13-17-6-9
そこからの話は穏やかなものだった。
ミッシャのわずかな記憶で語られる母の話。
ソーヤの父親とミッシャの母親との共通点。
思わぬところで思わぬ人物との血のつながりを発見したソーヤは、まだ、困惑はしているし、若干の警戒心も残っているが、それ以上に楽しそうだった。
今まで、このチームの中ではソーヤの両親のことを知っているのはアーロンだけだった。
そして今思うと、ソーヤ夫妻が存命だった頃に一緒だった時間というのは本当にわずかな時間のみで。
他愛のないかつての生活の様子を語らうには思い出が少なすぎた。
それどころか、その話を会話が引き金となって、あの最期の別れの日を思い出してしまう。
それはソーヤにも、アーロンにとっても精神的にきついものがあったため、自然と話題を避けるようになっていた。
それからは何となくソーヤ夫妻のはなしはタブーとなってしまった。
そうしたほうが、そのあとからのアーロン達との生活が楽になるから。
心のケアをできないで、この数年を過ごしてきてしまった。
だが、今になってそれと向き合うことになった。
ある程度、ソーヤとアーロンの中でも整理ができた。
現実を、受け止めて、その先に進む準備ができた、というのかもしれない。
とにかく、今ソーヤは過去最大のトラウマを受け止めれるよになるかもしれない、それが重要だった。
それが受け止められれば、もしかすると町の外では異常なほど睡眠をとらないこと、休息がとれない状態であることがある程度改善するかもしれない。
あわよくば、ソーヤの過眠…人が起こしに行かないと、いや起こしに行ってもしばらくは眠り続けてしまう異常な…もしかすると町の外で睡眠しない、出来ない分をそこで補っているのかもしれにないが、それもなんとかなるかもしれない。
毎朝起こしに行っているアーロンにとっては割と重要なことだ。
……とは言っても、主に話が盛り上がっているのは神の寵児の話やその来歴に興味津々なミコトとミッシャの悪友的なポジションであるアストで、ソーヤはその話に黙って聞き入っていて、たまにコクン、と頷いたり、へぇ、と声を漏らす程度だ。
ソーヤは元々あまり口数も多い方ではないし、今はまだミッシャに人見知りをしているところもあるから、トラウマや苦手な話題、等を加味してもまぁ打倒な反応とはいえる。
出来れば、もう少し自分から話をしたりするといいのだろうが。
今はきっとそれは高望みなのだろう。
少なくとも数時間でどうこうなるような問題ではないことは確かだ。
そもそもその程度の時間でどうにかなるようなことならとっくに解決しているだろう。
……ミッシャが居なければ、きっとずっと話題にも出さないようなことではあったが。
「アーロン。」
うーん、これからどうしようか、などと考えていると、リュディがこそ、と小さな声で話しかけてきた。
リュディの表情からそんな深刻そうなことではないだろうから、きっとミッシャの正体が周囲にばれたとかそういうことではないだろう、と推測はできた。
「ん?なんだ?」
だが、一応周囲に視線を走らせてから話を聞く。
確認しても、やっぱり周囲の様子は変わっていない、全員がそれぞれ食事を楽しんでいるように見える。
……食事が終わった後もあまりここを長時間占拠しているとお店の人にも悪いので、もう少ししたら追加注文でもして話に花を咲かせてもらいつつ、地味な延長を試みようと考える。
その時は全員でつまめるような軽食がいいだろうか、この店に何かいいものはあっただろうか…と思いだそうとしたところで、リュディの言葉が聞こえた。
「結局、チーム名は決まったのですか?」
メニュー表を取ろうとして、そのままピシリッと石像になったかのように固まる。
そういえばそうだった。
チーム名について考えないといけないんだった、と顔が引きつる。
「……あー……。」
「…まだ、のようですね。」
アーロンのその行動や表情で察したらしく、リュディは少し困ったような表情をして、そういう。
その言葉にアーロンはただ小さく頷いた。
「やっぱ俺に名前決めるの難しいような気がするんだよなぁ…。」
「あまりにも変な名前とかではなければ…全員それなりに納得するかと思いますよ?」
「そうなんだけどさぁ…。」
正直、全員から信頼を得ているから、このチームのリーダーを任されている、という自覚はあるし、そんなリーダーにチームの名前を付けてほしい、ある程度どのような名前でも許される、というのもなんとなくはわかっている。
だが、だからこそ、困っている。
選択肢が多すぎるとか、急に自由にしていい、と言われたあとの困惑に近い。
どうしたらいいのか、わからないのだ。
図書館やらに行って、色々語源を調べたり、他のチームの名前からヒントを得たりもするがどうにもしっくりとこない。
いろんな人と話をしていいアイデアでも浮かばないか、とも思ったが、そうそう使えそうなアイデアは得れそうにもなかった。
「なんというか、どういうチームなのか、どういう働きをするのか…って色々考えては見てるけど…ほら、このチームって俺が好きな人集めて勧誘して助けてもらってる、みたいなチームじゃないか。」
「あなたの人望があってこそですよ。」
「あぁそういわれると嬉しいんだけどさ。」
リュディの言葉に嘘偽りはない、だからアーロンもそれには笑顔で返す。
「だからこそ、全員の活動がバラバラなことあるだろ?」
「えぇ、そうですね…。」
そう、チームという形を取っているのだが、一緒に居る時間が長いかと言われると実はあまりそうでもないことも多い。
その別行動が多いのはミコトで、基本的にはダンジョンの調査に行きたがったり、近くの町で興味深い資料が見つかった、とかいう話を聞くと、一言言った後で飛び出していくようなことが多い。
そして調査の際はチームメンバーの1~2人ほど連れていくことが多い。
あとは妖精の愛し子であるフィーが時折妖精の機嫌を損ねないように相手をしていることも多くて、その相手をしている間は割と依頼どころではなかったりするので、対応に慣れているアストが付いて別行動、ということも多い。
リュディは基本的に別行動はそこまで多くはないが、苦手な部類の依頼、なおかつ人数制限がかけられている場合は積極的に参加をすることはないので、自然の離れてしまうこともある。
アーロンの行動がほとんどイコール関係のようなものなので、アーロン自体がチームとは別行動、というのはない。
ソーヤは基本的にアーロンの居る方にくるので、必然的にチーム行動が多くなる。
てんでバラバラなのだ、このチームは。
「何悩んでるのォ?」
うんうんと悩んでいると、ミッシャの目に付いたのか、そう声を掛けられた。