13-17-6-14
無事にチームの名前となる言葉が決まり、食事後の休憩、という時間も等に過ぎ去って、少し長居しすぎてしまっただろうか、と心配になるころになった。
流石にこれ以上居座るのも悪いので、ということで話がそれなりにまとまった時に会計をして出ることになった。
ミッシャが自分で飲み食いした分のお金を渡そうとしてきたが、神の寵児と言われてる人から金銭を出されるのは気が引けたため、占いをしてもらってチーム名を決める手伝いをしてもらったから、と断った。
ミッシャは少し不満そうではあったが、粘ってもアーロンが受け取ることはないだろう、とすぐに察したようで、すぐにそれを引っ込めた。
無事、会計を済ませて全員で外に出ると。
「ごちそォさまァ、それじゃボクは帰るねェ。」
ミッシャが何事でも無さげにそういった。
「そのまま戻って大丈夫なのか?」
そのアーロンの疑問をそのままアストが口にする。
「あはァ、平気平気、割としょっちゅう抜け出してるからァ。」
「それもそれでいいのか…?」
「あいつらの警護っていうか幽閉?軟禁のが正しいのかなァ、そういうのすごいへったでさァ?わりと余裕で抜け出せれるんだよねぇ、だからもういいんじゃないのかなァ。」
ケラケラと笑うミッシャにため息をついてしまうアスト。
「あっは、でも流石にそろそろ帰らないと町中探し回られて鬱陶しいから行くねェ。」
「おう、出来ればもうあんまり外ふらついて回りの人に迷惑かけるなよ。」
「それは出来ない相談だァ。」
「チーム名、良い名前を提案してくれてありがとうな。」
「いいよォ。」
アーロンがそう声を掛けると、ミッシャはまた、手相を見たときのようにアーロンの両手を握ってきた。
自分とは違う、手の豆のない、そこまで骨太でもなくて、しなやかで女性的な印象も受ける白い手。
けれどこの手は、彼自身が望んだ人生の結果ではないと思うと、思うところはある。
だが、このあたたかな手で救われたものもあるのだろう、と思うと彼がいる、ということも重要な社会の一部なんだと感じさせた。
「君たちの旅と冒険に幸多からんことを。」
微笑み、祈りをささげるようにして、そういうミッシャの姿は、確かに、教会にいる、神の寵児。
神性な癒しの権化だと、納得できるほど、どこか神々しくて、まぶしいものだった。
「あ、りがとう、ございます。」
思わず、感謝の言葉が詰まってしまうほどに。
「アハハ。」
その様子がおかしかったのか、ミッシャは屈託のない笑顔で、さっきの神々しい微笑みとは違う、村に居た幼馴染と同じような笑みを浮かべる。
「じゃ、そろそろ帰るねェ。」
そういって、ミッシャはこの場から足早に立ち去る。
それを手を振って見送り、アーロン達はひとまず寝泊りしている宿屋に戻ることにした。
すぐにギルドに寄って、チーム名の変更をしてもいいのだが、それよりもアーロンとしては気になることがあった。
そして、それが気になっているのはアーロンだけではなかった。
「アーロン、あの…。」
「大剣よりもいい得物、ってもしかして。」
声を掛けてきたのは、リュディとアストだった。
一度、盾を貸したことのあるリュディと連携のために周囲を見ていることが多く、観察眼に優れているアスト、正直あの話をされた時点で気づかれている可能性は高い二人だった。
ミコトは多分気が付いてはいるが、あえて口に出してこない。
ソーヤはそこまで周囲の人間の機微には敏感ではないことが多いから、恐らく気づいてはいない。
フィーも、妖精の相手が手いっぱいでそこまで気を回していることができないだろう。
「あぁ、それで…確かめたいことがあるから、リュディ、一度盾を貸してほしい。」
「はい、もちろんです。」
リュディは快く、自室から盾を持ってきて、アーロンに渡す。
アーロンはそれを持ち、足早に訓練場へと行く。
宿屋から訓練場は比較的近い位置にあるため、逸る気持ちのまま小走りで向かった。
たどり着くころには息が多少乱れていたが、それもいい準備運動のようなものだった。
大剣とは持ち手が違うため、やや勝手は違うが重さや基本的に力を入れるところだったり、振り回すときに使う筋肉にはあまり差がないため、あまり扱ったことのない得物ではあるが、難なく使えそうだった。
「ふっ、ほっ…。」
「……アーロン、それは。」
リュディが、気を遣うようにそう声を掛けてくる。
だが、それにはすぐに答えずに、もう一度、と確かめるように盾を構える。
大剣を振るうよりもしっくりとくる。
それも、思った以上に。
「うん、これだ、と思う。」
盾の持ち手を握りなおし、そういう。
「アーロンの戦い方は基本的に他のメンバーを守る立ち位置が多い、だから盾を武器として持っていても、今まで通りの戦い方ができる。」
「多分色々スムーズにはなると思うよ?アーロンの攻守のタイミング切り替えによっては後衛の防御が間に合わなかったりもしたわけだから、これから防衛に専念、ってなるんだったら、こっちもこっちである程度連携がとりやすい。」
アストとミコトは今までのアーロンの戦い方から、アーロンの持つ武器を盾に変える、というのに特に反対をしていない、というよりは推奨しているようにも思えた。
それに対して、ソーヤは。
「け、けど…その、大剣は。」
ソーヤの言いたいこともわかる。
今まで初心者向けでもなんでもない、小さい頃から使い続けるには負担の大きい大剣を使い続けていたこだわり。
父への憧れはどうすればいいのか、ということだ。
ずっと父のような仲間を守り、勇ましく戦場を駆けて、蹴散らしていくような。
そんな大剣使いになりたいと思っていた。
だが、そもそもとして、似たようなスキルを持っていたとしても詳細が違う異常、全く同じ戦い方はできないし、アーロンは、父のセスと同じ存在ではない。
そのことを子供の憧れというものでずるずると引きずって今に至るだけだ。
そろそろ、一度しっかりと自分のことを考えて、どうするのかを決めなければいけないのだ。
「この大剣を捨てるわけじゃない。」
トレヴィオの村を出てからずっと一緒に旅をしてきた、相棒ともいえるような存在。
手放すのではなく、新しく形を作り直す、という形でまたともに戦えるようにしたい。
「そうとなったら、良い鍛冶屋を見つけないとなぁ。」
ミコトの言葉に全員が頷いた。