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約束のアポストル  作者: 飯綱 阿紫
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11-15-5-2

休憩所の木の上、そこにはさっき感じた通りソーヤがいた。

太い枝に体を預けてうまくバランスをとって眠りこけている。

てを伸ばしても、ジャンプしても届かない位置にいるため、アーロンは顎に手を当ててふむ、と考える。

足元にはちょうどいい小枝が落ちている。

それを拾い上げて、ソーヤとの距離をはかる。

そして

「そぉい!」

掛け声とともにソーヤのいる木の枝にむかって投げる。

当てたのは小枝でもそこそこの威力を持ったそれは枝を、木を微かに揺らした。

「…あ、アーロン」

「あ、じゃねぇよそろそろ昼だし飯がてら依頼探しでもするぞ。」

まだ夢うつつなのかソーヤは曖昧に返事をしながら目を擦りつつ、ぼんやりと返事をした。

昼食をどこでとるかを悩みはしたが結局いつもお世話になってる場所に向かうことにした。

「いらっしゃいませ~、ってあら、二人とも今日も来てくれたんだ。」

「今日も元気だなアリス。」

「こんにちは。」

扉を開くとほぼ同時に元気で明るい声が響く。

亜麻色の髪を腰まで長く伸ばし、後ろでみつあみにしている彼女はアリスというおそらくこの町一番の美人でアーロン達の通っている食堂の看板娘だ、

「二人も怪我はなさそうでよかった、どうぞ、席に案内するわ。」

案内されるがままに席につき、すっかり覚えてしまったメニューには目を通さずに、すでに決めていたものをアリスに伝える。

「ソーヤはどうするんだ?」

「…えっと。」

アーロンは先に決めていたが、ソーヤは特に考えていなかったらしくメニューをぼんやりと眺めている。

「今日はおいしい白身のお魚が入ってるからフライとかがいいんじゃないかしら。」

見かねたアリスが今日のおすすめを教えれくれて、ソーヤは少しだけ迷った素振りを見せたが結局他に食べたいものも思いつかなかったのだろう、それを注文していた。

「わかった、じゃあちょっとまっててね。」

注文を受けてアリスは微笑みながらキッチンのほうへと向かっていった。

「…なぁ、ソーヤ。」

「?なに?」

机の上に備えついている水を注いで飲むソーヤに話かける。

ソーヤは何も考えてなさそうな顔でこちらに視線を向けた。

「アリスのこと、なんもないのか?」

「…?うん。」

質問の意図を理解していないようで、ソーヤは小首をかしげて返答をする。

この町一番の美人と評判のアリス、本来なら数多の異性から交際の申し込みが来るであろうに、この町に住む者たちは、それを一切しない。

それは、そのアリスは昔からフェリックス・ソーヤのことを思い続けていることを知っているからだ。

だが、その事実に気づいていないソーヤはアリスのことをただの幼馴染の一人程度にしか認識していない。

こうして足しげくこの食堂に通ってるのもアリスからの恋愛相談と、自分にできる最大限の協力体制のつもりなのだが。

とうの本人がこんな様子ではいつまでたってもこの恋が実ることはないだろう。

たまに休日がかぶると何か用事を作ってアリスと過ごして、アーロンは一人で別の用事を作り、二人きりにしたりもするのになぁ、などと今までよかれと思ってしてきたことを思い出して、少し脱力する。

よっぽど鈍感か、気づいていて、無視を決め込んでいるのか…。

おそらく前者であろうが、それほどにソーヤはアリスのアプローチに気づいていない。

「お待たせ、まずアーロンのハンバーグ定食ね。」

そう思いふけっていると、アリスが出来立ての料理を両手に持ちながらやってきた。

思った以上に考え込んでいたみたいで、周りを見ると知らない間に案内されている人が増えていた。

「おう、ありがとな。」

「で、こっちはソーヤのね。」

「うん、ありがとう。」

二人に食事を運び終えると、アリスはすぐに別の席の人に呼ばれてその場を立ち去った。

とりあえず、アリスへのフォローはまた後で考えることにしてアーロンは食事に集中することにした。

ソーヤも、特に気にしてない様子ですでにおすすめされた白身魚のフライを食べ始めている。


いつも通りおいしい食事を終わらせた二人は食堂を出て、冒険者ギルドへと足を運ぶ。

冒険者ギルドはフィールドにいるモンスターやダンジョン内にいるエネミーを倒す者たちや、居住を持たず旅をしている人達が身分を証明するものとして所属していたりするもので、アーロンとソーヤは前者、フィールド系の依頼を受けて退治することを専門としている。

と、いうのもダンジョン内はフィールドと違いまだ危険が多く、父であるセスと教官にもう少し経験を積んでからのほうがいい、と言われているためだ。

「さて、なんかいいもんあるかな~。」

そう呟きをこぼしながらアーロンとソーヤはギルドの依頼掲示板の前へと行く。

一枚一枚確認をして、ようやく自分たちの実力でもなんとかなりそうなものを見つけ出す。

「フォレストウルフの素材3体分の納品だってよ、これならできそうじゃないか?」

「うん、頑張ろう。」

じゃあ、決まりだな、と二人でうなづきあって、その依頼用紙を掲示板からはがして、ギルドの受付に持っていく。

受付で依頼の契約をして、そのままギルドを出る。

所持品のチェックを行って、足りない分をイザークの店で買い足す。

そんないつものルーティーンを行って、二人は町の外へと続く門の前に立つ。

あの時、ソーヤ夫妻を見送った門だ。

もう何年も経つし、何度もこの門をくぐったが、見かけるたびに、通るたびにあの日のことがよみがえってしまう。

そんな苦い気持ちを隠して、それを悟らせないように、気丈に振舞う。

「んじゃ、行くか。」

背負った大剣を抜いて、肩に担ぐようにして持つ。

「うん。」

それに習って、ソーヤも弓をいつでも使えるように準備をして、矢筒の位置も調整する。

この門の外では何があってもおかしくない。

それこそ二人のように不慮の何かが起きてあっけなく死んでしまうかもしれない。

だからこそ、出る前から警戒は最大限、できる準備は入念に行う。

お互いの準備が終わったこと、いつでも戦闘に対応できるようになったことを確認して、二人は外へと足を運ぶ。

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