11-15-5-3
「せ…っいや!!」
気合いの入った掛けと共に、薙ぎはらうように大剣を大きく振りきる。
目の前に居たフォレストウルフはキャンッと小さく鳴きながらその場から飛ばされ、軽く近くにあった木にぶつかる。
力が弱かったか、勢いが足らなかったか、まだ意識があるようで、少しよろめきながらも立ち上がってくる。
もう一度隙を見て攻撃を加えなければ。
そう思った瞬間アーロンの後ろの茂みからピンッと糸が弾ける音がして、フォレストウルフに矢が突き刺さった。
矢は上手いこと首のところを貫いており、致命傷だということがわかる。
「ナイスショット」
後ろを振り返りながらそう讃えると、ソーヤは少し微笑みながら茂みから出てくる。
「注意がアーロンに向かってたから狙いやすかったんだよ。」
お互いにそう言葉を交わして、武器の構えを解く。
そして、完全に動きの止まったフォレストウルフに向き直って、腰に別途準備しておいたナイフを使って素材を剥ぎ取る。
今回は求められた素材は毛皮と足の爪、荷台があるのなら三体倒した後安全な場所に運び、そこで解体するのだが、あいにく二人にそんなものはない。
なのでこの場で必要なものを解体して、それだけ持っていく必要がある。
そのための役割分担として、アーロンが解体をして、ソーヤが周囲の警戒をすることになった。
「…よし、こんなもんだろ。」
少し時間がかかったが、特に新たなモンスターに襲われることもなく、解体を終えることができた。
素材袋の中に素材を集めて、袋の口をしっかり閉めてから立ち上がる。
「帰る?」
「おう、さっさと帰って報告して、そんで飯の準備だな。」
にこやかに笑い、そう答えるとソーヤも少し微笑みながら、うん、と答える。
今日は怪我をすることもなかったので、順調だといえる。
さぁ町に戻ろう、そう口に仕掛けて止まる。
小さかったが、確かにガサリと草木を踏む音が聞こえた。
人にしては軽すぎる、ちょうど…成体のフォレストウルフくらいの重さの何かが茂みの奥に潜んでいる。
ソーヤも、何かを感じ取ったらしく、静かに弓矢を番えて敵が何処に潜んでいるかを探っている。
「…察知」
小さく呟くようにスキルの発動をする。
訓練とは違う、目を閉じず周囲の気配を探る。
今見ている景色と探っている気配が風景が視界に被り、歪ませる。
その不快感に眉をしかめながら耐えて、気づいた。
確かに、音のした方角、自分たちの視線の先にフォレストウルフが一匹いる。
だが、同じように後ろに…先ほどまでソーヤの潜んでいた方向の茂みからも、二匹分の気配が感じ取れた。
「…っ!」
バッと後ろを振り向き、気配のあった場所に視線を送る。
気づかれたことを察したのか、フォレストウルフはゆっくりと茂みの中から現れた。
気配通り、後ろには二体いて、その二体に続いて、ソーヤの前にも一体現れる。
武器を構え、この状況をどうするかを考える。
一体ずつならばどうにでもなる、だが、今は三体同時、それも囲まれている状況。
フォレストウルフはうなり声を響かせ、にじり寄ってくる。
あと一歩でもこちらに近づかれてしまうと、奴等の間合いに入ってしまう。
囲まれている以上、下手に後ろに下がることもでにない。
ソーヤの武器だってこれだけ至近距離に詰められてしまうと無傷では済まないだろう・
何か、何かできることは。
最善の手が見つからないまま、時は進み続け、目の前のフォレストウルフが後ろ脚に力を込めたのが見えた気がした。
もう、こうなったら捨て身でもいいから攻撃を一身に受けて活路を開くしか…。
そう決断をしようとした、時だった。
「頭上注意!ってな!」
聞き覚えのない男の声が聞こえ、頭上に影が差す。
思わず上を見ると、何かが、おそらくフォレストウルフの死体だろうか…?が落ちてきている。
「…?!」
それはアーロンの目の前にどさり、と音を立てて落ち、二匹のフォレストウルフはそれにひるんで一度後退する。
「あらよっ!とぉ!」
再び落ちてきたのは人影、後退したフォレストウルフの真上めがけて落ちて一体はそのまま串刺しに、もう一体をもう片手に持った武器…細長い、サイユで作られていると聞く刀だろうか、を使いスパリッと薙ぎ払うようにして切った。
それは何の抵抗もなく両断されて、鮮やかな血をまき散らしながら倒れる。
あまりにも鮮やかな手際に圧倒されていると、落ちてきた青年は目をこちらに向けて。
「油断大敵、だぞ。」
と言って後ろに視線を流す。
突然のことに驚いてしまって、そういえば、と内心焦りながら後にいたフォレストウルフに向き直る。
そこにいたはずのフォレストウルフは劣勢を認識したからか、逃げ去ろうとしていた。
それは自分たちと距離が開いたことを意味しており、アーロンは間に合わない、だが…。
ヒュンッと空気を裂き、鋭い一射がフォレストウルフを穿つ。
距離さえ離れてしまえば、あとはソーヤの射撃圏内であるかぎり奴らが逃げ切れることはない。
「おーよく中てたなぁ、逃げてるアイツらは早いしすぐに物陰に隠れるから狙えたもんじゃないのに。」
今度こそ、ほかに魔物の姿がないことを確認して、それからほっと、息を吐きだす。
「ありがとう、助かったよ…。」
「おう、無事でよかったな、にしてもアイツらにてこずったり群れ相手するの慣れてなかったりしてたけどもしかしてまだ冒険者なりたてか?」
「ん?そうだよ…まぁ実践経験は全然ないんだよ。」
そういうと青年はなるほどな~と一人で頷きながら刀についた血を布でキレイに拭き取り、鞘へとしまう。
「いや、ほんと助かった、ありがとう俺アーロンっていうんだ、あっちは幼馴染のソーヤ。」
「ほいほいアーロンにソーヤね、俺はミコト、ちょっと調べものついでに流れで冒険者やってんだ。」
ミコト、と名乗った青年は握手を求めて手を差し出してきて、アーロンはそれに快く応じた。
「やー、俺もちょっと困ってたから君たちみたいなやつらがいないか探してたんだよな~。」
「俺たちみたいな…?」
新参の冒険者で、戦力的な期待はできないし、戦力を期待できるような人のつながりを持ってるかをミコトは知らない。
ソーヤも首をこてり、と傾けて何故だろう、と思考しているようだ。
「そうそう、トレヴィオって町を探してるんだ、そこに会いに行きたい人がいてさ。」
トレヴィオ、それはアーロンとソーヤが暮らしている町の名前だ。
「なるほど、そういうことか!任せてくれ、俺たちの住んでる町だからちゃんと案内するよ。」