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目的地に着くと、すでに他のメンバーはそろっていて、談笑をしているところだった。
「悪い、遅くなった。」
アーロンがそう言いながら駆け寄ると、各々安堵の声や、仲間うちだからこそ許されるような緩い皮肉を言って出迎えてくれる。
そうして、アストや、ソーヤもいる事を目で確認して…。
ミッシャに眼が行った。
「やァ。」
ミッシャは見られることに慣れているのか、その視線を物ともせず、涼し気に笑ってこたえる。
一番最初に反応を示したのは…リュディだった。
「…な!」
思わず大きな声で叫びそうになったのを、リュディは自身の手で押さえることで防ぐ。
だが、その目は大きく見開かれていて、明らかに動揺している。
リュディは産まれが元々騎士家系の貴族だったが故に、こういう情報を手に入れやすかったのかもしれない。
もし、リュディが今とは別の道を行っていて、順当に騎士の道を歩んでいたとしたら、彼を護衛し、逃げた場合は探し回ることをしていたかもしれない相手。
恐らく、守るべき人だ、と口酸っぱく家で教えられて、写真等もさんざんみて、資料も閲覧したのだろう。
そんな対象がこんなところでフラリとやってきて驚くのは無理もない。
だと、いうのに一瞬でここで叫んでしまったら…、という思考も働いたのだろう。
確かにここで叫んで、ミッシャの存在がばれると何かと不都合がある。
正直リュディ自身がそれに気づいて自主的に止めてなかったら、口をふさぐのが間に合わなかったので、彼の頭の回転の速さには助かった。
続いてフィー。
「…んー?あ!もしかして、ミッシャさんだ。」
「フィー、お久しぶりだねェ、まだその子らと仲良くできてるとは感心だァ。」
「フフッ、みんなのおかげで楽しい時間を過ごせてるから。」
「それは良い、いっぱいいろんなことをしていくと良いさァ。」
親し気に話す二人、アストとの知り合いであったみたいだし、フィーとも知り合いというのもそう不自然ではない。
それに、ミッシャも心なしかフィーの相手の時は、アストに対してとは違って、悪だくみをするようなことはせず、純粋にまるでもう一人の兄のように心を砕いているように思える。
フィーのもつ純粋さや生粋の弟属性、基本的に悪いことの考えられない性格に、妖精の愛し子…そういった要素が、彼をそうさせるのかもしれない。
かくいうアーロンも下に一人弟がいる身、ソーヤの世話を焼いているときほどではないが、フィーに対して多少緩く判定してしまうこともしばしばある。
フィーには、もしかするとそういう才能があるのかもしれない。
などと考えていると、一拍遅れて、ミコトがあぁ!とちょっと大きめに納得の声を上げる。
「その髪にその目、なるほどなるほど…まさかお目にかかれるとはな~。」
楽し気に笑って、ミッシャの容姿を見てミコトは納得をしていた。
そういえば、アーロンとソーヤがミッシャの話を一番最初に聞いたのはミコトからだった。
まだだいぶ幼かった頃、トレヴィオのダンジョンで…。
少し懐かしいものを思い出して、しまう。
そこでソーヤ以外のミッシャという回復系スキルの使い手の存在を知って、当時はすごく胸をなでおろしていた。
ソーヤが回復スキルの使い手だとバレたわけではない、と。
ミコトは研究者だから、色々な情報に精通している。
そのほとんどはダンジョンに関するものだが、他にもスキルの事についても詳しいので、恐らくたまに資料だったりそういう情報端末を得て、知識として吸収しているのだろう。
ただ、知識として頭にいれているだけのことで、実際の人物と出会ったことはない。
ミッシャは雑誌とかに乗っていても、その肌の性質のせいで日の下にはなかなか姿を現さないし、姿を見せたとしても、フードを深くかぶって、顔なんて見えない。
室内でも薄暗いほとんど日の光が入ってこないようなところでの写真ばかりなので、性格な顔立ち、というのはわからない。
だからこそ、知識と実際のミッシャ自身を見たときの特徴との照らし合わせて、一致しているかどうかの評価をした。
……そのため反応が少し遅れたのだろう。
「フフ~、ボクは有名だねェ。」
「当たり前だろ。」
各々の反応にミッシャは楽し気に笑って、そのように言って。
アストがやや強めに脇腹に肘を入れながらツッコミをする。
その手慣れたやり取りがより、あぁ二人は旧知の仲で、かなり仲良しなんだなぁと思わせた。
「とりあえず何か食べようぜ…。」
「うん…。」
アーロンがそのように言えば、ソーヤは頷いてそう返事をする。
「は、はい。えっと、そうですね…神子さ…ミ…え、っと。」
リュディは突然の出来事に加え、立場が上の存在をお忍びでどのように呼ぶかしどろもどろになっている。
「フィー、そっち詰めてくれ、でミッシャも中だ。」
「はーい。」
「押さないでくれよォ。」
アストは慣れた様子でミッシャを席に着かせる。
「いやー…いったいどこで拾ってきたんだよ、あんな大物…。」
ミコトはアーロンに対して呆れ笑いのようなものをして水に口をつける。
「俺が拾ったわけじゃ…ないんだけどな…?」
アーロンは多少の誤解をのみこみつつ、そう言い同じように席に着く。
「アーロンが拾ったわけじゃないなら…アストか?知り合いっぽいし。」
「俺は一回ミッシャと二人で別の所に食事に行くか、とは思ったぞ、一応。」
「?んー、ってなると…?」
ミコトの視線が自然とソーヤのほうへと移る。
「…僕は…その…。」
視線に気が付いたソーヤは少し困ったように眉を寄せて、ポソポソと呟く。
確かにソーヤが何かをした、というわけではない。
ミッシャのほうがソーヤに興味をいだいて、それで同行を望んだ。
いったい、ミッシャのいう同じ、というのはなんなのか。
もしかすると回復スキルの使い手というのは同じようなスキルの所持者を見抜くのだろうか…。
などという考えも浮かんだが、それはないはず。
それが適用するならば、ソーヤにも多少たりともそういう能力が発現するはずだ。
しかもミッシャは完全なる回復スキルの特化。
そのような探知系スキルはないはずだ、噂によれば、なのだが。
「まぁそれは飯食いながらでもいいか、何にしような。」
アーロンやソーヤの困惑を知ってか知らずか、ミコトは話を切り上げて店のメニュー表に視線を落とした。