13-17-6-12
ミッシャの憧れと経験だけで今までやってきていた、その言葉に心当たりしかなかった。
元々アーロンが大剣を使いたがった理由は父親のセスが大剣を使っていたからだ。
その戦い方や、扱いかたを幼いころからずっと見てきた。
その姿を見て、どんな過酷な訓練があろうと、やるべきことがやまほどあろうと、幼い頃から母親や弟と離れる必要があるとしても。
こうなりたい、と思ってしまった。
そんな憧れを叶えて、今まで続けてきた。
容易に割り切れることではなかった。
「多分、もう本人はある程度、気づいてるかもだけどさァ?」
ミッシャの言葉に思わずうっ、と言葉を詰まらせる。
大剣の使用感に違和感を覚えていることもそうだし、もしかしたらあっていないのかもしれない、ということも見抜かれていた。
人の心の中、考えや思考、果ては記憶まですべて見通す力でもあるんじゃないか、と疑いたくなるほどの正確さ。
噂の神の寵児というのはこんなこともできるのか、と思わずため息をついてしまう。
「…あー、でも今はそれ関係ないんだっけェ。」
「ん?あぁ…アーロンの武器の向き不向きもまぁそれなりに重要なことではあるけれど…、今はチーム名の傾向を決める、って話…だったよな?」
「う、うん!」
ミッシャが唐突にそのようにして話題を反らす。
それにアストとフィーも率先してこういう話題だったはず、と誘導をする。
恐らくアーロンの身体がこわばったのを感じ取ったのだろう。
アストとフィーに関してはアーロンの身体に触れてはいないが、観察眼が高いところもあるし、なによりミッシャとの付き合いが長いためか、どうしてこういうことを言い出したのか、というのにはやく反応することができたのだろう。
「あー、そうそう、チーム名チーム名…んっとねェ。」
ミッシャは場を持たすかのようにそうゆっくりと間延びするように、呟く。
そのあと、少しの沈黙があってから、ミッシャから少しちょっとした質問をいくつかされて、またミッシャは誰にも聞き取れないような小さな声で何かをもぞもぞと呟く。
おそらく自分の頭を整理するために出されただけの言葉なので、聞き返すだけ野暮なのだろう。
聞こえなかった、気づかなかったことにして黙ってその流れを見守ることにする。
「ふうん、そっか…アードカーク。」
ミッシャはアーロンの出身地をやけに気にするように何度もつぶやいていた。
「ソーヤ君と一緒に暮らしてたって町はァ?」
「そっちはトレヴィオ、まぁよくある田舎町かな。」
「トレヴィオ、トレヴィオ……あぁでも流通とかにはそこそこ重要なポイントだったりするよねェ。」
ミッシャはトレヴィオのことも多少しっていたのか、そういう。
「うーん、そうだねェ、ある程度、候補は出来たとは思うよォ。」
ミッシャはそういいながらずっと掴んでいたアーロンの両手を離す。
少し手汗をかいてしまった手のひらをお手拭きで軽くぬぐって、ミッシャの話の続きをまつ。
「アードカークには教会があるでしょォ?勇者の巡礼の地とかさァ、そういうの。」
「ん、あーうん。」
あまりにも昔のことだからもはや外観や、細かい部屋割りなどは忘れてしまっているし、今行ってみると多少変わってしまっているかもしれないが、確かに、特別な教会はあった。
随分前にミコトとダンジョンに一緒に潜ったときにも話題に出したような記憶があり、なんとなく懐かしいものを感じる。
「あそこさァ、確かあまり表向きじゃないけど神鳥を奉ってるんだよねェ。」
「神鳥?」
「そ、勇者の旅に最初からついていっていって伝書鳩みたいな役割を果たしたりした鳥がね、いたのさァ。」
ミッシャは教会でそういった勉強をしていたようで、少し思い出すのに苦戦しつつも知識を絞り出すようにしてそう教えてくれる。
「名前はァ…あーえっと。」
こめかみのあたりを人差し指でトントンしながら、目を閉じて必死に思い出そうとしている。
その人間染みた行動を見ていると、神の寵児ともてはやされているミッシャも人間の子で、昔に覚えた知識を思い出そうとするのもこんな風になるんだな、と思うとホッとする。
見た目や、言動、それに浮世離れした回復スキルの使い手、それだけで同じ人なのかどうか若干疑問に思ってしまうが。
神の寵児、などともてはやしているのは人間の勝手で、彼自身は人と同じ待遇を望んでいるだけのただの珍しいスキル保持者なんだ、と実感する。
そう思っているとミッシャはあぁ!と少し大き目の声を出して手のひらをポンッと叩く。
どうやら思い出せたようだった。
「そうそうウェントゥスだァ。」
「ヴェーチェル?……そんな名前だったか…?」
「教会で正式なのはヴェーチェル、ただ読み方の違い割と地域差あるからねェ、ヴィエーチルって読む所もあるよぉ。」
「そういうものか…。」
「ヴェーチェルは白い羽になっがい尾羽、頭には触覚みたいに一本碧色の羽を生やした賢い鳥で、伝書鳩としても優秀なのはそうなんだけどォ……仲間を増やすのが得意なのさァ。」
「仲間を?」
「そォ、ヴェーチェルの一番の特技は人間だろうが動物だろうが間に入ることで自分の味方にすることができるんだァ。」
その話はあまり聞いたことのないものだった。
そもそも、勇者一行に鳥が付いていったことは割と知られてはいるが、その鳥がアードカークの教会に奉られている、ということは地元に住んでいたアーロンも知らなかったことだし。
ましてや神鳥として扱われていることや、その功績についてはまったく知ることがなかった。
「勇者たちの旅を円滑に進めるための仲介人…いや仲介鳥、ってところかなァ、見たところソーヤ君もミコト君もわりと癖の強い人だと思ったからねェ、こういう人を仲間に引き入れることのできるっていうのは割と似てるんじゃなィ?」
神鳥と一緒のように語られると、多少照れてしまうが、妙にアスト達が納得したような声を漏らしている。
「あー、そういわれるとなぁ。」
「ふふ、えぇそうかも、しれないですね。」
「アストもリュディって人も、結構な曲者だからねェ君という人に説得されて、仲間になる、それに一つ所に留まらずにいろんなところを旅をしている…ヴェーチェルも一説では渡り鳥、って聞くからさァ、きっと良いと思うよ。」




