き取ったり、定期的に換気したりしていてくれたのだろう。
人が頻繁に出入りすることのなかった部屋、というにはしっかりと生活感を維持された状態だった。
最後に見た部屋の様子からあまり変化がないことから、部屋の配置はいじってないようだ。
重い荷物をようやくおろして、武器を武器たてにかける。
ホッと、息を吐いて、窓の外を見ると懐かしい風景が広がっている。
帰ってこれたんだ、とようやく息がつけた。