13-17-5-20
陣形を変えていく。
リュディガーとアストが一度戦線から離脱してもいいように場面を整える。
フィーも、大剣を保持する程度ならそこまで集中力を割かなくていいのか、簡単な指示なら妖精に出して攻撃に加われるようだった。
アーロンは宣言通り、防戦メインだ。
リュディガーから借りている盾が存外使いやすく苦ではない。
むしろ、変に手に馴染んでいる気がする。
これなら、今まで以上に守りを固めることができるに違いないと、確信できるほどまで、しっくりきている。
自分専用に作ったオーダーメイドの武器でもないのに…。
ソーヤは隙を狙って相手の急所になる部分を攻撃して、少しでもヘイトを稼ごうとしている。
実際、そういう存在がいるのが煩わしいのか、ウガルルは割と高頻度でソーヤを蹴散らすための動きをすることがある。
だが、いくら早く動けるとはいってもその動きはこの戦いの中でいくらか見て覚えたし、距離があるため、予備動作によって早めの回避行動がとれるようになった。
そんなソーヤにウガルルの攻撃は当たらない。
仮に危なかったとしても、今はアーロンの守りもあって攻撃はソーヤにまで届かない。
そして、ミコトもウガルルの前に躍り出て視界内に入ったかと思えば、死角になりそうなところへと移動し、変則的な行動をして攻撃をしかけたりしている。
あの動きは素でやると相当体力を消耗するし、長くは続かないはずだが、ミコトはうまいこと自分の得意なスキルと体術を組み合わせて体力を無駄に消耗することなく、縦横無尽に動いている。
リュディガーが、どうやってとどめを指すのか、まだわからないが。
これならばどうにかできるはず。
どうにかリュディガーが渾身の一撃を放てるようにサポートをする。
そう、決意を新たにしたところで。
「よし、行くぞ…!」
「えぇ…。」
後方で何か話していた二人…リュディガーとアストがそう言って、離れる。
「アーロン!リュディガーについて防御を!ミコト、俺の補佐を頼む、ソーヤこっちに!」
アストの指示に従い、その通りに動く。
アーロンはリュディガーの方へ向かい、彼に向かう攻撃をすべて弾く。
ウガルルは、リュディガーの脅威に気が付いているのか、それともただただ視界に移ったことに腹が立ったのか、リュディガーとアーロンのことを執拗に狙ってきた。
正直こっちが狙われてると明確にわかっているのは楽だ。
しかもリュディガーは恐怖で変な行動をしたりしないし、パニックを起こして逃げたりもしない分、やりやすい。
と、いうよりも同じタンクという役割をやっていた分、どうしたら相手に負担が少ないのか、というのはわかっているから、そうしているのかもしれないが…。
何はともあれ、二人を狙ってきている、という事実が今は助かった。
視界の端で、アストがウガルルの死角で銃を構えている様子が見える。
きっと無効化の弾の準備だろう。
片足の膝を床に着け、絶対に外さないように、とウガルルを見据えてる。
ソーヤは、なぜかアストの肩に手を置いて難しい顔をしながら、視線はアストの持つ銃へと向かっていた。
何をしているんだろうか、と思っていると、背後にいたリュディガーが教えてくれた。
「ソーヤさんは、射撃物を正確に目的の場所へと到達させるスキルがあるようでしたので…それをアストさんが借りようとしてるんです。」
確かに、そうすればソーヤの弓矢のように決して外すことのない、無効化の弾が撃てるわけだ。
もしかして難しい顔をしているのは今まで自分が無意識的に使っていたスキルを意識的に使用しようとして、しかも自分が扱うわけじゃない、さらにいえば仕組みが良くわかっていない銃、という武器に効果を反映させようとしているからだろうか…。
「…よし!いいぞ!」
アストの声を合図にミコトがウガルルの背後から急に切りつけを行い、ウガルルの気がそちらに逸れるまで続ける。
「フィー!リュディガーに軽量化!」
「う、うん!」
アストの言葉に弾かれたようにフィーがすぐに妖精を通して術を発動させる。
緑色のちいさな光がふわりとリュディガーの周りを飛んで、吸い込まれて消えていく。
「アーロン…飛ばせ!」
一瞬、何を言っているのかがわからなかった。
だが、全員がやっていたことを見て、すぐに理解する。
ウガルルの気がミコトに逸れている今なら、盾を構えて防御の姿勢を取っていなくても問題ない。
ウガルルがもし本当にリュディガーを脅威ととらえていたならば、視界に入る以上狙い続ける。
そして、ウガルルの知能からすれば。
人は上からやってくる、なんてことは考えないはず。
……自身がやっていたことのはずなのに。
盾を斜めに自身に立てかけるように持ちなおし、腰を低く構える。
まるで投石台になった気分だ。
力加減やどこまで上に飛ばせばいいのか、前に飛ばす必要性は、と色々考えることはあったが…。
それの答えが出る前に
「リュディガー!」
託すように、名前を呼んでいた。
リュディガーはそうなることがわかっていたかのように、少しだけ離れたあと、助走をつけてこちらに来て。
盾に飛び乗る。
軽量化の術がかかっているからか、それほど重さは感じなかった。
だが、確実に人の乗った、という感覚を感じて、アーロンはそれを弾き上げる。
ふわり、と空中に飛び出したリュディガーは思ったよりも冷静で、うまいこと身体を回すことで、天井に足を付けた。
まるで、地面かのように。
ウガルルは、まだミコトに気が向いている。
そこに
「くらえ!」
正確無比なアストの無効化の弾が撃ちこまれる。
大きな悲鳴を上げてウガルルが、その風の防御を解く。
「フィー!加重!」
「はい!」
再び、アストがフィーに指示を出す。
タイミングは無効化の弾が着弾したか、してないか、という一瞬で。
すぐに術が発動し、再びリュディガーに緑色の光が吸い込まれていく。
そして
「…これで…!」
リュディガーが天井を蹴る。
ウガルルに向かって落ちていく。
自身の体重、鎧の重さ、武器の重さ、そして天井から落ち、蹴ったことによりスピードを上げ、重さをさらに足した状態での一刺し。
風の防御はない。
その攻撃は深々とウガルルの首に刺さり、血をまき散らす。
ひどい断末魔のような声を上げて、ウガルルは最後の抵抗をする。
ドタドタと首の後ろにいるリュディガーを狙おうとするが上手くいかない。
「おとなしく、しろ!!」
これ以上リュディガーを危険にさらすわけにもいかず、アーロンはすぐにフィーから大剣を受け取り、思いっきり振りかぶって頭を叩く。
バァン!という大きな音を立て、ウガルルは脳震盪を起こしたように倒れ、そして動かなくなった。
ようやく、あの日から恐怖の象徴であった、ウガルルに勝つことが、できたのだ。